北海道新聞 2008年12月22日より転載

時代の肖像

IT活用で可能性拡大

PHOTO:ナミねぇ
神戸市生まれ。著書に「ラッキーウーマン」など。10月に東京事務所を開設、講演で全国を飛び回る多忙の中、貴重な休日は医療施設で暮らす麻紀さんと過ごす

障害者就労支援にIT活用

情報技術(IT)による障害者の就労支援で実績を重ねる社会福祉法人理事長の竹中ナミさん(60)は自身も重度障害者の母。豪快なキャラで魅了しつつ、障害者が誇りをもてる社会実現を訴える。

チャレンジド(障害者)の就労を進めていますね
プロップ・ステーション理事長 竹中 ナミさん(60)

PHOTO:ナミねぇ

「チャレンジド(障害者)を納税者にできる日本」をかけ声に、1991年、神戸で発足したプロップ・ステーションは、情報技術(IT)を活用した就労支援のパイオニアだ。「プロップ」は「支える」の意味。ラグビーの最前線でスクラムを支えるポジション名でもある。竹中さんは、障害者支援の最前線で新たな可能性を広げてきた。


活動の柱は、障害者向けのパソコン指導と、身に付けた技能で在宅でも働けるようにするコーディネート。開拓した仕事を障害者各人の技能や稼働能力によって振り分ける一方、契約はプロップが当事者として結び、納期や価格、セキュリティーなどに責任を負う。

クライアントにはNTT、新日鉄、関西電力、パナソニックなどの大企業や大学、自治体などが含まれ、業務内容もプログラミング、ホームページ作成、データ入力、グラフィックなど多岐にわたる。プロップを介しての仕事を常時行っている人は、今は数十人程度。しかし「仕事さえあれば、できる能力がある方はもっと」だそうだ。

四肢のほとんどが動かなくても、手首で、足の指で、声でもパソコンは操作できる。難病で筋力を失ってもマウスでなら絵が描ける−。「パソコンによって初めて人として生きられる、そうチャレンジドの人は言わはります。誇りを持てるということなんです」

竹中さん自身はITの専門家ではなく、むしろ苦手だそうだ。

「元不良です」。小学生時代から家出を繰り返し、15歳で男性と暮らし始め、高校を除籍されたので学歴は中卒。「でも、不良って世の中のルールを疑い、くそ食らえって生きてく。それで今の私があると思います」

24歳の時に授かった長女麻紀さん(35)に、重度の心身障害があった。そこから新しい生き方が始まった。「麻紀がいることで、私に何ができるだろう」。必死で、前向きに考えた。医療、福祉、障害児教育を独学し、手話や介護、障害児のためのおもちゃライブラリー運営にかかわっていく。その延長に、プロップの設立があった。「だから私は、麻紀のおかげで更生したんです」


「チャレンジド」というのは比較的新しいアメリカの用語。挑戦するチャンスを与えられた人−という意味が込められている。竹中さんは早い時期から、「障害者」に代わる言葉として使い始めた。障害をマイナス視するのではなく、その人ができることに注目する。「そうすれば、眠っている可能性がいっぱい見えてくるじゃないですか」。そして、可能性を生かすための道具や社会システムを考え、実現させていく。麻紀さんが生まれたときのプラス思考は、今も変わらない。

ITはチャレンジドが可能性を発揮しやすい分野だが、それに限られるわけではない。現にプロップは、カタログ販売のフェリシモとの共同事業で、授産所や作業所の産品の販路拡大で実績を挙げている。「スイーツの世界にチャレンジドを送り出そう」と、今年は一流パティシエを講師に迎えた半年間の講習過程も開いた。「要は、指導してくれるプロがいて、やり方と道具と応援するシステムがあれば、チャレンジドはどんな仕事だってできる」。これまでの経験からの確信だ。

「使えるのは口と強心臓」と人々の懐に飛び込み、「ナミねぇ」シンパを企業や政界にも広げる。「チャレンジドも自己投資(負担)を」といった発想が、旧来型福祉の視点から批判されることもある。しかし「目的が一緒なら、いつか連帯できる」と走り続けている。

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