NEW MEDIA 9月号より転載

鼎談 ユニバーサル社会基本法の成立を目指す

元気のない日本に“発想の転換”で元気の源!
「ユニバーサル社会基本法」

自民、公明の両党が議員立法で成立を目指す「ユニバーサル社会基本法」。その考えは、年齢や性別、障害の有無などに係わらず、すべての人が、その個性、能力を十分に生かすことができ、かつ自信と誇りを持つことができる活力に満ちた社会を目指すというもの。
ユニバーサル社会基本法づくりは、2002年2月、社会福祉法人プロップ・ステーション(プロップ)の竹中ナミ理事長が訴える「ユニバーサル社会の実現を」という主張に共感した自民党の野田聖子衆議院議員、公明党の浜四津敏子参議院議員ら与党の女性議員が集まった「与党女性議員政策提言協議会」(略称:女提協)から始まった。
そこで、女提協から中心になって法案化を目指してきた野田聖子議員と浜四津敏子議員、そして竹中ナミ理事長に「ユニバーサル社会基本法の意義」について話し合ってもらった。

(進行・構成:吉井 勇・本誌編集長、写真:石曽根理倫)

 

野田 聖子氏の写真

少子高齢社会はダイバーシティ(多様性)が大事だと話してきましたが、その一つがユニバーサル社会基本法です。


Noda Seiko
聖子

衆議院議員
与党ユニバーサル社会の形成促進検討PT座長

浜四津 敏子氏の写真

女性や高齢者、障害者の能力を生かすために、新たな発想の転換となるユニバーサル社会基本法です。

四津
Hamayotsu Toshiko
敏子

参議院議員
与党ユニバーサル社会の形成促進検討PT副座長

竹中 ナミ氏の写真

ユニバーサル社会基本法は各省の制度や地方自治体の施策を支援する地下水のような役割を果たすもの


Takenaka Nami
ナミ

社会福祉法人プロップ・ステーション理事長

 

やはり時代を動かすのは“おばちゃんパワー”

― 2002年2月から始まったユニバーサル社会を目指す取り組みが、最終段階を迎えています。

竹中ナミ・プロップ理事長 必然の動きや、と思ってます。野田さんは「チャレンジドの力をもっと生かさんともったいない」と言い、浜四津さんは「日本でもアメリカのADA法のようなものが必要」と考えられていたこともあって、3人の思いがバッチリと結び合ったんです。

浜四津敏子・公明党参議院議員 政治家になる前、弁護士をしていたのですが、ある時、雑誌でアメリカがADA法を制定したことを知りました。その後、議員となってプロップを訪問する機会があり、そこで竹中さんの話を聞き、「日本のパトリシア・ライトさん(編集部注:ADA法の生みの親)がいる」と思ったのです。それから一緒にユニバーサル社会実現へ向けて活動してきました。

竹中 ちょっと恥ずかしいなあ(笑)でもうれしいです。どの政党も障害者を弱者として位置づけていましたから、どこも一緒だと私は思っていたんです。そんな中で公明党は、女性議員がベースでおばちゃんパワーがすごい。ある意味、女性問題と障害者問題は根っこが同じだと思うんです。

浜四津 公明党の地方議員3,000名は庶民のネットワークです。全国ですぐに行動できる実行力がありますので、ユニバーサル社会づくりでは大いに力を発揮してもらえます。

― 女性問題と根っこは同じという考えは、一つのポイントです。野田さんは、早い時期から障害のある青年を秘書として活躍してもらっているそうですが。

野田聖子・自民党衆議院議員 22年前に岐阜県議に初当選した時、パソコン通信を使う数少ない議員だったのです。そのパソコン通信を教えてくれたのが、現在、後援会リスト管理を担当してもらっている障害の秘書です。彼が授産施設で働いている時は、ハンガーなどを作って給料が月数千円でした。その一方で、彼はITに詳しいのです。何かおかしい。彼の能力を日本の社会は生かしきれてないと思ったのです。変な言い方かもしれませんが、「こき使えばやれるんですよ、彼らは」(笑)

― その言葉の裏にある野田さんの熱い思い、よくわかります。

ヨコ文字法案が日本の社会に挑戦すること

― 「ユニバーサル社会」という言葉ですが、広く理解されてきていますか。

竹中 ヨコ文字の法案はアカンと指摘されるんです。でも、言葉というのは、その国の文化や思想、哲学などから育まれるものやから、日本語に、「ユニバーサル社会」に代わる的確な言葉がないってことは、そういう文化・哲学がなかったからとも言えます。でも、あえて日本語に置き換えるなら「共生と共助の社会」ということになるかな。

浜四津 先ほどアメリカのADA法に刺激を受けたと言いましたが、ユニバーサル社会基本法が目指す内容は少し違うと考えています。ADA法を日本語に直訳すると、障害者差別禁止法です。日本は憲法14条で、すべて国民は法の下で平等であると謳っています。障害者はもちろん、女性であるということなどで差別されたり、不利益を被ってはならないと憲法で定めているのです。ユニバーサル社会基本法は、単に差別を禁止するのではなく、新たな発想への転換となるものと考えています。

野田 これまで日本の社会は、一軍のメンバーが頑張り、その余分を二軍に分け与えるという考えだったのではないでしょうか。一軍のメンバーは健常者の若い男性で、二軍が女性や高齢者、障害者だったのです。私自身ライフワークである少子化問題から考えると、これからはダイバーシティ、つまり多様性の考え方が必要です。考え方を転換するだけで、これまでにない新たな可能性が見えるのです。二軍メンバーの持つ能力を発揮することで、社会全体が活性してくるのです。

― 一軍メンバーに疲れが見えるこの頃ですから。

竹中 ヨコ文字法案の成立それ自体が挑戦やね。


3月の「ユニバーサル社会基本法の制定を目指す」シンポで来賓挨拶したジョン・シーファー駐日大使を囲み、鳩山由紀夫民主党幹事長(左端)、太田昭宏公明党代表(右端)、基調講演したダイナー・コーエン国防総省CAP理事長(右から2人目)

日本人の心根の優しさはユニバーサル社会にピッタリ

― プロップは、3月に読売新聞と共催で「ユニバーサル社会基本法の制定を目指す」シンポを開催しました。そこで米国防総省のダイナー・コーエン電子調整プログラム(CAP)理事長が基調講演し、「国を前進させたいなら、障害を負った途端に、彼らの能力を生かせなくなる社会にしてはいけない」と述べ、「彼らへの支援のやり方さえわかれば、能力を発揮してもらえる。障害の有無の問題ではなくマネージメントの問題だ」と、刺激的なメッセージを発しました。

浜四津 シンポに参加し、改めてアメリカの取り組みに触発されました。私白身、このシンポに期待することが大きかったので、太田昭宏代表にも「これからの日本社会に重要な会だから」と話し、有無を言わさず連れていきました(笑)。

竹中 さすが浜四津さん。予定になかった太田さんが来られて驚きましたが、同時に非常に高い問題意識をお持ちなんだと感じました。

浜四津 福田内閣の政権合意の項目の一つに、ユニバーサル社会をつくるがあります。これもぜひ、ということで主張して入れてもらったのです。

竹中 このシンポには、野党の民主党から鳩山由紀夫幹事長も挨拶してくれましたし、福田首相もビデオメッセージで熱い思いを語ってくれました。与党も野党も取り組むという姿勢を表明していただいたことが大きな成果でした。ネットで「ユニバーサル社会」を検索すると、急激に意見が増えました。ただ、誤解のあるコメントも多かったのですが……(苦笑)。

野田 私は残念ながら参加できなかったのですが、日本人の心根からしてアメリカよりももっといい社会をつくれると思っています。

竹中 私も同感!

野田 訴訟社会のアメリカですから、差別禁止という法律に意味があるんでしょう。日本人はそもそも優しい気持ちがあふれているので、それが結果として障害者を囲い込んでしまったわけです。気の毒でかわいそうだから守ってあげなくては、ということでした。ユニバーサル社会基本法では、一緒に学び、働くことが当たり前になるという新しい関係づくりへ変えていくのです。私白身、国として目指す方向はスウェーデンかなと考えています。スウェーデンでは、知的障害者がレストランでウエイトレスをやっていますが、その考えの基本に誰もが働くことが当たり前だということがあるのです。働かざるもの食うべからず、です。日本と相通ずる考えでしょ。

元気の源はすべての人の力を引き出すこと

― ユニバーサル社会基本法は概念的な法です。成立して終わりではなく、国民に伝え、どう肉付けしていくかが問われます。

浜四津 法律の制定はゴールではなく、スタートラインなのです。啓蒙活動を通して、豊かで、やさしい品格のある社会を作っていくものです。そのためにも公明党地方議員3,000名の庶民ネットワークを活用し、草の根的に浸透させていきたいと考えています。

野田 雇用のミスマッチが障害者などを取り巻いています。性の達いや年齢、障害に関係なく、一人ひとりの個性が大事にされる社会づくりに向け、自民党の先生方に浸透させていきます。

浜四津 少し厳しい言い方になるかもしれませんが、障害者自身もやってもらって当たり前という甘えがあり、健常者側にはやってあげるという傲慢さもあったのではないでしょうか。そこです、問題は。つまり、「期待されていない」から「期待されている」に転換するための役割が、ユニバーサル社会基本法なのです。

野田 いま労働力不足解消のために外国人1,000万人移住計画が、自民党内で議論されています。私はその前に女性や高齢者、障害者の能力を生かすことが必要で、それが活性化につながると確信しているんです。

竹中 「公共」という言葉を「ほとんど」と解釈する政治や行政サービスからは少数がとりこぼされるので、「公共=多様なみんな」という考えを基本にすべきやと思います。ユニバーサル社会基本法は、各省の制度や地方自治体の施策全体の底を、地下水のように流れるものにできればと考えています。野田さん、浜四津さんがおっしゃるように、これまで期待されることの少なかった人たちの力を引き出すことが、日本を元気にする源なのです。

― 今日は3人の強烈なおばちゃんパワーに押しまくられました。どうもありがとうございます。


5月に開催された与党ユニバーサル社会の形成促進検討PT会合。議員立法化に向けた動きを加速

ページの先頭へ戻る