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紙すきから始めるオリジナルカード作り(伊丹市の「ゆうゆう」) |
「先日、フェリシモから届いたぐるぐるうずまきクッキーをいただいたらとてもおいしくて、やみつきになりました」。この秋、兵庫県伊丹市の授産施設「ゆうゆう」に届いた一通の手紙を前に、同施設で働く障害者や職員の顔に笑みがこぼれた。
ぐるぐるうずまきクッキーは兵庫県内の障害者が働く小規模作業所や授産施設8カ所で作られ、フェリシモのカタログで販売されている。手作りのため、作業所ごとに形や味が違ったり、一つ一つの大きさにも差があったりする。市販のクッキーと比べると「ちょっと不格好かもしれない」(ゆうゆうの久野茂治施設長)。しかし、手紙に書かれた「形や大きさが違うけど、人のぬくもりが伝わってきてホッとします」の言葉が、ゆうゆうの障害者と職員にとって大きな励みとなっている。
「チャレンジド・クリエイティブ・プロジェクト」(CCP)は昨年6月、情報技術(IT)習得による障害者の自立を目指してきたプロップ・ステーションとフェリシモが考案。これまで地域のバザーやチャリティーなど、販路が限られていた小規模作業所・授産施設の製品を全国の消費者に届ける試みとして、今年1月にスタートした。
肉体的、社会的なハンディを負う障害者を「マイナスの存在でなく限りない可能性を秘めた人たち」(竹中理事長)と考え、「チャレンジド」と名付けた。小規模作業所などは「アトリエ」と呼び、一般のメーカーと同じ視点で市場に流通できる製品を作る生産拠点を育てようとしている。CCPを通じて製品の質を高めることで販路をさらに開拓して売り上げを伸ばし、月給1万円程度がほとんどの障害者の自立につなげるのが目標だ。
兵庫県と神戸市を介して、県内にある約450ヵ所の小規模作業所・授産施設に参加を呼びかけたところ、45施設から約110点の作品が集まった。その中から第一弾として、ぐるぐるうずまきクッキー、さをり織り製品、せっけんなどの製品雑貨を6月発行のカタログに掲載した。
いまではぐるぐるうずまきクッキーが、年間契約で毎月違う商品を届けるカタログに載った全33商品のうち、売り上げで10位以内に入る人気商品に成長。「福祉事業ではなくビジネスとして成立させたかった」(フェリシモの吉岡哲・事業開発本部主事)ため、カタログでは障害者の手作り製品であることを一切宣伝しなかった。
これまでは、多くの作業所が「買い手の善意に甘えてきた」(竹中理事長)ため、品質や利益面などは必ずしも重視されてこなかった。フェリシモは4人の社員を各作業所に通わせ、カタログ通販で培ったマーケティングなどのノウハウを施設に伝授。ゆうゆうの久野施設長も「品質も向上した」と話す。
CCPの取り組みは少しずつ全国に浸透し、プロップ・ステーションには共通の悩みを抱える全国各地の施設や自治体のほか、障害者の親からの問い合わせなどが増えてきた。
和歌山県では18日に県内16施設が参加した商談会が催され、来年4月以降の製品化に向けて動き出した。岩手県もCCP導入に大きな関心を寄せている。CCPの趣旨に賛同した日本郵政公社は来年2月、クッキーとパウンドケーキのセットなどCCPの製品を全国の郵便局で配布する。
障害者の熟練度もまだ低いため、製品がフェリシモと施設にとって大きな売り上げ増に寄与する段階ではない。だが、吉岡主事は「一般のメーカーでは思いつかないデザインなど自由な発想が新鮮だった」と振り返る。作り手の思いが伝わるCCPの製品群が、画一的な製品に飽きはじめた多くの消費者に届く日は遠くないかもしれない。
(神戸支社: 遠藤邦生)
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