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SOHOドメイン(旧 月刊SOHO) 2003年12月号より転載 |
プロップ・ステーション便り ナミねえの道 | ||
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第19回――最新車椅子が変えるチャレンジド就労 | ||
自らの実体験と研究を元に
「シーティング技術」で 自立支援 |
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8月に千葉県で開催されたチャレンジド・ジャパン・フォーラム(CJF。本誌11月号で掲載)で、最も衝撃的だった「車椅子のシーティング」実践講座。チャレンジドの本格的な就労を可能にするだけでなく、生活そのものを180度転換するその技術に参加者たちは目を見張った。山崎泰広さんは、欧米の優れた車椅子やコンピュータアクセス機器などを日本に紹介した先駆者として「自立支援」という理念のもとに日々、手椅子で全国を駆け巡っている。 介護ではなく自立支援 日本の車椅子利用者にとって褥瘡(じょくそう・床擦れ)や身体の変形といった、いわゆる「二次障害」は、就労をする上で大きな壁だと言われる。特にチャレンジドはやる気があるがゆえに、長時間PCの前で仕事をすることが原因で、褥瘡に悩まされる。 山崎社長とナミねぇの出会いは10年前に遡るが、お互いにそれぞれの分野で活躍し、最近になって再会を果たした。 「シーティング技術を深く知るにつれて彼の仕事の重要性を理解しました。自らの実体験をもとに市場のない日本に切り込んだ勇気と決断は素晴らしいです」(ナミねぇ) さっそくプロップの在宅スタッフである山崎安雅さん(福井県在住)のシーティングが決まり、CJFではその成果が発表された。安雅さんは年に4、5回も褥瘡に悩まされ、ベッド中心の生活だったが、今では朝の9時から夜の12時まで車椅子に座っても褥瘡は一度もできていないという。今や仕事だけでなく社会活動に積極的に参加し、生活は大きく変わった。車椅子のシーティング技術は、さらに、日本の少子高齢社会にも意識の変革をもたらそうとしている。 ● ――日米の福祉への考え方の違いは。 山崎●日本では「介護」というのに対し、アメリカでは「自立支援」が目的です。最終的に介護に頼ることは納得できますが、なぜ最初から介護で自立支援をしないのか。すぐれた道具や環境さえ整えれば、自立支援は可能です。海外では自立とは社会復帰であり、職場復帰のことを意味します。私は留学中に事故に遭い障害を負いましたが、アメリカには情報や選択肢がたくさんあったので将来を悲観したことは一度もありませんでした。 ――起業された理由は。 山崎●自分が学んだことや得た情報を通じて、何があっても自分の人生をいい方向に変えられるんだということを伝えたかったからです。95年から2年間、日本初の身障者のためのスポーツ情報雑誌の編集長を務めましたが、雑誌を通じて障害者スポーツを広く認知してもらい、同時にアクティブなイメージをもたらすことができました。 ――シーティングについて。 山崎●私がシーティングのことを日本に伝えて約10年になります。身体の状態を見てそれに対応した車椅子やクッションを処方すれば褥瘡は防げるという話を開き、シーティング・スペシャリストになるために、アメリカ、カナダ、ヨーロッパで訓練を受けました。当初は日本に市場がないため、教育を施しながら市場を作るという苦労はありましたが、ここ数年でセミナーの回数も増え関心が高まっています。もともと福祉の世界はチャリティでは変わらない、ビジネスとして成り立ってこそ初めて変わるのだと確信していました。ですから、あえてシーティング技術を普及させることで、ライバル会社が増えたとしても、この業界に自由競争が導入されれば本望です。病院には「指定業者制度」という障壁がありまが、公平に競争できる社会を望みます。 ――アクセス機器について。 山崎●頭や頬の動き、呼気や吸気によるスイッチ操作でマウスや電動車椅子を動かせる機器や音声ソフトなど、個人の障害に応じてカスタマイズできる製品が多数あります。脳性麻痺などで話せない人も多くいますが、教育によって自立をサポートしています。高齢者の自立も同様で、日本では高齢者を自立させるなんてかわいそうだという声も聞こえますが、先進の車椅子や福祉機器によって介護の必要がなくなり、元気になるなら長生きしてほしいでしょう。 ――これからのビジョンは。 山崎●最近ではシーティングに加えて「スタンディング」の普及にカを入れています。スタンデイング車椅子は、たとえば美容師や板前など立ち仕事の人が再就職のために新たな訓練をする必要もなく、前の職場にそのまま復帰できるという画期的なものです。“アシスティブテクノロジー※で不可能を可能に”をテーマに、これからは重度の障害者や高齢者の方の社会、職場復帰に向けて努力したいと思っています。 ※アシスティプテクノロジー 障害者支援技術のこと。車椅子や補助具、IT関連機器やシーティングも含めた技術。
国や自治体も考える時期に 日本の多くの病院にはいまだに指定業者制度があり、補助金の出る車椅子は特定の企業のものしか買うことができない。つまりユーザーの選択の余地がないわけだ。褥瘡は手術をしても再発することが多く、悪くすれば生命に関わる。治療のための医療費は国民保険によって賄われるため目には見えないが、退院しても1ケ月で100万円程度かかるという。 「シーティングの車椅子は普通の車椅子より高価ですが、褥瘡を予防した上にチャレンジドが存分に働けるようになって、納税者の立場に回ればどちらが正鵠を得ているかわかります。そろそろ国や地方自治体も冷静に判断すべき時期です」(ナミねぇ) 重度のチャレンジドが働くようになり、一方で日本は少子高齢化時代を迎える。CJFでの問い掛けに対して、一人一人が将来を真剣に考えなければならない。
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構成/木戸隆文 撮影/有本真紀・田中康弘・佐々木啓太 |
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●月刊サイビズ ソーホー・コンピューティングの公式サイト http://www.soho-web.jp/ ●出版社 株式会社サイビズ |
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