朝日新聞 2004年12月22日号より転載

 

 
 

阪神大震災

 
 

障害者がITボランティアに

 
 

 

竹中ナミの写真
竹中 ナミ
社会福祉法人プロップ・ステーション理事長

 10年前の阪神大震災で私の自宅は全焼しました。コンピューターを使って障害者の就労と自立を支援している「プロップ・ステーション」の仲間もほとんどが被災者という状況に陥りました。どうやって復興していけばいいのか、茫然(ぼうぜん)自失という状態でした。

 そのころ、アメリカの支援者に「チャレンジド」という言葉を教えられました。障害者を表すだけではなく、震災復興に立ち向かう人たちはチャレンジドだといういい方もされるそうです。つまり「人間には、課題に向き合う力が与えられており、課題が大きい人には力もたくさん与えられる」という哲学が込められているというのです。

 私たちは、「向き合う力が自分にある」という「発見」によって勇気がわいてくるのが分かりました。

 ちょうど震災の日が誕生日だった仲間がいます。頸椎(けいつい)損傷で全身マヒのため、家族の介護を受けています。地震のときも自力で逃げ出すことが出来ず、周りのたんすが倒れるのを寝たまま、茫然と見ていたとその恐怖を語りました。

 幸いにも無事だった彼は電気と電話回線が通じたとたん、パソコン通信を使って安否情報や救援物質情報などの発信者として、自宅のベッドの上でボランティア活動を始めたのです。

 日頃からサポートグループや組織を持つほかのチャレンジドも、食べ物や水がどこにあるのか、車いすで入れるおふろはどこか、などの情報をパソコン通信で送り、地域の救援活動の担い手になりました。

 もう一つ痛感したのはネットワークの重要性です。チャレンジドはふだんから作業所や障害者団体などに所属していることが多く、介助者や仲間は誰かどこにいるという情報を知っています。だから震災後、すぐ安否が確認できました。障害者通所施設は重度障害者の避難所になりました。

 痛ましいことに阪神大震災では高齢者の犠牲が目立ちました。人と情報のネットワークが大切なのは障害者も高齢者も同じです。そのとき、役に立つ道具がパソコンです。高齢者が電話と同じようにパソコンを使える環境にする必要があると思いました。

 天災や事故は、どんなに備えをしても起きる可能性があります。でも、ネットワークに支えられ、「自分はこの現実に向き合える」と思えば立ち直ることが確信しています。




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