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神戸新聞 2003年8月7日より転載  (第7回)

     
 

随想

 
 
五感の延長線上
 
 
―――――竹中 ナミ
 
 

 


 IT(情報技術)を活用したプロップ・ステーションの活動を12年間続けてるナミねぇやけど、実はパソコンが苦手です。両手の指一本ずつで文字を打ったりメールを送受信すること、インターネットで調べもの(情報検索)をすることしかできないんです。

 でもこれは私が「見えて」「聞こえて」「喋(しゃべ)れる」という上に、体力と度胸があって「鉄の心臓にコケが五重に生えてる」と言われるような人間なので、パソコンが使えなくても生きていけるからやと思います。

 多くのチャレンジドにとっては、パソコンやインターネットなどのITが「五感の延長線上の道具」として役立ちます。見えない人は音声装置でパソコンを操り、聞こえない、喋れない人は文字や画像を駆使した仕事が可能です。外出が困難な人も自宅で必要な情報を得て、その情報を基に行動を起こすことができます。チャレンジドたちは「ITは自分たちにとって、人類が火を発見したような道具だ!」と言っています。

 だとしたら、ナミねぇのような「口と心臓が強い人間」がチャレンジドと社会や仕事をつなぐ役割を果たし、チャレンジド自身はパソコンを学んで「仕事人」になっていく関係が成り立つのじゃないか、と考えたことがプロップの設立につながりました。ナミねぇとチャレンジドは対等な関係で、それぞれが役割分担をしてるということです。

 私の究極の目的は、重症心身障害を持つ娘−麻紀(30歳)が、私が死んだ後も多くの人に護(まも)られて生きていける社会を生み出したいということです。そういう目的を持つナミねぇと、働いて社会を支える側に回ろうというチャレンジドが切磋琢磨(せっさたくま)する場所、それがプロップなんですよね。

(たけなか・なみ=社会福祉法人プロップ・ステーション理事長)