朝日新聞 2004年6月24日より転載

 

 
 

元経企庁長官 堺屋 太一さん

 
  小泉政治の採点を  
 
本物の候補見抜け
 
 

社福法人理事長 竹中 ナミさん

 
 

 

小泉政治の採点を

堺屋 太一さんの写真堺屋太一・元経企庁長官の話 今回の参院選は、小泉政治の採点である。小泉内閣は昭和初期の「海軍内閣」に似ている。大正デモクラシーの流れが浜口雄幸内閣時代の不況を機に失速し、犬養内閣のデフレ脱却の試みがテロで断たれた。その後の斉藤実ら体制非主流派ともいえる海軍内閣は「昭和維新」を掲げたが、実態は官僚主導の復活だった。

 小泉内閣も自民党内の非主流派で、族議員を追い出すとは言ったが、結果は官僚依存になった。

 橋本、小渕内閣の時代は、政治主導による市場経済、自由競争が重視される社会に進みかけた。金融自由化、農業自由化などを進めた。ところが、小泉内閣ですべて逆転した。大正デモクラシーの流れが官僚主導に戻ったのに似ている。

 多国籍軍への参加の決定過程も、国会での議論や閣議了解さえないまま首相が約束した。すべてが事後了解だ。「関東軍」を思い出させる。

 官僚主導を打ち破るには、有権者が、選挙によって、政治が巨大な力を持つことを示す必要がある。投票率が低くて、政治が偏った少数で決まるものである限り、官僚は政治を尊敬しない。官僚の受け売りではなく、自らの信念を語る人を選ぼう。

 

本物の候補 見抜け

神戸市の社会福祉法人プロップ・ステーション理事長、竹中ナミさんの話 年金問題をめぐる国会のごたごたに怒りを感じ、あほらしくもなった。政治家を責めることは簡単だし、批判されて当然の人もいる。でも、年金制度を真剣に考えてこなかったのは、有権者も同じではないか。

 保険制度は支え合いで成り立っている。それを共通理解としたうえで、各党が制度を立て直す具体策を示さなければ、年金問題は本当の焦点にはならない。単なる選挙戦術で終わってしまう。

 年金を含めた社会保障制度全体が、少子高齢化で転換を迫られている。できるだけ多くの人が、支える側に回る仕組みが必要になっている。

 障害をもつ人の自立と社会参加を目指すプロップ・ステーションは、企業や自治体からコンピューター関連の仕事を受注し、障害をもつ人たちに振り分けている。介護を受けながら仕事で能力を発揮している人もいる。

 等しくすべての人間が能力を発揮できる社会をつくる。そのために私たちは国会議員と勉強会を開き、新たな制度をつくらせようと役所の審議会に出て訴えている。政治や行政任せにしないのは、主催者としての義務だと思っている。

 政治家や官僚の中にも本気で改革を考えている人間が、少数だがいることも知った。日本もまだ捨てたものじゃない。本物の候補者を見抜くのが今度の選挙だ。