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ふれあい近畿 2003年8月号より転載

     
  元気アップ近畿  
 
すべての人が能力を発揮できる、
ほんまの“ユニバーサル社会”を
近畿からつくっていきましょう!
 
 

 

 ハンディキャップに代わる言葉としてアメリカで生まれた「チャレンジド」は、「挑戦という使命を与えられた人々」を意味します。ユニバーサル社会(※)の実現に向けて奔走する“ナミねえ”こと竹中ナミさんの人生も、まさにチャレンジドそのもの。お日様のような笑顔から鋭い発言がポンポン飛び出し、関西パワーがさく裂します。

※ユニバーサル社会 障害の有無や年齢、性別、国籍にかかわらず、誰もが暮らしやすい共生型の社会のこと。

竹中ナミの写真

竹中ナミさん

社会福祉法人プロップ・ステーション理事長。1948年、兵庫県生まれ。24歳のとき、重度心身障害児の長女を授かって、チャレンジド支援活動に関わるようになる。1991年。ITを活用してチャレンジドの就労支援を行う「プロップ・ステーション」を創設。著書に「プロップ・ステーションの挑戦」「ラッキーウーマン」などがある。


― プロップ・ステーションを創設して12年。振り返ってどんな手ごたえを感じていますか?


 「障害者の自立支援の運動を始めてからよく話題にはされていたんですが、ITでチャレンジドの仕事作りをすると言ったら、みんな驚いて引いていました(笑)。当時(1991年)は、パソコンは一部の人だけの特殊な道具でしたから、“カネのかかる最新技術を、それも障害者相手に使うなんて、気ぃ狂ったんちゃうか!”という反応でした(笑)。“チャレンジドを納税者にできる日本に”というキャッチフレーズも衝撃的だったようです。あれから12年、普通ならもっと時間がかかるところを、IT社会の進歩に後押しされてここまで来ました。立ち上げた当初を振り返ると、隔世の感がありますね」。

 

― プロップ・ステーションはIT社会の先頭を走ってきましたね。


 「パソコン通信も、インターネットも、ブロードバンドも、真っ先に導入しています。最新最高の技術を活用しないと、重度の障害を持った人を社会に出すことはできませんから、プロップ・ステーションは常にITのトップの人たちとつながってきました。障害のマイナス部分を補って力を発揮するのに必要な道具は、何でも活用します」。

 

― “納税者”というキーワードも、日本の福祉を揺さぶる刺激的な言葉でしたね。


 「これ、私が関西人だからできた発想だと思うんですが、やっぱりお金のことを抜きにはできないでしょう(笑)。自由主義経済の仕組みの中で、人権を守るというのは、働き手として認めて納税者にするということですよ。これまで障害者支援運動には、“労働”という視点が抜け落ちていて、障害者はただもらうだけの人でした。障害者と健常者、弱者と強者を線引きして、“アンタは無理な人だから、社会に出なくてもいい”と言われていたわけです。でもそれはおかしいことです。自分の身の丈に有った労働でお金を稼ぎ、税金を納め、社会の支えての一人になって、そして発言者になるというのは、すごくまっとうなことだと思っています」。

 

セミナー風景の写真

プロップ・ステーションのオフィスは神戸、六甲アイランドにあります。プロップとはラグビーのポジション名で「支え合い」を意味しま。

 

― 企業の支援も従来の障害者支援活動とは異なる部分ですね。


 「一見、支援ですが、実は先行投資ですね。私は“必ずプロップ・ステーションが結果を出してお返しします”と話します。プロップ・ステーションのような活動は、ソーシャルベンチャーとかコミュニティービジネスとかいろいろな呼び名で言われますが、投資してくれる企業がプロップ・ステーションに期待しているのは、“社会的に信頼される事業をやりなさい”ということですから、ユニバーサル社会のシステム作りのために私たちきちっと結果を出します。社会に認められ、求められるものが生き残るのは当たり前のことです」。

 

― 現在は「ユニバーサル社会基本法案」(仮題)づくりに国会議員の方々と取り組んでいらっしゃるそうですが。


 「チャレンジドだけでなくすべての人が持てる能力を発揮できる“ユニバーサル社会”を実現すること、これが目標です。右も左も関係有りません。党派や立場を超えて、日本を変えたい人たちが集まってやっています。法律と意識は表裏一体です。人々の意識が高まらなければ法律づくりは進まないし、法を整備しなければ人々の意識を社会システムに引き継ぐことができません。“虎は死して毛皮を残す”と言いますが、“ナミねぇ死して法を残す”となれたらうれしいですねえ」。

 

― 国土交通省の事業においてもユニバーサルデザインというのは重要なテーマです。
セミナー風景の写真

愛娘、麻紀さんと。
写真集「チャレンジド」より


 「ホンマもんのユニバーサルデザインというのは、ハード整備だけじゃありません。システム、サービスまでトータルに含んでいます。移動の手段、生活に深くかかわる国土交通行政は、今ものすごく重要で、すごく期待しています。たとえば、スロープをつけただけで良しとしないで、それによって車いすの人の移動の自由がどのくらい確保され、暮らしが広がって力を発揮できるようになるのかを考えてください。ホンマもんのユニバーサルを必ず実現してください。

 高齢社会が超スピードで進む日本では、15年以内に2世帯に1人の要介護者を抱えることになります。この社会には、私の娘のような重度の障害、あるいは痴呆で社会貢献できない人々が存在します。さらに高齢化で弱者がどんどん増えていきます。そういう人たちをこの社会の中で、誇りある存在としてどう位置づけ、守っていくことができるのか、日本の大きな課題です。チャレンジドの可能性を閉じ込めたまま社会で丸抱えにして、一部の強者だけでこの高齢社会を支えるなんてできないです。深刻な事態はすぐそこに迫っているのに、みんなノンキやなぁと思います。このまま社会を変えることができずに弱肉強食路線を突っ走ってつぶれるのか、今、日本は分岐点に立っているんですよ」。

 

― プロップ・ステーションの現在の主な事業は何ですか?


 「今年からチャレンジド・クリエイティブ・プロジェクト(CCP)として、通販会社とタイアップして助産施設などで作った製品の販売事業を始めました。ITで力を発揮することが難しい知的ハンディーのチャレンジドの自立を目指すものです。

 また、NTTネオメイトと協力してデジタル地図の作成に着手します。

 歩く人のための道路情報を鮮明に入れる初めての試みです。できれば情報収集はその地域の人々に担ってもらって、全国民的な国民運動として展開し、全国共通のデジタル地図を作り上げたいと思っています。こんなことは国を頼っていたらお金と時間がかかって仕方ありませんから、自分たちでやるのが一番です。でも実験プロジェクトはぜひ近畿でやりたいので、近畿地方整備局さん、パートナーとして一緒に組んでやりましょう!よろしくね(笑)。近畿からまずユニバーサルをやりましょう!そして日本を変えていきましょうよ!」

 

プロップ・ステーションの挑戦の写真
ラッキーウーマンの写真

著書「プロップ・ステーションの挑戦」
(筑摩書房)

著書「ラッキーウーマン」(飛鳥新社)