神戸新聞 2003年11月23日より転載

     
  みんな、それぞれの役割がある。それが誇りを与える。  
 
同時代を駆ける
ユニバーサルな働き方を
 
 
社会福祉法人「プロップ・ステーション」理事長
竹中 ナミさん(55)
 
 

 


 マイナスの環境をプラスの種にして、神戸から経済社会に新しい風を吹き込もうと奔走する女性がいる。障害者を「チャレンジド(神から挑戦する使命を与えられた人)」と位置付け、パソコンを使って彼らの就労を支援する社会福祉法人「プロップ・ステーション」の理事長で、“なみねぇ”の愛称で親しまれる竹中ナミさん。「行政や組織が自分を守ってくれる時代は終わった。これからは自立の時代。意欲があれば、既成の価値観を超えたいろんな働き方ができるはず」。なみねぇ流の新しい生き方とは何か。

(末永陽子)


竹中ナミの写真
「口と心臓はギネス級」と笑うなみねぇ。でも恐いものもある。「ピーマンと飛行機。月に3分の1を占める東京での仕事には、必ず新幹線を使う」という=神戸市東灘区向洋町6、プロップ・ステーション本部(撮影・坂部計介)


プロップ設立のきっかけは

 「23歳で重い障害を持つ子どもの母親になって、私がいなくなっても娘が生きていける社会にしたいと思った。それからボランティア活動を通して多くの障害者に会い、彼らは働けないんじゃなく働く環境がなかっただけだと気付いた。11年前に全国の障害者にアンケートをしたら、『コンピューターを使って仕事がしたい』って人が8割。やるしかないってと思いましたね」

 「活動を始めた当時はパソコンが今の10倍ほどの値段だったから、なみねぇはどうしたんだって周りに驚かれた。でも、私にはパソコンは障害者にとって脳や五感の役割を果たすという確信があった。今ではプロップのパソコンセミナーの受講者は1,000人を超え、現在は約100人が在宅で働いています。仕事をすることは人間に誇りを与える。それで、『チャレンジドを納税者に』をスローガンに活動を続けてきたんです」

近年、仕事を取り巻く環境は変わっている

 「年功序列や終身雇用制に代わって、成果主義や実力主義が浸透してきた。さらに失業率は上がる一方、一般的な雇用環境が厳しくなっている今、チャレンジドにとってはさらに厳しい時代。でも、実力主義だからこそ、ITを使えばどんな人も同じ土俵に立てるというメリットも出てきた」

 「チャレンジドが求めているのは、保護でも画一的な働き方でもない。『その人の能力に合った働き方』だと思う。これは育児や介護を続ける主婦や高齢者、リストラされた人にもいえること。みんなそれぞれの存在価値があって、役割がある。ITによって、通勤やフルタイムにこだわらない多様な働き方ができる時代になった。NPOも増えた。年齢や性別、障害に関係なく働けるユニバーサル社会は、すぐそこまできているのかもしれない」

チャレンジドがより力を発揮できる社会を実現するには

 「チャレンジドと企業をつなぐコーディネーターの役割をする組織が必要。プロップの場合は、会社でいう総務、営業、人事などの仕事を担っている。障害者にIT技術を指導するセミナーを開いたり、企業や自治体などから委託された仕事を在宅ワーカーに紹介するなど、人と人をつなぐメリケン粉のような役割を目指してるんです」

 「NPOのような民間団体の力も重要になってくるでしょうね。地域の問題を浮き彫りにするNPO。そして、企業がその活動に協力し、さらに、行政が制度や法律によって後押しをする、という流れができれば」

 


たけなか・なみ

 神戸市生まれ。23歳の時、長女を出産。福祉ヘルパーや手話通訳などのボランティアに携わり、1991年にプロップ・ステーションを設立。98年、厚生大臣許可の社会福祉法人格を取得し、理事長に選任される。今年1月からは兵庫県、神戸市、通販のフェリシモ(神戸市)と共同で小規模作業所の商品を通販ルートで全国に販売する「チャレンジド・クリエイティブ・プロジェクト(CCP)」を始めた。

竹中ナミの写真