読売新聞 2006年12月7日より転載

なくせ いじめ自殺

「出口は必ずある」

ダウン症の娘 9月に出産 あるがまま愛して
大平光代・弁護士


悠ちゃんを抱き、命の大切さを訴える大平光代弁護士(大阪市北区で)

「出口は必ずあると、親や教師らが子どもたちに伝えてほしい」。大阪市の元助役で弁護士の大平光代さん(41歳)は、いじめに押しつぶされ、死を選ぶ子どもたちに、若き日の自分を重ね、胸を痛めていた。昨年10月に助役を辞任し法律事務所の先輩と結婚、そして、9月にダウン症の娘を授かった。「自分のペースでゆっくり歩めばいい」と思い「悠(はるか)」と名付けた。「大人は、子どものあるがままを愛することが必要」。今、その思いを強くしているという。

挽回はいつでも

大平さんは中学生のとき、いじめを受けた。クラス全員に無視され、机に落書きをされ、持ち物を捨てられた。「親友」に、打ち明けた話が、いじめる側に筒抜けになっていたことを知り、割腹自殺を図った。

「自殺がいけないということはわかっていた。親が悲しむこともわかっている。でも、この苦しい状態がずっと続くと思っているから、死のうと考えてしまう。出口が見えない。出口があるということすらわからなかったのです」

けがは、1か月半の入院で治った。親から「先生は、十分気を付けると言っている」と言われ、同じ学校に戻された。しかし、いじめは続いた。大人への不信感が募り、居場所を求めて暴力団組長の妻に。離婚後、父の友人の養父に諭され、独学で弁護士になった。その半生を自著「だから、あなたも生きぬいて」として出版した。

「親は学校に行かなければ遅れると思ってしまう。口に出さなくても、その焦りは子どもに伝わり、子どもは自分を責める。でも、遅れなんていくらでも取り戻せる。出口は必ずある」

大人の役割は、出口を見失った子どもたちが、出口を見つけるまで、安全な場所、ありのままの自分でいられる場所を用意することだという。

「親は子どもが生まれたとき、生まれただけでうれしかったはず。長いスパンでみて、ほしい」

娘と向き合い、そう強く思う。出産は予定日より1か月早く、帝王切開だった。翌朝、染色体の異常で起きるダウン症と知った。

「(事前に染色体異常がわかる)羊水検査もしなかった。ダウン症だとわかっていても産んだ。健常児とは、いろいろ違うだろうが、焦りはない。私は、どんな方法でも挽回できることを体験してきた。もしできなくても、それはそれで、この子の個性だと思う」

母親は私だけ

子どもたちの、悲しい死の連鎖を断ち切る手立てはないのか。そんな思いで、久しぶりに大平さんを訪ねた。帝王切開の傷跡が壊死する原因不明の病気で約1か月入院し、自宅療養のあと、12月から弁護士活動を再開したという。

悠ちゃんは、心疾患の合併症があり、年明けに手術を控えている。市政への復帰について聞くと、「親としてできる限りのことをしたい。母親は私しかいない。もう、政治には携わらない。市民として応援したい」と話した。

(社会部、大阪市政担当・沢田泰子)

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