NEW MEDIA 9月号より転載

超一流パティシエが真剣に教える
菓子作りを通じたチャレンジド就労支援

「神戸スウィーツコンソーシアム」スタート

受講の写真
超一流シェフ八木淳司さんの技に受講生の目が集中する

小麦粉、洋菓子の聖地“神戸”で
チャレンジドもプロを目指す

 小麦粉輸入の埠頭であった神戸港にあるメリケン波止場。「神戸は輸入した小麦粉で作る洋菓子発祥の地としても有名で、スウィーツの聖地です。この神戸から、お菓子作りを通じてチャレンジドの自立・就労を促進するプログラム『神戸スウィーツコンソーシアアム』(KSC)を立ち上げました」と社会福祉法人プロップ・ステーション(以下プロップ)の竹中ナミ理事長は、神戸に拠点を置くプロップならではのプロジェクトを紹介する。

このプロジェクトKSCのねらいは、「チャレンジドを対象にしたパティシエ養成スクールで、超一流のパティシエを講師に、本気でパティシエを目指すチャレンジドに学んでもらうスクール」(竹中理事長)。 KSCは、主催がプロップ、日清製粉(株)、(株)日東商会で、協力企業にモロゾフ(株)、オリエンタル酵母(株)、犬山ハム(株)、石川(株)などが参加し、後援に兵庫県、神戸市の行政も一体となったプロジェクトとなっている。

「障害者の働く作業所では、クッキーやパンづくりが多く行われていますが、その多くがチャリティーで一流のお菓子づくりではありませんでした。私はプロ中のプロから学ぶことで、チャレンジド白身がプロを目指すチャンスとなるような就労プログラムにしていきたいと考えています」と竹中理事長は目標を語る。

それを受けて日東商会の川口淳太郎代表取締役社長は、次のように語る。「弊社は小麦粉を扱う卸業者ですが、これ
まで粉を使っていただく作業所に対しフォローをしてこなかったことに気づきました。兵庫県内には、約600もの作業所がありますが、その1/3に粉を納入しています。業界として当たり前の顧客サービスをして来なかったわけで、このKSCを通じて本当に必要なフォローを実現していきたい」。

 また、スクールの会場を提供した日清製粉の戎民幸常務取締役は、「改築した東灘工場加エセンター内の調理ルームで、日本で初めてとなるチャレンジドのパティシエ養成スクールの開校は、我々自身にとってもチャレンジなことです。協力企業も予想以上の広がりで、業界として注目しています」と期待を語る。

 

真剣に教えるプロ
一言ももらすまいとチャレンジド受講生

 関係者の強い決意と、チャレンジドの熱い期待を集めるKSC。その第1回となる「チャレンジド・プログラムVol.1」が、知的および精神障害者の受講5組を対象に、6月28日から12月までの間に5回開催で始まった。講師は、外国人初のオーストリア政府公認「製菓マイスター」であるモロゾフ(株)テクニカルディレクター八水淳司氏。「プロからみると作業所の菓子づくりは、その種類も少なく、作る環境としても問題が多く、まだまだ未熟な点が多くあります。就労の場、自立のプログラムとして課題は大きいと思います」と、経営課題にまで話は及ぶ。

 日本でも有数なパティシエである八木氏をサポートする助手の二人にも驚く。来年に開かれるパンのワールドカップで日本代表となった神戸市内でレストランとベーカリーを展開するコム・シノワのシェフ西川功晃氏と、ベーカリーコンサルタントとしていくつもの店を立ち上げてきた藤石英之氏。この講師陣に、食関係の専門誌記者が「こんなメンバーは絶対できない組み合わせ、すごい」と驚く。

 「卵白は何個ではなく、グラム数で表します。それは個数だと卵の大きさで違ってくるからです」と基本から解説。最初の実技メニューは「フィナンシェ]。「簡単に作れますが、材料が大事なお菓子です。特にバターが命です」と説明しながら、技を次々に見せる。その匠の一挙を見逃さない受講チャレンジドや付き添いたちの目。受講者たちの実力から八木氏は方針を転換した。2つめのメニューであるオーストリアの菓子「シュトルーデル」づくりは、当初予定ではデモであったが、実技を一部加えたプログラムに変更したのである。「予想以上の実力と理解力があったので、急速変更しました」。

 最後は、受講生、関係者すべてで試食。「おいしいねえ」と味わいながら、八木氏へ次々と質問が出された。

 主催した竹中理事長は、「これまで障害は恥ずかしいこと、悲しいことと考えられてきましたが、今日のプログラムでもわかったように堂々とやっていけるのです。そのための学びの場を用意します」と語り、講習の様子をDVDにして全国の希望者に配布する。さらに「今後はWebなどを通してプログラムを伝えていきます。動画サービスなどの最新システムを活用して、全国津々浦々に情報を提供していきたい」と展望している。

講師の八木氏、助手の西川氏、藤石氏のユニフォームや、受講生のエプロンの胸には「神戸スウィーツコンソーシアム」のやさしいロゴが刺繍されている。このロゴは、チャレンジド絵本作家として注目を集めるくぼりえさんの手によるもの。 12月6日に修了式を迎える。

 

記者会見の写真
記者会見から。(写真右から)日東商会の川口淳太郎社長、講師の八木淳司さん、プロップ・ステーションの竹中ナミ理事長、日清製粉の戎民幸常務取締役、ロゴを描いた絵本作家のくぼりえさん

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