道21世紀新聞 Route Press 21st. 2006年1月より転載

自律移動支援プロジェクト

「チャレンジド」の娘と生きる
母の願いに応えて
国交省が踏み切った

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「愛・地球博」会場のプロジェクトを視察する小泉首相。左端は坂村教授

国土交通省が自律移動支援プロジェクトに踏み切ったきっかけは、障害者の自立支援に奮闘する女性の切実な願いからだった。

社会福祉法人「プロップ・ステーション」理事長の竹中ナミさん、愛称「ナミねぇ」である。

重症心身障害の娘を抱えたバツイチの身を「神様が絶好な機会を与えてくれ、彼女からたくさん学んだ」と歓迎する型破り。あまりにも真っ直ぐでパワフルで熱っぽく、いつの間にか多くの人々が心をとらえられ応援団になってしまうことで名高い。「愛・地球博」会場で行われたプロジェクトのデモを「ナミねぇ」ファンの一人を自認する小泉首相も視察した。

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障害者向けのパソコン講習会に立ち会うナミさん(左)

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ユニバーサル社会の実現を誓い合う「チャレンジド・ジャパン・フォーラム」の出演者たち

ナミさんの話になったら「社会の邪魔になっているかのようなマイナスイメージ」の障害者という呼称はやめよう。ナミさんは人に会うごとに「『チャレンジド』と呼んでね。挑戦する使命やチャンスを与えられた人、という意味の米語に共感やから」と訴えるところから始める。

心のバリアをフリーにしてプロップ・ステーションの軌跡をたどると、ナミさんが自律移動支援プロジェクトで大きな役割を果たしていることが、素直に納得できる。

「いつでも、どこでも、だれでも」が、プロジェクトの目的。「少子高齢化社会では、一人でも多くの支え手を増やさなければダメ。ITを駆使し、チャレンジドを納税者に」を旗印にするプロップ・ステーションの理念と、まさに根底で共通している。

ナミさんによると、数年前に国交省の「10年後の日本を考える懇談会」委員になり、意見を述べたのがきっかけだった。

「ITの発達で精巧なデジタル地図も出てきたが、チャレンジドには無縁。車イスで通行可能かどうかなどの情報を簡単に入手できたら、日本は本当にだれにも心やさしいユニバーサル社会になれるのに」

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上野公園内でユビキタス電動カートを体験する実験参加者

同省はすぐ、坂村健東京大学大学院教授に相談した。坂村教授は、携帯電話や自動車の組み込みOS、TRONの開発者で、ICタグを活用し「ユビキタス」社会創生を多くの企業と研究・実践している。ここから自律移動支援プロジェクトが動き出した。

ユビキタスもまた、ラテン語で「どこにも普遍的にある」を意味する。坂村教授自身は"どこでもコンピューター"の意味と解説している。「ユニバーサル社会と同じ理念だ」とナミさんは受け取っている。

阪神・淡路大震災で被災したチャレンジド仲間の多くは、行政が満足に動けないでいるうちに、パソコン通信を活用して救援活動やボランティア情報を的確に流し、プロップ・ステーションの評価を高めた。

被災10年目となった05年夏、毎年支援者らと開いている「チャレンジド・ジャパン・フォーラム」国際会議で、ナミさんらは自律移動支援プロジェクトを会場内で実践してもらい、改めてユニバーサル社会の実現を誓い合った。

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