朝日新聞 6月12日より転載

障害者の菓子に競争力

マイスターが講習会
「自信つけて」

 知的・精神障害者に高い技術を身につけてもらおうと、オーストリア政府が認定する「製菓マイスター」の資格を外国人で初めて授与された洋菓子職人、八木淳司(じゅんじ)さん(56)が、洋菓子作りを教えることになった。知的障害のある息子の姿を重ね、障害者の自立を助けたいとの思いからだ。八木さんは「社会の一員として自信をつけてもらうきっかけをつくりたい」と話している。 (根岸拓朗)

 

 障害者を「チャレンジド」(挑戦する使命を与えられた人)ととらえ、自立することを目指す神戸市の社会福祉法人プロップ・ステーションなどが企画。28日に講習会場となる同市東灘区の日清製粉工場で開講式がある。

 東京都出身の八木さんは、東京の洋菓子店や長野・軽井沢のホテル勤務を経て、76年にオーストリアに渡った。ウィーンのホテルなどで修業し、80年、政府が技術と知識を認めた職人に与える製菓マイスターの資格を得た。名古屋市で店を経営した後、05年、神戸市の製菓会社モロゾフに技術顧問として招かれ、商品開発や若手の指導にあたっている。

 三男の悠(ゆうき)君(12)は、軽い知的障害があり、現在は愛知県内の養護学校中学部に通う。言葉数が少なく、小学4年になるまで「お父さん」と呼んでくれなかった。「この子は将来、どうなるだろう」といまも心配だ。

 悠君が成長するほど、障害者が作業所でつくるクッキーなどのお菓子が気になった。形や味が単調で「買ってもらえるだろうか」と疑問だった。「一般の商品と勝負できなければビジネスとして続かない」と思っていた。

 2月、講習会の講師を打診された際、すぐに決めた。製菓学校の生徒やプロの職人向けの講習は何回も経験があるが、障害者向けは初めて。「私だって欧州で言葉が分からないハンディキャップを周囲に助けられた。やる気がある人を助けたい」と話す。

 講座は6月28日から12月まで5回開かれ、受講料計2万円。希望者はプロップ・ステーション(078・845・2263)へ。

八木淳司さんの写真
知的・精神障害者を指導することとなった八木淳司さん=神戸市中央区、西畑志郎撮影

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