東京新聞 2004年1月14日より転載

 

 
 

『障害者も納税者に』挑戦

 
 
福祉の現場も
「マニフェスト、あり」
 
 

健常者と共生 カギは現場

 
 

 

核心 本紙は元日以降の連載企画「マニフェスト、あり。」で、明確な人生目標を持って各界で活躍している人たちを紹介してきた。しかし、今回取り上げたのは、自分のマニフェストを抱いて取り組んでいる人の、ごく一部にすぎない。本紙は今後も「マニフェスト、あり。」の人生を送る人を応援していく予定だが、今回は、福祉の一線で活躍する女性2人を紹介する。2人のマニフェストからは、障害者を救済するのではなく、健常者と障害者が共生を目指そうというメッセージが伝わってくる。

(新年企画取材班)


『障害者も納税者に』挑戦
竹中 ナミさん

竹中ナミの写真
 「“チャレンジド”は皆、いい仕事しまっせ−!」

 チャレンジドとは聞き慣れない言葉だが、「挑戦するチャンスを与えられている人」という意味。竹中ナミさん(55)は、障害者のことを「チャレンジド」と呼ぶ。そして、チャレンジドの自立を支援する団体「プロップ・ステーション」を1991年、設立した。

 竹中さんが福祉に関心を持ったのは、長女の麻紀さん(31)が重い脳障害があって生まれてきた時にさかのぼる。地域の学校には通えず、養護学級に通わなければならなかった。この時、「障害者は特別だから分け、保護・救済する」という日本の福祉観に反発した。

 その思いが「プロップ」の設立につながり、竹中さんのマニフェスト「チャレンジドを納税者にする」につながった。

 働いて納税することは社会を参画すること。

 「年金をあげるからじっとしてなさいという、これまでの日本と逆の発想ですわ」

 チャレンジドにアンケートすると、8割が「働きたい」と答えた。「ふたをされた可能性にかけてみよう」と決意し「プロップ」をスタートした。

 「プロップ」では、グラフィックスやホームページ作成など、パソコンを使ったIT(情報技術)セミナーを開催し、就職の相談に応じている。

 日本では、働く身障者の数は減少傾向にある。まして税金を払うほどの収入を得ている人は、ごくわずかだ。

 しかし竹中さんは、くじけない。

 「障害者はもっとリッチになっていい。きっと変わるで、この国は」

 彼女の話を聞いていると、障害者たちが本当に「チャンスを与えられた人たち」に見えてくる。

 身体障害者の総数、1991年272万人、1996年293万人、2001年325万人。働く身体障害者、1991年20.1万人、1996年22.4万人、2001年22.2万人。厚労省調べ

 

 
健常者と共生 カギは現場
潮谷 義子さん

潮谷義子の写真
 段差のない超低床の路面電車、大きな文字で書かれた商店街の案内板、子ども連れでも更新に訪れることができる運転免許センター…。

 熊本県では、ユニバーサルデザイン(UD)という言葉が根付きつつある。障害者、高齢者に配慮した設計をすることを「バリアフリー」と言うが、UDは彼らを区別せず、健常者も含めたすべての人が使いやすいデザインを目指す。

 そのUD推進を「マニフェスト」に掲げ、旗振り役となっているのが潮谷義子知事(64)だ。

 潮谷氏の経歴は、47人の全国知事の中で異彩を放つ。

 2000年4月の知事就任まで、本格的な行政経験は直前の副知事時代のわずかの1年間。それまでの37年は、保母や乳児ホーム園長など、福祉の第一線にいた。

 その中で潮谷氏は、福祉施策が利用者ではなく、行政の都合で進められるケースを何度も味わってきた。

 知事になった潮谷氏は、いつも職員たちに「現場に足を運んで」と声を掛ける。「現場を知らないと、『してあげる』になる。施策が満足かどうかは、現場で意見を聞き、検証しなければ」

 「与える福祉」から「共有する福祉」への転換は、竹中氏の「チャレンジド」という考えと一致する。そして、UDで「全県民が共有できる街づくり」を進めようという動機にもなった。

 1期目の任期が間もなく終わる。しかし、UDに向けての取り組みは続く。

 「ハードの部分だけではなく、ソフトの部分でも、共同の世界、ともに育つ世界に私はいたい」

 熊本県内のUDの主な具体例
●車いすのまま乗れるUDタクシーの運行
●電動スクーター貸し出しなど人にやさしい商店街づくり
●県民への普及啓発のためUDファッションショーの開催
●車いすで台所、トイレが使える県営団地の建設
●地場産業のUD製品開発支援