産経新聞(夕刊) 2006年1月31日より転載

神戸空港は
ユビキタス 搭乗口へ音声案内
ユニバーサルデザイン 優しく

新空港のキーワードは2つの「ユ」―。2月16日に開港する神戸空港で、利用者がどんな場面でも望むサービスを得られるという最新技術「ユビキタス」の実証実験が世界で初めて行われる。また同空港は、障害者と健常者が共通で使える「ユニバーサルデザイン」も各所に導入した。関西の新しい玄関口は、だれもが利用しやすい公共施設の姿を目指す"実験場"になる。

(永山裕司)

ICですいすい

[写真]
床のICタグをタグリーダー内蔵の杖で読み取るデモンストレーション。位置情報などが音声で流れる―神戸空港

神戸市と国土交通省が行うユビキタス実証実験は、利用者に貸し出す小型端末機「ユビキタスコミュニケーター」を通じて、音声や文字、画像でさまざまな情報を提供するというもの。ターミナルビルの天井には電波発信機、壁や床にはICタグが埋め込まれている。

例えば「視覚障害者支援サービス」はこんな具合だ。「タグリーダー」を内蔵した杖(つえ)が、床に埋め込んだICタグの情報を読み取り、位置や移動ルートを確認する。小型端末機からの音声案内で搭乗口への誘導やトイレなどへの移動をサポートする。

「搭乗遅れ防止サービス」では、小型端末機の電波で利用者の位置を確認。搭乗時間が近づいているのに搭乗口から離れている利用者には「搭乗口までは約○分かかります」と音声で案内する。

個人所有の携帯電話にも情報を提供できるように、携帯電話メーカーとの協議も進める。

駅から10メートル

ユニバーサルデザインは、年齢や性別、言語、身体能力などによって使い勝手を左右されないデザインや設計を、街や建物、ものづくりに取り入れようという考え方だ。

絵文字の看板や、障害者に対応した多機能トイレを設置。また空港全体が、利用者の移動距離をなるべく短くするような設計となっている。神戸・三宮から到着するポートライナーの駅から出発ロビーまでは、たった10メートルで到着できるほどだ。

障害者のニーズに総合的に対応する「観光サイト」も開設し、身体の不自由な人に対応した観光施設や宿泊施設、移動・交通の情報を集約する。情報は到着ロビーのカウンターでも提供し、手話や外国語でも対応できるようにする。

市民も後押し

これらの取り組みを市民が後押しする動きも出ている。昨年発足した「神戸空港のユニバーサルな発展を願う市民の会」の呼びかけ人の一人で、社会福祉法人プロップステーション理事長、竹中ナミさん(57歳)は「震災からみんなの力で復興した神戸には、みんなが支え合う社会のあり方を発信する使命がある。神戸空港を世界一のユニバーサル空港にするための提言を続けたい」と話す。

NPO法人ウィズアスは、開港に合わせて「WING KOBE」市民プロジェクトをスタートする。神戸を訪れる障害者や高齢者に必要なケアを事前に打ち合わせ、交通機関や宿泊施設をコーディネートする事業だ。神戸市内の6ホテルの協力を得て試験運用中。ウィズアス代表の鞍本長利さん(55歳)は、こう話す。

「開港を機に、神戸を、だれもが観光や滞在を楽しめる街に、そして市民が暮らしやすい街にしたい」

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