道21世紀新聞 Route Press 21st. 6月号より転載

ユニバーサル社会の実現へ

都内でシンポジウム

 ユニバーサル社会(共生・共助社会)への理解を深め「ユニバーサル社会基本法」の制定を目指そう ー。今春、都内のホテルで「ユニバーサル社会の実現をめざすシンポジウム」が開かれ、国会議員や官僚、企業リーダー、チャレンジド(障害者)、NPO関係者ら250人が参加。介助者や手話通訳者、介護犬、聴導犬を同伴した参加者の姿も多かった。


竹中 ナミ氏

 社会福祉法人プロップ・ステーション(竹中ナミ理事長)と読売新聞東京本社の共催。福田首相もビデオメッセージを寄せ、シーファー駐日米大使や太田昭宏公明党代表、民主党の鳩山由紀夫幹事長も会場に駆けつけて挨拶。「政局はネジレているがユニバーサル社会の実現にネジレなし」と、超党派で爽現に取り組むことを誓い合った。

 米国防総省CAP(コンピューター・電子調整プログラム)のダイナー・コーエン理事長が基調講演の後、プロップ・ステーションの竹中ナミ理事長の司会でシンポジウム。ダイナー・コーエンさん▽石破茂防衛相▽大平光代弁護士▽浜四津敏子参院議員▽紀陸孝日本経団連専務理事がパネラーとなり、ユニバーサル社会に対する思い、仕事や生活の中でその考え方をどう生かそうと思っているか、などを話し合った。

 最後に、竹中さんが「ユニバーサル社会基本法の制定に向けて「元気な日本を創ろう」と大会宣言を読み上げ採択した。

福田首相の写真
福田首相もビデオメッセージを寄せた

 

障害者だけでなく健常者にも優しいユニバーサル

米国防総省CAP理事長 コーエン氏が基調講演


ダイナ・コーエン氏

 「コンピューター電子調整プログラム(CAP)」は1990年、米国防総省が創設した。障害を負った人が健常者と同じようにパソコンを使って働けるって働けるよう、コンピューター技術を駆使し、支援する仕組みで、現在、65の連邦政府機関に支援を提供している。

 同時多発テロで手を失った女性も、音声認識装置付きのコンピューターで働いているし、重い障害を負った傷痍軍人も仕事をしている。支援実績は6万1000件を超えるが、大半は健常だったが後で障害を持った人たちだ。視力がないからコンピューターが使えないとか仕事ができないという話は聞きたくない。あらゆる人がそれをできるように、つまり平等な土俵を作っていかなくてはいけない。

 障害者一人一人にハンデを補うための技術を探し、社会復帰できる水準まで訓練する。就労支援や雇用機会を作るのはもちろん、就労後も働き続けられるよう、支援を継続する仕組みだ。

 なぜ教育省や厚生省ではなく国防総省か。それは、最高の技術はそこが持っているからだ。米国では、仕事や事故で怪我をしても戦場で負傷しても、基本的には引き続き仕事をしてもらうのが普通。労災補償で大金を支払うような場合でも、このCAPのシステムなら安くて済むのも長所だ。

 今後ますます就労人口が高齢化するので病気や怪我で不自由になる人も増える。有能な人に長く働いてもらえる仕組みがあれば、社会的にも役立つ。これは、障害の有無の問題ではなく社会的な管理のあり方の問題だ。

 ユニバーサルデザインというのは、単にチャレンジドだけのためではなく、実は健常者にも役に立つ。「ユニバーサル社会」は、障害のある人だけでなく、普通の人にも優しい社会だ。ぜひ日本で実現してほしい。

 

思いやりある社会を
障害者雇用に追い風

パネラー

□ダイナー・コーエン米国防総省CAP理事長
□石破茂防衛大臣
□大平光代弁護士
□浜四津敏子参議院議員
□紀陸孝日本経団連専務理事

司会進行

□竹中ナミプロップ・ステーション理事長

 

シンポジウム概要

 浜四津 スウェーデンのレイナ・マリアという歌手で画家で作家としても活躍する方は、両腕がなく左足は右足の半分しかない。レイナさんは「私は障害を持って生まれて良かった。スウェーデンに生まれて良かった。」と言う。『あなたはほかの人と変わらない価値を持っている。やろうと思えば何でもできる』と言われて育った。学校でも社会でも激励はされたが差別はなかった。この話を聞き、障害は不幸ではなく、国によって幸・不幸が決まると思った。参院で04年、ユニバーサル社会を形成する、と決議された。どんなハンデがあっても「日本に生まれて良かった」と言えるような国にしたい。

 大平 娘がダウン症だが、せっかく生まれたのだから、少しでも社会の役に立つ人間になってほしい。娘を通して「要らない命なんてない」と、訴えたい。体にハンデがあったら障害だと言われるが違う。ハンデはあるが、障害ではない。そういう人たちを障害者だ、と決め付ける心に問題がある。国は、体のハンデ知的ハンデを負った人も同じ人間だ、という教育を、ぜひしてほしい。

 石破 国民一人一人が誇りを持って生きることが国防の第一歩、という米国はやはり偉大な国だ。国防を担う官庁が就労支援に取り組むことに、米国のすごさを感じる。イラクやアフガニスタンで傷ついた人たちに、社会がきちんと機会を与える、機会均等の米国らしい考え方だ。ユニバーサル社会を作ることと国を守ることに通じるものがある。米国では失明した士官でも勤務できる。いろいろな教育を行え、高い知識が得られる。退職させたら、すごいお金を払わなくてはいけない。働けばその分は浮く、という考え方もある。

 紀陸 障害者雇用には、二つ追い風がある。労働力の供給はどんどん減る。傷害者や若者、女性や高齢者を含め、全員参加型の社会があるべきだ。日本経団連は昨年1月「希望の国、日本」というビジョンを出し、全員参加型社会を目指そう、と提言した。
  もう一つは今、国会にかかっている障害者の法改正案で、障害者雇用の義務を掲げ、特に20時間以上30時間未満の短時間就労の障害者について、企業の実雇用率算定に入れる仕組み。産業界も了解済みだ。企業の採用意欲は強く、様々な技能の持ち主を確保するうねりがある。企業は技術レベルの高い人を求めるので、技術や技能の育成が難しい。就労しながらトライアル雇用の場を作り、技術レベルを上げることが重要だ。

 コーエン 多くの企業は最初、あまりにもコストがかかるだろうと障害者の雇用には腰が引けていたが、障害者を雇ってもお金はかからなかった。彼らをスタッフに迎え入れたことで、お金が入ってくるようになったのが現実だ。
  エネルギーに満ちた情熱的な皆さんがいるので、ユニバーサル社会は絶対にできる。前進は可能で、この国を変えることができる。障害を持つ人たち、チャレンジドを巻き込んでいくことができる。自分がその変化を引き起こす主体になる、という力になってほしい。素晴らしい活動を進めて、ユニバーサル社会を作ってほしい。

 

ユニバーサル社会基本法の制定に向けて

大会宣言「元気な日本を創ろう」

 宣言文「ユニバーサル社会基本法の制定に向けてー元気な日本を創ろうー」(要旨)

 格差問題や少子化、職場、家族や地域の絆の弱体化、日本は様々な国際ランキングも低下した。日本が、地域や職場が元気になるには、一人一人が自信と誇りを持って暮らすこと。年齢、性別、障害の有無に関係なく個性や能力を認められ、生き生き暮らせることが重要だ。

 日本には男女、障害、高齢など分野ごとの基本法はあるがトータルな法はない。誰もが個性や能力を生かし、相互に理解し助け合い、誰もが暮らしやすい強くやさしい社会を「ユニバーサル社会」と呼びたい。加速する少子高齢化。誰もが生き生きと力を発揮できる環境を整え「ユニバーサル社会」を形成するのが課題だ。誰でも歳をとれば障害を持ち心を病む可能性がある。

 次のことを目指し「ユニバーサル社会基本法」の早急な制定を提案する。

◇国民一人ひとりが個性や能力を生かして活躍できる環境を整備し個人を元気にしよう
◇個性や能力の違う個人が助け合うことで生きやすく暮らしやすい環境を生み出し、地域や職場を元気にしよう
◇個人と地域や職場が元気になることにより日本を元気にしよう

社会福祉法人プロップ・ステーション理事長 竹中ナミ
ユニバーサル社会基本法 起草委員会

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