クロワッサン 2004年11月10日号より転載

 

 

 
 
障害を持つ人が納税者になれる。
 
 
目指すのは、そんな社会。
 
 

竹中ナミさん
たけなか・ナミ 社会福祉法人 プロップ・ステーション 理事長

 
 

 

 

障害者でなく「チャレンジド」。
挑戦する課題を与えられた人です。
竹中ナミの写真
'48年、神戸生まれ。15歳で同棲、高校除籍。重症心身障害の長女を授かり、医学、福祉を学び手話通訳や介護に関わる。'91年、プロップ・ステーション創設。'99年エイボン女性年度賞教育賞。

 NGO「プロップ・ステーション」は、パソコンを使って在宅でデザインやプログラミング、翻訳などの仕事をしている障害者たちのネットワーク。

 「自立、就労の支援と言われますが、私は支援とは思っていないんです。彼らはパソコンの達人で、できる人たち。私が強いのは口と心臓だけ(笑)。むしろ助けてもらっているくらいです」
 と話すのは、プロップを立ち上げた「ナミねえ」こと竹中ナミさんである。

 「会社勤めができない障害者も、自宅で働ける時間だけ、得意なことをすればいいやん、と考えたんですね。'91年、プロップを作る時のアンケートには『自分も働きたい。武器はコンピュータ』と答えた人が多く、なんて進んでるんだろう、と思いました。世間はパソコンが普及する以前の話です」

 ナミさんは障害者を「チャレンジド」と呼び換えている。障や害など否定的なこの言葉をまず変えていこうとしたのだ。アメリカではすでに15、16年前から「ハンディキャップド」「ディスエイブル」を「チャレンジド」と改めている。「挑戦する課題やチャンスを与えられた人」という意味だからだという。

 行動を起こさせたのは、重症の心身障害を持って生まれてきた長女。現在31歳、養護施設で生活している。

 「周りは気の毒、気の毒の大合唱でした。でも家族になってみると、全然そんなことはありません。成長は遅いですが、そのぶん時間をかけて見守ってやれる。自分の子はどんな状態でも愛せる、存在自体が尊いです」

司会中の竹中ナミの写真
WEBアクセサビリティーとユニバーサル社会を考える催し(東京)で司会を。

 現代の医学でどうにもならないという医者の言葉に納得できず、ナミさんは自ら猛勉強をして、いろいろな資格も取った。

 「勉強嫌いで高校を中退した、不良な私を変えることができたのは、娘だけ。社会にアクションを起こせない彼女ですら私を更生させたのだから、ほかの多くの人はもっとすごい才能を持っているはずや、と思いましたね」

 プロップは「チャレンジドを納税者に」というスローガンを打ち立てていることでも知られる。

 これには「手厚く保護されるべき障害者から、カネを取る気か」と福祉関係者やチャレンジドから非難が浴びせられたが、ナミさんはそれを覚悟の上で、あえて一石を投じたのだった。

 「日本の福祉は、税金からナンボ取ってくる、というレベルなんです。気の毒と言って可能性に蓋をし、その代わり福祉で穴埋めをするという体制は、もう変えないといけない」

 プロップでひとりが成功したら、あとに続く人たちに夢や目標ができる。そのモデルを作っていきたいという。

 「チャレンジド自身や、その家族、周囲の人たち……可能性があると知って自分も動こうという人が増えてきました。燃えたがっている薪がたくさんある。マッチもある。そこに酸素を送り込むのが、私たちの役目です」

プロップ・ステーションの写真
プロップ・ステーションではパソコンを駆使し、さまざまな仕事が生まれる。プロップは「支え合い」の意。写真提供・プロップ・ステーション
(http://www.prop.or.jp)
思い立ったらビル・ゲイツに会い、ペンタゴンに乗り込む「ナミねぇ」の自伝(飛鳥新社刊)。他に『プロップ・ステーションの挑戦』など。
ラッキーウーマンの写真

 




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