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産経新聞 2003年10月29日より転載

     
 
生きててよかった
 
 
 
  from  


 娘・麻紀が入院している病棟で10月16日に運動会が開催されました。といっても重症児・者の病棟なので、カーペットを敷いた屋内でさまざまな「競技」(ゲーム?)を親子、看護師の皆さんが紅白に分かれて楽しむものです。

 どの競技も参加者の障害像に応じて工夫されており、麻紀は「パン食い競争」ならぬ「パン獲り競争」に出場しました。私が麻紀の手を引いてゆっくり数メートル歩くと、そこにビニール袋に包まれたあんぱんがぶら下がっています。袋はヒモの先に洗濯ピンチでとめてあるので、うまく引っ張るとパンをゲットできます。

 でも麻紀は、「ものをつかむ」ということができないので、私が麻紀の両腕でパンを包むようにしてあげてからギュッと引っ張るという「反則技」に近い形でおいしいあんぱんをゲットしました。競技の合間には、看護師さんたちの手作り衣装によるダンスや応援合戦もあり、秋の1日、病棟内はにぎやかな笑い声に包まれました。

 麻紀は明暗が少し分かる程度の全盲で、言葉もまったくしゃべれないんですが、今年のお盆につれて帰ったときは、公園で花火をすると、その光を目で追ってニコニコしたり、それまでは「おんぶ」ができなかったのに、私の首にしっかり手を巻きつけ、腰に足を回して「立派な」おんぶスタイルができたりと、いろいろな成長を見せてくれた1年でした。

 障害を持たない長男が生後1年くらいで通り過ぎてしまった発達過程を、麻紀は30年間かけてゆっくりたどっているので、私は麻紀から30倍の楽しみをあたえてもらっているともいえます。

 そういえば私の父が麻紀の障害を知ったとき、「お前が不憫(ふびん)やから、わしが孫を連れて死んでやる」なんて言ったことも思い出されて・・・。生きててよかったなぁ、生きててナンボじゃい!と改めて思う今日このごろです。みんなが「生きててよかった」と言える日本にしようぜぃ!!

 

竹中ナミ
(たけなか・なみ=プロップ・ステーション理事長)


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