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神戸新聞 2003年8月22日より転載  (第8回)

     
 

随想

 
 
ヤッホー!
 
 
―――――竹中 ナミ
 
 

 


 今年のお盆休みは、兵庫県内の国立病院重症棟に入所している娘(麻紀、30歳)と76歳の母とともに地域の盆踊りに参加させていただきました。

 麻紀は、明暗のみが分かる全盲で、聴覚も「音とリズム」は感じるけれど、耳に入った音や言葉の意味は全く理解できない状態なんやけど、盆踊りの軽快な音楽と集まった人たちの楽しげな雰囲気は理解したようで、とても明るい笑顔で踊りの輪にとけ込んでいました。何より嬉(うれ)しかったのは、おんぶした私の首にシッカリしがみつくことが出来たこと。麻紀は幼い頃から「接触拒否」という不思議な症状があって、抱っこやおんぶを嫌がり、おんぶした時に私の腰に足をからめることが出来るようになったのが18歳。首に両手でしがみつくことは今まで全くといっていいほど出来なかったんです。

 その麻紀の腕が、ギュッと私の首にからまっているので、もう嬉しくて嬉しくて思わず「ヤッホー!」と叫んでしまいました。母も「すごいすごい」と大喜び。体重が30キロ近くあるので、翌日は肩と腕がパンパンになったけど、私にとって今夏最高の「大イベント」となりました。

 普通の子どもが1年で遂げる成長を、30年かかってゆっくりたどっていく、いわば「悠久の時を生きる」麻紀のエポックメイキングやったわけです。

 夕方から降り出した雨で、ぎりぎりまで開催が危ぶまれた盆踊りやったけど、炭坑節が流れる頃にはなんとか雨も止み、ボランティアの皆さんがテントで販売する「一皿50円」の焼きそばも順調に売れて、茶パツにピアスで色とりどりの浴衣姿の女性たちに囲まれ、ご機嫌の麻紀でした。

 温かく迎えてくださった地域の皆さん、本当にありがとうございました!

(たけなか・なみ=社会福祉法人プロップ・ステーション理事長)