日経産業新聞 2006年1月30日より転載

新 人脈地脈(神戸市)

社会貢献の輪広げる

神戸空港のユニバーサルな発展を願う市民の会

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神戸空港の旅客ターミナルビル(神戸市中央区)

2月16日に開港する神戸空港。この空港を障害者や外国人、高齢者などすべての人に使いやすい場所にしようと、神戸市の経営者らが「神戸空港のユニバーサルな発展を願う市民の会」を結成した。空港のユニバーサルデザイン(UD)実現のためのアイデアを議論、神戸市などに提言すると同時に、自社の社会貢献などに役立てている。

UDは「できるだけ多くの人が利用可能であるように製品、建物、空間をデザインすること」と定義される。公共施設が高齢者などに配慮するのは当然だが、神戸空港の旅客ターミナルビルには一歩進んだ特徴がある。視覚障害者や外国人を対象とした音声案内システムだ。

音声端末で案内

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岩田弘三氏

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矢崎和彦氏

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竹中ナミ氏

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森井章二氏

4階建てのビル内には床に900個のICタグ、天井裏に30個の電波発信装置を設置した。専用端末を持った利用者が近づくと搭乗時間や施設案内などの情報が視覚障害者には音声で、外国人には母国語で流れる。市民の会が提案にかかわった同システムは2006年度以降に稼働する。

市民の会の立ち上げを主導したのは障害者の就労支援を手がける社会福祉法人、プロップ・ステーション(神戸市)の竹中ナミ理事長(57歳)。阪神大震災で世界中の人々の支援を受けた経験から「神戸はすべての人を受け入れるポスピタリティーを持たねばならない」との思いがある。「そのためには法律の整備、技術の開発など、総合力が必要だ」。竹中氏は地元産業界や大学、航空会社などに広く参加を呼びかけた。

竹中氏に賛同して市民の会のメンバーとなった経営者の一人が神戸市に本社を置く総菜製造・販売会社、ロック・フィールドの岩田弘三社長(65歳)だ。

岩田氏がUDに関心を持ったのは03年末に米サンフランシスコ市に総菜店を出した時。米国では顧客だけでなく、従業員が障害者の場合を想定した店舗設計が求められる。車いすに乗った人が作業しやすいようにカウンターの中を広くとり、レジを低くする。

「日本は遅れていると痛感した。神戸空港のUD化が地元企業の意識改革につながれば」(岩田氏)と話す。同社はターミナルビルに野菜ジュース店を出店するが「メニューの点字化や使いやすい店舗設計に努める」という。UDモデル店舗として全国の拠点に発信する考えだ。

衣料品などの通信販売を手がけるフェリシモ(神戸市)は障害者が作るお菓子や雑貨類の商品企画を支援、販路を提供している。アレルギーを持つ消費者が気軽に着ることができる服も販売する。矢崎和彦社長(50歳)は「市民の会の活動を刺激にCSR(企業の社会的責任)活動を積極化する」と意欲を見せる。

サービス強化へ

旅客ターミナルビルを運営・管理する第三セクター、神戸空港ターミナル(神戸市)の森井章二社長(57歳)は市民の会のアイデアを受け止め、音声案内システムなどの導入を推し進めてきた。「まだ、不十分なところもあるが、地元産業界の知恵を借りてサービスを強化していきたい」という。神戸空港のUD化活動を通じ地元産業界の社会貢献活動の輪が広がりそうだ。

(神戸支社 戸田健太郎)

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