月刊NEW MEDIA 2006年7月号より転載

特別レポート

野田聖子議員が世界初「人にやさしいユビキタス空港」を目指す神戸空港を体験視察

野田聖子議員、そう自民党の箱入り娘が郵政民営化で翻弄され、無所属となったあの人である。「党を離れると、こんなに自由に行動できる」と語り、議員としての原点の勉強に勤しむ。今回、2月に開港となった神戸空港のユビキタス自律移動支援プロジェクトを視察した。

(レポート・写真:吉井 勇・本誌編集長)

"世界初"を目指す神戸空港

昨年のゴールデンウィークにワシントンD.C.を訪問し、ペンタゴンや運輸局など、ADA(アメリカ障害者基本法)制定15年の成果を視察するという与党プロジェクトのツアーに同行取材したが、このツアーの団長が野田議員だった。話題の書『私は、産みたい』を出版した後で、不妊治療や少子化問題に切り込む議員であるが、障害者や高齢者が共に生きる「ユニバーサル社会法の制定」というビジョンを示すことができる数少ない議員でもある。無所属野田聖子議員が神戸空港のユビキタスによるユニバーサルデザインを視察するという連絡が、社会福祉法人プロップステーションの竹中ナミ理事長からあり、さっそく野田視察を取材することにした。

4月16日、羽田空港からスカイマーク機で神戸空港に降りた。神戸港の沖合に、非常にコンパクトな規模で誕生したもので、開港直後の搭乗率が73%で、国内線の採算搭乗率が60〜65%をクリアし、ターミナル内は多くの見学者でにぎわっている。

この神戸空港では、国土交通省が推進する自律移動支援プロジェクト(http://www.jiritsu-project.jp)の「神戸空港ユビキタス実証実験」が行われ、世界初の「ユビキタス空港」を目指している。ここでは2つのユビキタスの仕掛けが用意されている。一つが自律移動支援サービスを提供する「ICタグ」と携帯端末「ユニバーサルコミュニケータ(略:UC)」。それに加えて短距離無線通信規格「ZigBee(ジグビー)」を使ったUCへのプッシュ型情報の提供である。

骨伝導フォンを採用

[写真]野田聖子議員
周りの音も聞こえる骨伝導フォンを体験

自律移動支援サービスの情報サービスを仕掛けるICタグは神戸空港の床下に、約1,000個が設置されている。視覚障害のある方がICタグのリーダー付き白杖を持って移動すると、エリアの移動に関する情報を音声案内してくれる。これまでの神戸市内などの実証実験から、「あと何メートルでどこそこです」という音声案内はしつこくてうるさいという意見から、「方向がズレています」というアドバイスの情報に切り替えている。また、音声についても耳全体を覆うヘッドフォンは「周囲の音が遮断されるので視覚障害者は不安が増す」という意見から、骨伝導フォンを採用したという。

「これまで何度か体験させてもらっていますが、今回初めて目を閉じて、情報提供をたよりに白杖で歩いてみました。安心感を与えてくれました。それだけリアリティのあるシステムに発展しているからなのでしょう」と野田議員。

また、聴覚障害の方に対して、UCへの文字情報の提供とともに、初めて動画像による手話情報のテスト配信が取り組まれた。さらに加え、情報の受信を伝えるためにバイブレーション機能を持った端末も用意された。「これが腕時計などのような形になると便利でしょう。女性の多くはハンドバックにケータイを入れていますから、受信したことを伝えてくれる機能は欲しいですから」と、野田議員がユニバーサルサービスとして注目したサービスである。

[写真]野田聖子議員
ICタグに反応する白杖を持って自律移動を体験。手前右が日本バリアフリー協会の貝谷嘉洋代表

[写真]UC端末
「ズレを指摘する案内」を文字と音声で

[写真]
このようにICタグが床下に設置

通信規格「ZigBee」を採用

[写真]
ジグビー用の通信用アダプター。 将来はチップ化で対応
ユニバーサルコミュニケータに 情報は表示される

神戸空港のユビキタスでは短距離無線通信規格「ZigBee」が導入された。ジグビーはBluetoothと同種の技術であるが、低速で伝送距離も短いという制約はあるものの、省電力で低コストという利点がある。日本では2.4GHz帯を利用し、データ伝送速度が最高で250Kbps、最大の伝送距離は30m。さらに注目したい特徴は、ジグビー端末は中継機能があることだ。1つのネットワークで最大225個の機器が接続できるという優れものだ。

天井裏に約30個設置されたジグビーのアクセスポイントを生かしたUCの位置情報を使った案内サービスが全部で4メニュー用意された。

まず、プル型サービスの「現在地エリア案内サービス」とプッシュ型の「避難誘導サービス」がある。両方とも経路情報が案内される。

残る2サービスはプッシュ型で、たとえUCに他の情報が表示されていても優先的に案内されるもので、「(飛行に関する)変更情報案内サービス」、「搭乗遅れ防止サービス」である。出発時間や搭乗ゲートの変更を通知したり、出発時間の30分前や20分前に搭乗を促す案内通知である。


プロセスを大事にするプロジェクト

およそ1時間半の視察を終えて野田議員は次のように語った。

「こうしたプロジェクトの場合、福祉的な面から意義が語られるが、それだけでは不十分です。誰のためのプロジェクトか。より多くの方に参加していただくことが大事で、それは口コミで広がっていくことです。これは便利、ということで、障害のある方だけでなく、すべての人が利用したくなるサービスを用意していくことです。それは役人だけでは生み出せません。メーカーだけでも、関係者だけでも不十分です。もっと多くの人が体験して、アイデアを出していくことがエネルギーになります。それを実現できるプロジェクトが、この自律移動支援プロジェクトだと思います。つまり、そのプロセス自体に大きな意味があるのです」

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