中日新聞 2006年3月17日より転載

くらしの広場 家族のこと話そう

娘に人生導かれ

プロップ・ステーション理事長 竹中 ナミさん

父の大きな愛情

2人の子どものうち、娘の麻紀は重い脳障害があります。生後3ヵ月目に障害が分かった時、私の父は「わしがこの孫連れて死んだる」と言いました。周りで親子心中もあった時代。本当にやりかねない父を阻止するには、自分がしっかりしなきゃならない。父の言葉がなかったら私も揺らぐこともあったと思う。父の大きな愛情を感じます。

今、娘は療養所でお世話になってますが、国から療養所に支払われる費用明細を見て、娘の介護を社会化することは人手がかかり、税金を使うことなんだと、はっと思いました。年金もあって、まるで娘は「月給60万円の国家公務員」になったようなもん。それまで自分と税金のかかわりなんて考えたこともなかったけど、たくさんの人の「支えよう」という合意と経済基盤が国にないと、福祉は続かないと実感しました。

世界一のスピードで少子高齢化が進んでるのに、今のままじゃ日本は乗り切れませんよ。障害者自立支援法で一部負担の項目が入りました。当然のことと思います。本当に払えない人が払わないですむ支え合いは必要ですが、「障害者だから払えない」という考えはおかしい。これまで障害者は年金を支給されて「あんたら働かんでええよ」と一般社会の外に置かれてきた。「自分で働きたい」という思いも封じ込められてきた。本当の福祉は「弱者」のレッテルを張るのではなく、すべての人々に平等のチャンスを与えることだと思う。

プロップ・ステーションはみんなが自分の身の丈にあった形で、社会を支える側に立っていこうという場所です。パソコンを通じてならハンディを気にせずさまざまなことができる。仕事を通じて生きがいと誇りも得られる。スローガンは「チャレンジドを納税者にできる日本」。チャレンジドは障害者を指す米国の言葉で、「神から挑戦すべき課題を与えられた人々」という意味です。

四つ葉にたとえ

他の人から見れば、パソコン苦手なおばちゃんが、パソコンを使えない娘と一緒に何をやっているんだか−と思うでしょうが、全部、最期の最期には娘をおいていくことになっても安心して死にたいという母ちゃんのわがままです。弱者も強者も能力に応じてその人なりに支え合うことができるユニバーサル社会をつくらないと、娘のような人間はやっかいな金食い虫として社会全体から否定される、「超弱肉強食」世界になってしまう。それは親として絶対になってほしくない。

娘の存在は、私にさまざまな目線や考え方を教えてくれた。不良で高校も除籍になった私を更生させてくれたのは、両親でも教師でも警察でもなくて、娘ですよ。私は、チャレンジドは四つ葉のクローバーやと思てます。幸せのシンボルの四つ葉は、自然界の中では異端。それを「標準からはずれているから悪い」じゃなく「ラッキーなもの」と思って大事にするのは人間の想像力のたまものです。娘を育てながら、チャレンジドにも同じことがいえると思います。

(坂口 千夏)=写真も

[写真]たけなか・なみ
1948年、神戸市生まれ。重症心身障害児を授かったことから、手話通訳や身障者施設での介護ボランティアに携わる。91年、チャレンジドの自立と就労支援の任意団体「プロップ・ステーション」を設立。パソコンの技術指導、在宅ワークのコーディネートなどを行う。98年、社会福祉法人格を取得。総務省情報通信審議会委員などに就任し、政府へ積極的に提言している。99年エイボン女性年度賞教育賞。著書に「ラッキーウーマン」(飛鳥新社)など。

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