WAM 2006年9月号より転載

特集 座談会

障害者自立支援法と新しい事業体系

障害者が地域で安心して暮らせる社会の実現を目指した障害者自立支援法が順次施行されています。自立支援医療(公費負担医療)に関する事項、新たな利用手続き、国の義務的経費や、定率1割の利用者負担の導入などが今年4月からスタートし、10月からは、サービスを「日中活動の場」と「住まいの場」に分ける新たな施設・事業体系への移行が始まります。

障害者自立支援法によって大きく変わる施設・事業体系や、サービス内容の今後の方向性、地域生活や就労支援等の課題について、行政、福祉の現場で積極的に障害者の自立支援に取り組む方々に話しあっていただきました。地域や就労の場をつなぎ、障害者の自立を促す施設運営に期待が高まっています。

[写真]座談会の様子

ご出席者
  • 藤木 則夫 厚生労働省社会・援護局障害保険福祉部障害福祉課長
  • 伊藤 勇一 社会福祉法人勇成会理事長・全国身体障害者施設協議会会長
  • 竹中 ナミ 社会福祉法人プロップ・ステーション理事長
  • 山路 憲夫 白梅学園大学子ども学科教授(進行兼)

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藤木 則夫(ふじき・のりお)氏
厚生労働省社会・援護局障害保険福祉部障害福祉課長
昭和55年厚生省(現厚生労働省)に入省、大臣官房会計課課長補佐、健康政策局看護課看護職員確保対策官、老健局介護保険課長等を経て、平成17年8月から現職。

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伊藤 勇一(いとう・ゆういち)氏
社会福祉法人勇成会理事長・全国身体障害者施設協議会会長
茨城県水戸市・社会福祉法人勇成会理事長。身体療護施設ありすの杜、ユーカリの里などを運する。平成17年4月から全国身体障害者施設協議会会長。

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竹中 ナミ(たけなか・なみ)氏
社会福祉法人プロップ・ステーション理事長
重症心身障害児の長女(現在33歳)を授かったことから、日々の療育のかたわら障害児医療・福祉・教育について独学。複数のボランティア活動を経て、平成3年5月、チャレンジド(障害をもつ人たち)の自立と社会参加を目指して兵庫県でプロップ・ステーション設立準備委員会を設立。翌年4月、大阪ボランティア協会内に事務局を移転し、代表就任。任意団体として活動後、平成10年9月社会福祉法人格を取得、本部を神戸市内に置き、理事長に就任。

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山路 憲夫(やまじ・のりお)氏
白梅学園大学子ども学科教授
三重県生まれ。昭和45年毎日新聞社に入社、東京本社社会部記者などを経て、平成9年から平成15年まで社会保障担当論説委員を務めた。平成16年4月から現職。専門は社会保障論。厚生労働省・障害者(児)の地域生活支援の在り方に関する検討会委員を務めた。

財政基盤を強化してサービスを底上げ障害者の多様な働き方を後押し

山路憲夫氏 障害者自立支援法が4月からスタートし、本格的には今年10月から施設事業が新体系になり、新しい支給決定手続きが始まります。8月には、みなし支給決定事務がスタートし、近々、本格的に新制度が幕を開けます。今までいろいろな過程をたどってきた障害者福祉は、ようやく3障害が一元化され、これまでの反省や教訓を踏まえて仕切り直した新制度が始まるということです。

まず、障害者自立支援法を実施するに至った経過、背景について藤木課長からお話いただけますか。

藤木則夫氏 なぜ障害者自立支援法を作ったかですが、一つは、平成15年から始まった支援費制度は、年度末になると、とくに在宅サービス予算が足りなくなり、厚生労働省予算を集めたり、財務省から駆け込んで補正予算を組む状態で、今後、障害サービスを伸ばすためには、財政基盤を強化した見直しが必要だったということです。

それから、障害サービスの場合、まだまだ水準が低く、たとえば介護保険サービスではホームヘルプサービスを希望するとき、実施していない市町村はないはずですが、障害サービスの場合、とくに知的障害者や精神障害者のホームヘルプサービスは、提供していない市町村が4〜5割という状況でした。地域格差も大きく、都道府県別に支援費制度の支給決定割合をみると、支給率が最も高いところと最も低いところで8倍ほどの差が開いています。これを底上げする必要がありました。

そして忘れてはならないのは、障害者が働くことを支援するサービスですが、これも十分とはいえず、養護学校卒業者の6割近くは、就職するのではなく福祉施設に通っていて、福祉施設から一般企業に就職する割合も年間約1%です。しかし、かなり多くの障害者が一般企業で働きたいという気持ちをもっていることがデータに出ていますので、働くことを実現するためのサポートを法律に盛り込む必要がありました。大きく分けるとこのような背景があると思います。

山路氏 竹中さんはご自身で事業を作られて、就労支援の分野で新しい境地を切り拓いてこられたお一人です。自立支援法の、とくに「働く」という論点をどうご覧になりますか。

竹中ナミ氏 プロップ・ステーションでは、障害者を「チャレンジド(challenged)」と呼び、チャレンジドの人たちの力を、「働く」ことを通して世の中で生かしたいと活動を始めました。今33歳になる重症心身障害者の娘を通じてたくさんのチャレンジドと出会うなかで、障害者という言葉で一括りに「援助が必要な人」と位置づけることに矛盾を感じました。チャレンジドの個性や能力を見極め、可能性を引き出す仕組みが必要なのではないか。ちょうどコンピュータが普及し始めていた時期です。重度障害があり、家族で介護を受けたり、施設で過ごしている人たちが社会で力を発揮するために、ITを活用し、学ぶことから働くことまで、一貫的に取り組みたいと始めました。

現在、プロップ・ステーションでは、在宅介護を受けながら、あるいは施設のベッドの上で仕事をする人が増えてきました。ただ、この実情をもっと知ってもらうことが必要だと思います。

障害者自立支援法については、これまで福祉就労か一般企業への就職しかなかった選択肢の間にグラデーションができて、いろいろな働き方ができるように後押しする考えが盛り込まれたことを、大変うれしく思っています。

山路氏 伊藤さんは、今回の自立支援法をどんなふうにご覧になりますか。

伊藤勇一氏 サービス体系あるいは施設体系の再編によって、サービスの幅と量が大変広がったと思います。身体・知的・精神の障害サービスの統合を図り、一元化したことで障害者の政策を確立できてきたと評価しています。

私ども全国身体障害者施設協議会は、身体障害者療護施設で、重度の障害をもつ方が多く、竹中さんのお話をうかがって、現状のなかだけでは考えてはいけないと思いました。常時介護を必要とする人をお預かりするなかで、到底、就労という考えすら思い浮かばなかったからです。しかし昨今、わずかですが療護施設のなかにも就労に向けて実績を上げているところが出始めています。協議会でも障害が重い方の自立について議論を重ねているところです。

障害者自立支援法では、かなり「就労」にアクセントが置かれていますが、経済的な自立やADL(日常生活動作)の面の自立に偏ると、これまで築き上げてきたサービスと逆行してしまうのではないでしょうか。自己決定、自己責任に基づき、障害者自身が自分らしい生活を組み立てる、そのような「自律」を目指す制度であってほしいと思います。

実施主体は住民行政第一線の地域資源の調整と情報公開が重要に

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伊藤 勇一氏

山路氏 具体的な法律の中身ですが、まず、3障害のサービスを一元化し、実施主体も市町村に一元化しましたが、その狙いはなんでしょうか。

藤木氏 障害者自立支援法のポイントの一つは「3障害一元化 市町村で」ということです。3障害一元化については、これまでは精神障害者施策がほかより一歩、二歩遅れていたのではないかという反省のうえで、身体、知的、精神の3障害全体で対策を進めるために一元化するというものです。

そして市町村を主体に「自立支援給付」と「地域生活支援事業」を提供する考え方ですが、介護保険同様、地域を中心に置いた構成です。住民も参画し、共に福祉サービスのあり方を考えていけば、サービスも充実していくと思います。介護保険も同様ですが、公的給付、税金を使ったサービスだけで24時間、365日、障害をもった方々や、介護が必要な方の生活を完璧に支えることは難しいと思います。地域の資源をうまくコーディネートし、市町村の障害福祉計画の隙間を埋めていくことも必要です。

山路氏 国の財政責任、財源確保の仕組みとして、「自立支援給付」は国の責任を明確にし、義務的経費として2分の1を補助する。「地域生活支援事業」は、従来どおり裁量的経費とされています。

藤木氏 「自立支援給付」は国、都道府県の義務的経費にします。あわせて利用者負担については、負担の難しい方には、幾重にも負担軽減の措置を講じながら、基本としての1割負担や施設利用の場合の食費、光熱水費のご負担をお願いすることにしています。

仮に1割負担がなければ10人がサービスを利用できるところ、1割負担をお願いすると、同じ財源で11人がサービスを利用できるようになり、全体で支えあってサービスを大きくしていけます。当然1割負担になればサービスの価値に目がいきますので、質も上がります。サービスの基準、報酬はきちんと議論して国が提供します。

もう一つ、「地域生活支援」事業は裁量的経費で、財源は一定のルールで公平、客観的に配分します。国は細かい基準も報酬も、利用者負担の取り方も決めませんので、むしろ地方分権の考え方です。住民行政の第一線にある市町村に、地域のニーズに応じてサービスを組み立て、推進してほしいと思います。

伊藤氏 実は、現状、市町村が実施主体となることには心配もあります。市町村の能力には相当格差があり、スタッフの配置が厚いところ、あるいはきちんとした方向性がある自治体はいいのですが、今、盛んに市町村合併が行われており、実際、私たちがおうかがいしてもなかなか踏み込んだ話ができません。力量、能力の違いが地域格差となって広がっていくのではないかと不安をもっています。

逆に、注目したいのは、障害者政策の再構築に市町村がどう取り組むのかです。社会全体が成熟し、障害者福祉のあり方を一旦整理したのが支援費制度であり、今度はその体系を見直し、さらに形を整えたのが障害者自立支援法です。やっと福祉が社会の真ん中にきたわけですから、今後はていねいに社会との関わりを強める必要があります。

私は施設を運営しているなかでの自己反省ですが、たとえば施設と社会の常識がイコールかといえば、疑問に思っています。障害者に使われる税金を国民一人ひとりが理解しているとは思えません。議論も深まっていませんし、人に任せておけばいいという意識が根強いと思います。そこにきちんと切り込んで、福祉の大きな転換期だということを形にする必要があると思います。

竹中氏 直接の答えになるかはわかりませんが、娘が20歳になるまで私が全面介護し、その後は重症心身障害者施設で生活しています。利用し始めて数ヵ月すると入院費用が毎月通知されるようになりましたが、ここで初めてたくさんの税金がかかっていることに気づくと同時に、危機感をもちました。今後介護が必要な人がますます増えるのに、やっていけるのかという不安が強烈に感じたわけです。

そこで私は「障害のある人がタックスペイヤーになり得る日本」というキャッチフレーズを掲げました。福祉の世界からは最初、石が飛んできましたが、私自身は、私が死んでも社会が娘を守ってくれる状況を作りたい、絶対に税や財源の話を抜きにした議論はありえないと確信しました。

山路氏 確かに地方分権という民主主義の試金石だと思いますし、税財源を抜きに障害者問題は語れません。問題は、本当の意味で情報公開されているのか、首長がそういう問題を議論しているか、なかなか住民にはわからない。とくに地域生活支援事業は住民にもみえない部分です。私が住んでいる東京都の多摩地域は全身性の障害者も多く、税金の投入は相当な額ですが、十分に情報公開されていない面もあります。今回の制度改革でそれを突破できるかに期待しています。

竹中氏 私は、基本的に国、市町村がどうであれ、当事者自身も、そういう自覚をもたねばならないことを訴え続けたいと思います。

プロップ・ステーションの活動への関心も高まり、年間数十ヵ所の自治体からお招きいただきます。その際、具体的な事例をお話しします。たとえば養護学校在学中からコンピュータを学んだ知的障害をもつ男性は、卒業するときには、ホームページを作るようになりました。卒業後、地域の作業所でも宣伝ページの作成を任されています。精神障害をもつ青年も、今、プロップのメインスタッフとして大活躍しています。

実際、自分よりも障害者のほうがプラスの能力をもっていると思ったことがない福祉職員も多く、福祉の世界の意識改革も必要です。かわいそうという言葉は魔物で、そう言った瞬間、自分とは違う能力があるかもしれないという評価がゼロになります。そこから変わらなければいけないと思います。

日中活動と居住を分けた普通の生活へ施設は「箱」からの発想転換が必要

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竹中 ナミ氏

山路氏 今回、サービス体系がかなり大幅に再編されます。利用者本人へのサービスが、「自立支援給付」と「地域生活支援事業」の二本立てになり、施設体系事業も大きく再編されますね。

藤木氏 サービス体系の見直しには、二つの切り口があります。今までの福祉サービスは、在宅と施設という区分でしたが、ある意味で第二の人生の問題である高齢者介護と違って、障害サービスは第一の人生の問題です。ですから、ケアをするという介護サービスの括りとは別に、地域に出て行く、あるいは働く、そのための訓練を生活の中心に据えていくための「訓練等給付」という括りを作ったのが一つです。

もう一つは、福祉サービスはもともと施設サービスから始まっていますが、今回、新しい切り口として、今までの入所施設という体系を改め、「日中活動の場」を提供するというサービスと、「住まいの場」を提供する居住サービスを分けました。これまでは昼間のサービスと夜間の世話というサービスを一貫して提供するのが入所施設でした。昼間にケアを受ける場合もあれば、訓練というサービスも、働くというサービスもあります。そういった日中の活動と居住サービスを分けて、それぞれ組み合わせる仕組みを作ったことが二点目の新しい切り口です。

住まいから日中活動の場に行く途中で人と出会い、いろいろなものを見聞きし、話をして日中活動の場で過ごし、仕事、活動が終わったら住まいに帰る。これがまさに普通の生活です。

山路氏 伊藤さんは施設経営の立場から、サービス体系の再編をどう受け止めていますか。

伊藤氏 法案作成に当たり、平成16年10月に、厚生労働省が改革のグランドデザイン案を示しましたが、その前段の議論が十分ではなかったという印象があり、施設側からは、なかなか「箱」の概念から出ることが難しいというのが本音です。ただ、嘆いてばかりいてもしょうがないわけで、これはチャンスだと発想を変えることが必要だと思います。

障害者自立支援法では、これまでの制度の縦割りをなくし、利用者本位でサービスを考えようと謳っています。ですから、私どもサービスを提供する事業所、あるいは利用者も含めて、今までの概念から離れ、もっと自由にサービスのあり方を考えてもいいと思います。そうしなければ、相変わらず施設という「箱」の中での議論に終始してしまいます。

もう一つ、さきほど地域の話がでましたが、もっと地域を巻き込んだ議論が必要だと思います。地域の方を巻き込まないと、従来の型から脱却できません。昼と夜の活動を区別する形は作ったけれど、実際、施設側で提供するサービスの中身は同じではないかということにならないようにしなければいけません。障害福祉の枠をはずし、地域の代表者、教育関係者、産業界等、多様な意見を聞くことも必要です。

山路氏 支給決定ルールの透明化、明確化も大きな柱の一つです。今までは支給決定ルールのものさしがなく、3障害ばらばらでした。その人に適切なサービスが提供されているのかさえわからなかった。今回はルールの透明化、明確化、市町村による新たな障害程度区分の導入と、それに基づくケアプラン作り、ケアマネジメントも実施されます。その狙いを説明いただけますか。

藤木氏 冒頭、障害サービスの支給決定率の地域格差が大きいといいましたが、市町村の窓口で明確な基準がなく支給決定が行われていたことも一つの要因です。そういう意味で、今回、全国共通のものさしを作り、専門家が集まった合議体の審査会というシステムのなかで障害程度区分を判定し、市町村はこれに基づき支給決定することにしました。これによって、サービスを支える住民にもきちんと責任説明を果たして支給決定でき、地域格差も是正できると思います。ただ、障害程度区分の判定は、介護給付というケアを提供する部分には用いますが、訓練給付のサービスや働くというサービスには、障害程度区分は使わず、その人の意向等を踏まえてサービスを支給決定したいと考えています。

山路氏 伊藤さんは、今度の障害程度区分、それに基づくサービスの変化を、どうご覧になりますか。

伊藤氏 支給決定のルールの透明化、明確化という点について、利用者、あるいはサービス提供者が今、不安なのは、障害認定のところです。審査会のメンバーがどれだけ障害者のことを学んで臨んでいるかが未知数だという意味で心配があります。やはり、障害者本人の生活をよく知っている人の意見が反映されるべきだと思います。

ただ、現行の障害者認定の方法として機能しているのは、唯一、高齢者の要介護度の認定方法だけです。これを使うことに異論はありませんが、障害者の場合、介護部分の評価だけでなく、本人の生き方とか、望んでいる生活がちゃんと反映されなければなりません。今回の認定方法をみると、介護という時間が一つの尺度になっているところが気になります。審査会の内容については、慎重な審査が保たれることを強く望んでいます。

山路氏 障害程度区分の認定審査会はすでにスタートしましたか。

藤木氏 徐々に始まって、少しずつ結果が出ています。障害者の場合、行動面の項目とか、あるいはIADL(手段的日常生活動作)といいますが、単に日常動作だけでなくて、買い物ができますか、交通機関の利用ができますかといった項目が入っていますので、介護保険の項目より、二次判定での審査の変更率が高いと思います。今、少しずつ結果が出ていますが、介護保険のコンピュータによる一次判定結果は、その後審査会で2割程度上がります。障害者の場合、とくに知的障害や精神障害の方は変更率がもっと高まると思います。そういう意味では、審査会の意義が非常に大きくなります。今後は結果の検証も考えています。

一般就労への支援と所得保障を充実チャリティー脱却はプロとの連携が鍵

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藤木 則夫氏

山路氏 利用者の定率1割負担の導入は、財源の話とも絡みますし、今後具体的な課題も出てくると思われますが、伊藤さんはどうご覧になりますか。

伊藤氏 私たちとしては、利用者の定率負担あるいは食事等の実費負担については、利用者への影響をきちんと把握して、現行の軽減措置の効果を検証する必要があると思います。内容によっては、国に改善を要望することも必要になると考えています。

山路氏 かなりきめ細かい軽減措置がありますね。

藤木氏 比較的収入が少ない方々にはきめ細かな軽減措置を二重、三重と講じた結果、かなり制度が複雑になり、利用者に理解が行き届かないという心配もあります。では、なぜ1割の定率負担の考え方を取り入れたのかということですが、障害サービスは誰もが使うサービスなので、普遍的でなければいけないのです。日本で障害がありホームヘルプサービスを利用している人の4割強が事業費3万円以下、つまり1割負担だと3千円以下です。しかし、これまでは所得の高低により負担を求める応能負担ですから、提供されるサービス内容、量や質と利用者の負担に直接の関係づけがありませんでした。自ら求めたサービス内容にリンクして一定割合(1割)を負担していただく一方、負担が難しい方にはきめ細かな配慮をしていくほうが、サービスを伸ばし、質を高めるのにふさわしいと考えました。

山路氏 竹中さんはどんなふうに受け止めていますか。

竹中氏 娘は重症心身障害者の施設ですからこれまでほとんど負担がありませんでしたが、今回、病院の費用も変更になりました。食事を含めると本人の年金のすべてを支払うことになりますが、逆に言うと、自分が得るもので生きていける状況ですから、これはまっとうなことです。もちろん、払うことが困難な人たちへの細かな配慮は必要ですが、支払える能力のある人が払うのは当たり前だと思います。障害者イコール払えない人のままでいたら、その人たちをいつまでも払うことのできない人にとどめてしまう。払える人たちにしていこうという意識をもたなければいけないんです。払うこと自体がおかしいと言うのは、当事者側の自覚に配慮していないということでもあると思います。

山路氏 今回は、就労支援の手立ても講じられていますが、一般就労が難しい方たちの就労支援策は、障害者雇用率をみても明らかなようになかなか進みませんでした。今回、複数のメニューが盛り込まれたことで就労への道が前進すると期待できますか。

藤木氏 障害者自立支援法では就労支援は大きな柱になっていて、二つのルートを考えています。一つは福祉施設からきめ細かくステップアップする階段を作るということです。雇用契約を結んで働くタイプ、雇用契約を結ぶのは難しいけれども働くことを日課にするサービス、一般企業の就職を目指すための就労移行支援事業といったきめ細かな階段を作り、一般企業への就職を目指そうというものです。

もう一つは、確かに企業での就職が難しい方もいるので、そういう方のために、就労サービスで得られる収入をできるだけ引き上げます。福祉施設で得られる報酬を「工賃」と呼びますが、この平均額を倍増し、障害者の所得を充実し、年金額と、実際働いて得る所得をあわせて地域で自立して生活できる水準を目指したいと思います。

山路氏 伊藤さんの施設は重度の利用者が多く、就労はなかなか困難というお話でしたが、今回の就労支援の考えをどうご覧になりますか。

伊藤氏 私ども協議会の大半の施設は「生活介護」を選択すると思います。しかし、ひとたび「生活介護」のなかに入ると、施設・事業者も、そして利用者もそれでよしとしてしまうおそれがあり、それが心配です。確かに生活介護のなかにリハビリ等、いろいろなサービスはありますが、生活介護のなかで、働きたいとか、働いたことで得られる喜び、そういった気持ちをどう触発していけるかが課題です。もちろん、就労支援の全体的な方向については、評価しています。

竹中氏 プロップの仲間の一人で、療護施設のベッドの上で起業した青年は、自身のプログで、4月1日の障害者自立支援法施行日を「勝利の日」と書きました。施設のベッドの上で働くという生き方を初めて法律が認めたのです。

多様な働き方をするために、福祉分野に必要なのはプロとの連携です。一流の人から技術を学んで初めてその人の技術が高まります。プロップ・ステーションがここまできたのも、プロとの連携があったからです。でも、残念ながら福祉の世界とさまざまな技量をもったプロの人たちをつなぐ仕組みはまだ十分ではありません。自立支援法でもそこまで踏み込んでいませんが、福祉予算を福祉職員の給与として認めるだけでなく、プロの参画にも使っていけるかがポイントだと思います。

大阪にユニークな社会福祉法人があって、知的障害者や自閉症者のアート作品を販売しています。国内ではチャリティーとしかみてもらえませんが、ここではユニークな作品をもっていき、描いた人が障害者かどうかに関わらず、認められた作品を逆輸入し、プロ作家の価格で販売するということを福祉の仕組みのなかで実行しています。チャリティーを脱するには、シビアなプロとの連携が必要なのです。

介護保険との関係の議論がスタート障害問題への高める好機に

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山路 憲夫氏

山路氏 課題はさまざまですが、最後に中長期的な視点も含めて、障害者自立支援法の施行でなにを目指していくのかを議論いただきたいと思います。

当面の介護保険との統合という課題も含めて、負担と給付のあり方をどう考えていけばいいのか。それから、中長期的に考えると、自立支援法は一つの大きな出発点であって、障害者福祉計画の中身づくりはこれからです。

さらに、宮城県の浅野史郎前知事が「施設解体論」を打ち出したように、施設から在宅への流れは一層強まっています。これをどう具体化するか、在宅の受け皿があるのかという問題があります。とくに精神障害者7万2000人が街に出ることは、地域の大きな課題となりますが、当面、また中長期的な展望について、まず、藤木課長からお話いただけますか。

藤木氏 障害者自立支援法はかなり思いきった変革をしていますので、当面は4月施行事項を円滑に進め、10月の施行に軟着陸していくことが課題です。準備期間が短いなかでスタートしたので、利用者や事業主の方々に大変ご心配の声もある状況だと思いますが、障害者自立支援法が目指す方向を浸透させていくのが当面の問題です。

中長期的には、サービスをどう伸ばしていくかという国のビジョンを示していますが、これを指針に市町村が障害福祉計画に落とし込んでいく作業になります。計画を作るということは、中長期的なビジョンでサービスを展開していくことでもありますが、実際には当事者、事業者、住民が一緒に議論しなければできませんので、そういう意味では、地域総ぐるみで考えるということが、障害福祉計画を通じて次に目指すことだと思っています。

介護保険との関係については、今、介護保険制度の被保険者・受給者範囲に関する有識者会議で議論の途上ですが、介護保険との関係において障害問題を考えていくという意味では、国民に障害問題に関心をもっていただく一つの機会です。決して障害問題は他人ごとではない。そういう国民の意識ができたところで、日本の障害サービスが一歩前進するのではないかと思います。国民的な議論が望まれます。

伊藤氏 中長期的な視点で話すと二つあると思います。一つは、法律の3年後の見直しまでに、一つひとつ検証してどうつないでいくかが課題だと思います。そういう意味では、市町村が自立支援法を実際に動かす基盤整備をどうプラン化していくか。この福祉の計画的な基盤整備というのはフォーマルな考え方ですが、さらに制度外のインフォーマルな社会資源をどう使っていくか、そしてその両方をうまくマネジメントすることも大事になると思います。

給付と負担の考え方については、実際、4月7日の第8回経済財政諮問会議でも、歳出と歳入の一体会議の中間まとめで、改革の基本原則が7つ打ち出されました。そのなかの後段には、「給付の水準、範囲とそれに見合った負担のあり方について国民的議論を経て決定していく」とあります。負担の面では、10割のうちの9割が税であるということは、1割を利用者に負担していただくということです。広く国民一人ひとりが関心をもつべきだと思います。国民の一人として義務であり、権利だという意識の耕しも必要です。取られてしまうという年貢の話ではなく、そんな寂しい話ではいけないと思います。

介護保険との統合の議論には、大きな山が二つあると思います。一つは範囲の問題で、経済界との合意をどう取りつけるのか。あと一つは、いま利用者の1割負担でさえ喧々諤々の議論が起きていますが、1割の負担では済まないといったこの先のさらに大きな負担に耐えられるだけの所得保障を一方で確立し、サービスを利用する方に示していかないと、合意も難しいと思います。

竹中氏 介護保険との関係については、現在、被保険者・受給者範囲に関する有識者会議にメンバーとして参加しています。私は、高齢者介護も障害の問題も、国民一人ひとりに自分に関わる問題として意識してもらうには、ともに語ることが絶対に必要という立場で参加しています。そうすることで初めて同じレベルで議論が始まると思います。

それから、施設解体論という話がありましたが、私は施設が悪だとはまったく思っていません。あれだけ介護力のある場所が閉じられていることが惜しいのであって、そこが開かれたときに日本の福祉は大きく変わる可能性がある。施設や作業所で働く方々は、同情だけではなく、障害者の人権や尊厳を考えて仕事に就かれた方々が多いわけです。だからこそその職場が開かれて地域や就労と連携するという発想ができれば、施設そのものが大きく変わると期待しているので、単に施設をなくせばいいという議論には与(くみ)しません。

もう一つ、財源の話については、私は財政制度審議会の委員を3期務めていて、障害者も社会の支え手となれる制度が必要だと発信してきました。今、消費税の議論もありますが、厚生労働省予算だけでなく、国全体の財源のなかで考えなければいけないと思います。

山路氏 毎日新聞は、「戦後60年の原点」を連載し、そのなかで国会議員にアンケートを実施、日本の戦後60年で失った最大のものは何かと聞いたところ、トップは「絆」でした。戦後の日本社会は豊かになりましたが、地域、社会、家族の絆は薄くなってきたのではないかというのが、国会議員44%の答えでした。福祉を考える場合も、日本の社会全体を考えていく場合も、この視点が不可欠なのではないでしょうか。障害者自立支援法ができたことは重要ですが、法律でできることには限界があります。「支えあい」と言われながら、一方薄れていく日本社会の絆をどう復権させていくのか。障害者自立支援法は、むしろその出発点とすべきではないかということを最後につけ加えたいと思います。

本日は、貴重なご意見をどうもありがとうございました。

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