[up] [next] [previous]
  

ユニバーサルデザイン12号 2003年8月29日より転載

     
  IT人と情報の交流点  
 
障害者に在宅就労の道を拓く
プロップ・ステーション
 
 

 

タイトルイメージ
竹中ナミの写真
竹中ナミ
社会福祉法人
プロップ・ステーション理事長
弱者といわれる人達を
弱者にさせない
仕組みを
つくりたい。

今号より「IT技術」と「雇用/就労」に焦点を当て、各方面の動向をレポートする。
第1回は「チャレンジドを納税者にできる日本」をキャッチフレーズに神戸を基点に活動する社会福祉法人「プロップ・ステーション」。
その理事長を務める竹中ナミ氏にお話を伺った。

 


たけなか なみ●神戸市生まれ。神戸市立本山中卒業。小学生の時から家出を繰り返し、15歳で同棲。24歳の時に重症心身障害児の長女を授かったことから、療育のかたわら障害児医療・福祉・教育について独学、障害をもつ人たちの自立と社会参加を目指して活動。
著書に『プロップ・ステーションの挑戦』(筑摩書房/Japan lines)『ラッキーウーマン』(飛鳥新社)などがある。
障害者(児)の地域生活支援の在り方に関する検討委員会 委員(厚生労働省/2003年5月)、ユニバーサル社会の形成促進プロジェクト・チーム 講師(女性議員政策提言協議会/2002年2月)、チャレンジドを納税者にできるIT立国日本 講師(e-japan重点計画特命委員会/2002年3月)など公職多数。

 

パソコンを武器にして
チャレンジドに活躍の場を!
トップページの写真
プロップ・ステーションWEBサイトのトップページ
すべてを読み通すにはかなりの時間を要する豊富なコンテンツ集
http://www.prop.or.jp/


「チャレンジド」とは「障害をもつ人」を表すアメリカの“the challenged”が語源。障害をもっているからこそできる体験をポジティブに活かそう、という思いが込められており、社会福祉法人プロップ・ステーション(以下プロップ)が提唱する言葉。プロップのキャッチフレーズは大胆かつ明快だ。「チャレンジドを納税者にできる日本」である。これはコンピュータと通信ネットワークを活用して、チャレンジドの自立と社会参画、そして就労の促進と雇用の創出という目的を、より具体化したキャッチフレーズといえよう。

 プロップの理事長、竹中ナミさんは設立当初を振り返る。
「重度の障害をもつ人たちにアンケートをとった時のことです。コンピュータを使って在宅で仕事をしたい、という声が数多くありました。パソコン通信がまだ一般的とはいえない頃でしたから、コンピュータで? という驚きと同時に、仕事への意欲や能力があるのに働く場のない彼らを引っ張り出す方法がコンピュータやと思ったんです。プロップがいう『納税』というのは、所得税だと思われがちですが、消費税を払う行為も納税ですし、タックスベイヤーになるということは『発言者』として誇りも意味しています」
 竹中さん自身、最初はパソコン通信ってなあに? というスタンスだったようだが、アンケート結果が「パソコンを武器にしてチャレンジドに活動の場を」という方針を固めるきっかけになったようだ。

 

IT技術が重度の障害者を
世の中に引き出す


設立した12年前は、インターネットはなく、パソコン通信が始まったばかりの時代。パソコン普及率は今とは比べものにならないほど低い頃だが、日進月歩のITの進化とともにプロップの活動範囲も広がっていく。

「活動をはじめて4年後に阪神淡路大震災が起こり、ライフラインが寸断されるなか、インターネットの重要性を身にしみて感じましたね。パソコン通信ではプロバイダの1フォーラム内でやりとりしていてクローズド的でしたが、今ではWEBサイトで集約でき、完全在宅や施設入所しているチャレンジド・スタッフとの連絡もメールのほか、テレビ会議システムで行えるまでになったんですよ。これは最先端のIT技術が重度の障害者を世の中に引き出すことができるという証明です」

 プロップの本部は、神戸・六甲アイランドの中心地区にある。オフィスは明るく開放的で、広さにも余裕があり、セミナーで使用するコンピュータ機器からオフィス家具・什器まで、整然とレイアウトされている。

「このオフィスは無償で提供してもらっています。プロップの活動に賛同してくれたからに尽きます。ラッキーな面ももちろん、ありますけどね。コンピュータ本体やソフトなどの支援も、少子高齢化問題をはじめ日本の将来に危機感をもつIT業界のトップの皆さんが活動に共感してくださり、念願のセミナーができるまでになったんです」(竹中氏)

 

セミナー風景の写真 セミナー風景の写真

車いす利用の方もこのセミナーだけで2名が受講されていた

 

開催中のコンピュータ・セミナー
週に10コースが開催されている。カリキュラムはグラフィック系、ビジネス系などに分けられており、さらに初級、中級と進めるようになっている

 

セミナーを開講
1000人以上のチャレンジドが卒業


在宅就労を目的にしたコンピュータ・セミナーは、週に10コースが開催されている。クラフィック系、ビジネス系などに分かれており、取材時もボランティア講師が傍目にも厳しく熱く教えている姿が印象的だった。これまでに1000人以上のチャレンジドが受講しており、そのうち約100名が在宅で働いた実績をもつ。このセミナーは、現在はチャレンジドだけでなく、高齢者にも対象を拡げている。

「高齢の方々のなかにも、在宅で…という層は少なくないし、先々のことを考えれば高齢者も働ける世の中になっていないと日本はダメだと思いますからね。セミナーは在宅で勉強したいという希望者が増えていまして、一部の講座は開講していますが、人気のあるグラフィック系だと画像データの重さから、ブロードバンドがどこでも使える状況にならないとスムーズに勉強できません。あと1〜2年ほどで開講できる時代になると思います」 (竹中氏) 

 チャレンジドたちの努力や社会福祉法人化した影響もあって、仕事の依頼や問い合わせも年々増えてきているようだ。現在の仕組みはプロップがチャレンジドに代わって、価格や内容などを交渉してから受注し、配分するというコーディネート的な立場で進めている。

「何かを成したいと望んでいる人や潜在的な能力のある人が、社会的な要因によりチャンスの場がない状況は、その社会全体が弱いからです。そういう人達を引っ張り出すことを福祉と呼んだらどうやと。今までは、マイナスの部分を見つけて、そこを補うことを福祉と呼んでいたけど、結果として可能性にフタをしていたことにもなる。いろんなものを割引きにしたり、補助されたりしてきたけどすべて喜ぶべきこととは限らない。期待されていないことがつらい。これからは、その人の気持ちと力を引き出し、期待をかけることのできる社会システムが必要」(竹中氏)

 そのためにはチャレンジド自身も努力しなくてはいけない。その努力によって、ユニバーサルな社会ができあがっていくのではと将来を展望する。。

 

法定雇用率未達成企業は
罰金を払うよリ
アウトソーシング
フランカーの写真
定期広報誌「FLANKER」
プロップ・ステーションの活動報告やさまざまな関連ニュースを掲載している。


障害のある人の就労問題には、大きな課題が残されているという。それは在宅での仕事を希望するチャレンジドは多いものの、現実としては難しい面があるからだ。竹中氏は「障害者法定雇用率制度の義務化」について指摘する。

「現在の法定雇用率の義務化は、通勤、正規雇用、最低賃金といった問題がついてまわり、規制が多すぎるんです。そこからはじかれる人をバックアップする法律がない。その解決策としてプロップが提案しているのが、雇用率未達成企業に対しての罰金制度を見直そうという考え方。どうせ罰金を払うなら仕事をアウトソース(外注)してはどうかという提案です。アウトソーシングは、企業も日常的に行っていることですから、10の仕事があったとしたら、その1つをチャレンジドに出せないかという考え方。価格も質も納期も遜色なくできるのなら、企業としては罰金を払うよりも、メリットがあるはず」 (竹中氏) 

 こうした状況を背景に『障害者の在宅就業を考える研究会』が2002年8月に厚生労働省で立ち上がり、竹中氏はそのメンバーとして参加している。法律や制度の見直しが必要だと言う。

「これからの道は2つ。1つは弱肉強食的な考えでできない人は切り捨てる道。もう1つは弱者といわれる人達を弱者でないようにしようという道。わたしは後者であるべきと思うんです。今はどちらの道に進むかの分水嶺かもしれません。ですから法律で根っこから変えていくしかない。補助金などのお金がなくなったら、あなたたち死になさいということにならないために、法律や制度、意識を変えていくのがなによりも大切なんです。ただし、本当の弱者は残ります。私の娘のような重症心身障害者のような・・・そういう人を守っていくためにも、弱者と呼ばれる人を少しでも減らしていかなければなりません」

 竹中氏の近著『ラッキーウーマン』(飛鳥新社)の帯に「私が死んだら、この子はどうなるのだろう?」と訴えるキャッチコピーが目に飛び込んでくる。重度障害者の母親であることをきっかけにボランティア活動をはじめ、現在は法案づくりにまで参画している竹中氏。将来を真に考え、ユニバーサルな社会の実現に向け、母親として、プロップの代表として、今後も活発な活動が期待される。

 

プロップ・ステーションの主な活動内容

IT技術を駆使したバーチャルファクトリー

NTT西本グループのNTTネオメイトが行っているデジタル地図の製造・メンテナンス事業に、チャレンジドがブロードバンドを活用したバーチャルファクトリーとして、テレワークにより業務に加わることになった。

バーチャルファクトリーのイメージ画像

チャレンジド・ジャパン・フォーラム2003国際会議inちば

「千葉からユニバーサルの風を」をテーマに、年齢・性別・障害の有無に関係なく、すべての人が持てる力を発揮し、住み慣れた地域で安心、快適に過ごし、元気と誇りを持てるような「ユニバーサル社会」のシステムづくりを千葉・幕張から発信した。
2003年8月21日(木)〜22日(金)
http://www.prop.or.jp

チャレンジド・クリエイティブ・プロジェクト

プロップと通販会社((株)フェリシモ)との連係により、チャレンジドが制作した作品(第一弾は工芸品とクッキー)をプロ・デザイナーの指導により仕上げた商品を、全国規模(通販)で売り出す仕組みがスタートした。兵庫県と神戸市はPRなどの協力をするという「産・宮・民」が一体となって、チャレンジドの作品をビジネス化する初の試みだ。

 
チャレンジドの
作品の数々


コンピュータネットワークを駆使して在宅で働いたチャレンジドの作品はどれも個性にあふれている。ここではアートワーク中心だが、このほかシステム開発、ホームページ制作、グラフィックス、DTP業務全般、執筆、アニメーション制作、日・英翻訳、iモードのプログラム・コンテンツ制作などを手がけている。

久保理恵さんの作品
久保理恵さんの作品
「関西電力/’97かがやきフェスティバル
ポスターイラスト」
安藤美紀さんの作品
安藤美紀さんの作品
「聴覚障害者に関わる総合情報誌
『いくお〜る』33号に掲載」
 
中村弘子さんの作品
中村弘子さんの作品
「NTT/チャレンジドの夢」
貝本充広さんの作品
貝本充広さんの作品
「TITLE:ごがごがびょ〜ん」
辻貴康さんの作品
辻貴康さんの作品
「球体」
吉田幾俊さんの作品
吉田幾俊さんの作品
「NTT/◎メカ・ドードーという
マスコット・キャラククー」
本岡良史雄さんの作品

本岡良史雄さんの作品
「作品紹介ページより」

 

作品はすべて「プロップ・ステーション」のホームぺージより
54ぺージのかずかずのイラストレーションも上記のチャレンジドの作品です