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マインドなら 2003年7月1日より転載

     
 

キクちゃんのボチボチいこか

 
 
チャレンジドスピリットで
ポジティブになる =2=
 
 

生活者の視点から

 
 

 


 アメリカで生まれた『クオリティー・オブ・ライフ(生活の質)』という概念が障害者問題で関心を持たれるようになってきた。「あなたはこれだけのことができないのだから、できるように努力しましょう」「健常者を百点だとすると70点になるよう努力しましょう。90点になるよう頑張りましょう」というのがこれまでの福祉の考え方。

 ところが『クオリティー・オブ・ライフ』の考え方というのは 「人間誰でもできないことは他人に助けてもらっているのだから、障害ゆえできないことは他人に助けてもらっていい。必要な人の力は貸してもらって『自分の意志で道を切り開き自己実現していこう』」。こうい風に物事を変えてゆくとポジティブになる。

 例えば精神でいうと、保健所のグループワークなどで『飯の作り方』なんかを習う訳なんですが、実際のところは、ひとり暮らしの人が部屋で飯を作るというのは極めて非合理なわけです。福祉サービスの給食を頂いて、余った時間を休息するなり自分の好きなことに当てる方がいいやないですか。生活障害で長年昼過ぎまで起きられない人は「苦しい思いをして朝起きる訓練」をするよりは深夜レストランでお金を稼ぐ方がいいやないですか。

 そういう『できることを伸ばそう』という考え方が『プロップ・ステーション』竹中理事長のポリシーだ。

プロップ・ステーションの挑戦の表紙の写真

 今回は直接お目にかかれなかったので、著書『プロップ・ステーションの挑戦』から竹中さん御本人と『プロップ』のチャレンジドたちを紹介してゆく。

 竹中さんが障害者問題に関わるようになったのは1972年、娘さんの麻紀さんが重い障害(身体と知的)を持って産まれてきたのがきっかけ。就労や社会参加は望むべくもない状態。竹中さんは「娘の養育に役立てば」と障害者のボランティア活動に参加し、数々の障害者に出逢った。「重い障害を持っていても、適切な支援さえあれば自立できる人たちがたくさんいる。娘のように本当になにもできない人は少数派だということがわかった。それ以来障害者の『できないこと』より『できること』に目がいくようになった。そして日本の障害者福祉への疑問が膨らんできた。アメリカの障害者はどんどん社会に出て精神的にも金銭的にも自立している。日本では重度の『障害者』と認定されている人は障害者年金を支給され『働かんでええよ』という形で、一般社会の外に置かれている。これは『保護』という名で隔離されているようなものではないか。命は平等でも、この経済社会を形成する人間として対等とはいえないのではないか」そういう疑問が竹中さんに沸き上がった。

 「障害を持っていても働ける人は働いて社会を支える側に回って欲しい。娘のような人たちを支える側に回ってください。そんな気持ちで造ったのが『プロップ』なんです」
竹中さんの発言を聞いて皆さんどう思う?障害ゆえにできないことは人の手を借りていい。その分『自己実現』を目指す。就労や社会参加ができない人は少数派。社会は『障害年金』を与えるという形で『保護』してる。

 竹中さんは「娘のように本当に介護が必要な人には国は充分な援助を、支援さえあれば仕事ができる人にはそういう社会を」という。そういう運動こそが「プロップ」の柱なのだ。例えば山崎博史さん(1964年生まれ)、19歳の時交通事故。上腕部から下が利かないという障害を負った。病院の屋上で凍死自殺を図るも発見される。「自分で自殺もできない」絶望する日々が5年も続いた。そんなある日、中学時代の同級生、景子さんと再会。恋が生まれ希望も生まれた。猛反対する景子さんのご両親を3年掛けて説得。「ようし!仕事見つけて嫁さん養うぞ!」けれど仕事は見つからない。その時『プロップ』のことを偶然知りセミナーへ。初めてのPCとの遭遇。「これ使えば稼げるのですか!?」 入門書にあるキーボードを実物大にコピーし、機能が残っている小指の関節と手首を使ってタイピングの猛特訓。そして1年後には工業高校の教務管理システムや貿易会社のロット管理システムを造り上げたという。「嫁さんを養うまでには至っていないけれども、その日は近い」と竹中さん。

 絵本作家志望の久保利恵さん(1974年生まれ)は筋力がほとんどない先天性の難病で車いす生活だ。小さいときから絵を描くのが好きだったものの、絵の具の調合、画用紙を動かすのもお母さんにやってもらっていた。お母さんも偉いよねぇ、娘の夢を叶えてあげようと美術短大へと進学させる。彼女はそこでPCと遭遇。PCだとマウス操作ひとつで絵が描ける。困難な筆遣いいらない、絵の具の調合いらない、修正も自由自在だ。「PCって便利なもんやなあ。卒業したらもっと勉強したい」そして彼女は『プロップ』へやって来た。努力のかいあって彼女は関西電力の依頼を受けて「夜間の余剰電力を地球の裏側へ回す」というアイディアのイメージ画を作成。嬉しかったやろねぇ、彼女もお母さんも。

 紙面の都合でふたりのチャレンジドしか紹介できなかったけどポジティブやねぇ。おふたりも回りの人たちも。一番ポジティブなのは竹中さんのような気がするけれども。精神の家族も本人もマイナス思考はダメダメよ。今回の『プロップ』取材でキクボチもじんわりとやる気が出てきたよ。どこかお仕事頂戴ね。

(おわり)