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SOHOコンピューティング 2003年9月号より転載

     
  プロップ・ステーション便り ナミねえの道  
 
 
  第15回――県と市、企業がプロップとタッグを組んだ  
  チャレンジドの作品を
通販ルートで全国へ
 
 
 
 
矢崎和彦さん(48歳)
株式会社フェリシモ 代表取締役社長
 
     

掲載ページの見出し

プロップ・ステーション
プロップ・ステーションは、1998年に社会福祉法人として認可され、コンピュータと情報 通信を活用してチャレンジド(障害者)の自立と社会参画、特に就労の促進と雇用の創出 を目標に活動している。

ホームページ
http://www.prop.or.jp/

竹中ナミ氏
社会福祉法人プロップ・ステーション理事長。重症心身障害児の長女を授かったことから 独学で障害児医療・福祉・教育を学ぶ。1991年、プロップ・ステーションを設立した。現 在は各行政機関の委員などを歴任する傍ら、各地で講演を行うなどチャレンジドの社会参 加と自立を支援する活動を展開している。

 震災を契機として神戸からの撤退を余儀なくされた企業は少なくないが、株式会社フェリシモ(神戸市中央区)の矢崎社長は震災後に経済復興に貢献すべく本社を神戸に移転した。もともと大阪が本拠地だったプロップ・ステーションも、ナミねぇの強い要望で神戸に本部を移したという経緯がある。神戸への思い入れの強い二人が、昨年運命的な出会いを果たした。


1年で第1号を商品化

 以前もご紹介したが、チャレンジド・クリエイティブ・プロジェクト(略称CCP)は、小規模作業所や授産施設の製品や企画力を「プロの知識・技術」を加味した上で「販路」を確保という取り組み。兵庫県、神戸市、そして大手通販会社「株式会社フェリシモ」とプロップが全国に先駆けて実施する。ナミねぇにとって、全国の授産施設や小規模作業所を「本当の働く場にしたい」というのは長年の念願だった。

 「私もパソコンは苦手。PCを使って仕事にできる人は限られているので、授産施設などの役割は大きいと思います。ところが、施設では障害者たちが高い利用料を支払う一方、数千円の給料しか出ないという現実はどう考えても不自然です」(ナミねぇ)

 プロップ成功の秘密の一つは、生々しい現実の中で仕事をするプロを、講師として起用したところにあった。そこで、施設でモノづくりをしている障害者も商品企画やマーケティングのプロが指南すれば、自立可能な就労レベルに達するはずとの思いで協力企業を探していたという。


作品はダイヤモンドの原石

 「当初、企業秘密ともいうべき商品企画のノウハウを提供してくれる企業は見つからないだろうと思っていただけに、出会いは運命的でした。矢崎社長は、生き方の哲学を持っておられるし、事業の社会への有益性という面で共感を覚えました」(ナミねぇ)
 話は一足飛びに進み、わずか1年でCCPの商品第1号がカタログに登場することになった。

――ナミねぇと知り合ったきっかけは?

矢崎●弊社のニューヨーク店(※1)がリニューアルしたとき、「ユニバーサルデザイン」を一つのテーマに取り上げました。そんなこともあり、昨年の6月にナミねぇを訪ねると、とんとん拍子で話が進んで一緒にやりましょうと(笑)。

 以来、社員の前で何度か講演していただき、そのたびに感動の度合いが深まる。ナミねぇの人間性や思いやりの深さに圧倒させられっぱなしでした。

 通販という我が社のビジネスは、家に居ながらにして商品を購入していただくというシステムです。また、早くからインターネットを活用していたという点でも、弊社はIT的なリテラシーの高い企業の一つではないと思います。そうした背景があったことも話が進んだ理由の一つでしょう。

――アトリエ(※2)の作品についてのご感想は?

矢崎●弊社では年間、約5万種類のデザインや商品が社員のアイデアで生まれます。数にすればすごい点数と日々接しているわけですが、その中でチャレンジドの方の作品を見て「何で温かいんだろう」というのが率直な感想です。大量生産で作ったモノでは決して出せない、手作りならではの味わい。素材に磨きをかければ光るダイヤモンドの原石のような印象を受けました。商品デザインとは、それがどういう場所で、どういう状況で制作されたかが問題でなく、要はデザインとして優れているかどうかが肝心なんです。

――チャレンジドに期待するところは?

矢崎●盲目のピアニストがその音楽性で世界に通用するように、それぞれの持ち味を存分に発揮して道を極めてほしいですね。商品第1号のクッキーにしても、既存のプロには出せないかもしれない。それをカタログ通販やインターネットを通じて、世の中の人に喜んでいただくことが何よりです。そういう商品を一緒に作っていきたい。今後はCCPに限らず、他の業務においてもチャレンジドの方の力を貸していただくこともあると思います。

――ビジネスとしての展望は?

矢崎●これはナミねぇとの確認事項ですが、この事業の目的は「チャレンジドを納税者にする」ことです。決して慈善事業ではありません。いずれ利益を上げられる事業としてシステムを確立することでチャレンジドの自立を促し、ともに発展しようというのが理想です。そして「神戸発世界行き」をぜひ実現したいですね。今回のように行政とNPO、民間企業が一体となったような一つの仕組みが時代を超えて、また地域を超えて広がることを期待しています。今回のプロジェクトが、まず日本全国へとうねりを起こすための最初の一石になることを心から願っています。


※ 1 ニューヨーク店 2001年、フェリシモニューヨークは「フェリシモデザインハウス」としてリニューアルオープン。

※ 2 アトリエ 今回のプロジェクトでの小規模作業所、授産施設の呼称。


 
フェリシモ会員向けのカタログ。チャレンジドが製作した「渦巻き模様のクッキー」と「さをり織り」の小物類が掲載されている。

官民もユニバーサルに

 小規模作業所や授産施設の経営基盤は脆弱で、県や市からの補助金への依存度は大きい。CCPはそうした行政の支援や、個々の施設の自助努力でも見出せなかった活路を開いた画期的なプロジェクトだ。

 「県や市も自治体の立場や違いを越えて支援してくださり、CCP自体がユニバーサルになったことで実現したと思います」(ナミねぇ)

 6月中旬には会員向けのカタログに“渦巻き模様のクッキー”と“さをり織り”の小物が掲載されたが、今後も市場価値があると判断した作品から販売機会が作られる。

 「企業の方はチャレンジドにぜひ期待して欲しいと思います。気の毒やから手を貸すんやなく、ほかでは真似できない価値のあるモノを本当に求めている人へと提供できる仕組みを広げていってほしいですね」(ナミねぇ)

 


Column

株式会社フェリシモについて

 
フェリシモの社員の方々で、CCPのスタッフのみなさんと一緒に。

「しあわせ社会学の確立と実践」を経営理念に、『はいせんす絵本』や『サンタブック』などのカタログによるダイレクトマーケティング事業を展開。他社が真似できない独特のセンスによる商品企画で、女性を中心にファン層を広げている。社名の「FELISSIMO」は、ラテン語を起源とする至福という言葉「FELITY」と、強調を表す接尾語である「SSIMO」を融合させた新語で「最大級で、最上級のしあわせ」のこと。社名のとおり、事業活動を通じて、いつまでも絶えることのないしあわせな社会を創造する企業を目指す。


 [企業データ]
● 株式会社フェリシモ
設立:1965年5月
資本金:1億円
代表取締役社長:矢崎和彦
従業員:1050人
URL:http://www.felissimo.co.jp/


[社長プロフィール]
●矢崎和彦氏
1955年生まれ。1978年に学習院大学経済学部を卒業、株式会社ハイセンス(現株式会社フェリシモ)に入社。1987年同社代表取締役社長に就任する。神戸市経済同友会幹事、神戸市経済新生会議委員、社団法人日本通信販売協会理事等を歴任。1996年には国連・ユネスコ創立50周年記念事業「デザイン21」を主催した。2002年、震災10年となる2005年に神戸の元気を世界に向けて発信するプロジェクト「KOBE HYOGO 2005」を開始。


構成/木戸隆文  撮影/有本真紀


[チャレンジド] 神から挑戦する使命を与えられた人を示し、近年「ハンディキャップ」に代わる新たな言葉として米国で使われるようになった。


●月刊サイビズ ソーホー・コンピューティングの公式サイト http://www.soho-web.jp/
●出版社 株式会社サイビズ