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kobecco 2003年11月号より転載

     
  ●特集/座談会  
 
ユニバーサル社会を目指して
 
 

 

矢田立郎神戸市長の写真
 まちづくり、社会づくりの基本精神としてユニバーサルデザインの発想が全国的に盛り上がりつつあるいま、神戸らしいユニバーサルデザイン、新しいスタイルのまちづくりについてそれぞれの立場から意見を交換していただきました。
 震災復興10年目、2005年「ユニバーサルデザインのまち神戸」を全世界にアピールします。

 

■ 出席者
矢田立郎  神戸市長
田中直人  摂南大学教授
竹中ナミ  社会福祉法人プロップ・ステーション理事長
森崎清登  近畿タクシー株式会社 代表取締役社長

 

ユニバーサルデザインとは


 「みんなにやさしいデザイン」ということです。年齢、性別、国籍、身体の状況など、個々の人間の特性や能力に関係なく、はじめから、だれもが利用しやすいように、まちや建物、製品、環境、サービスなどをつくろうとする考え方のことです。

 

新しい指針
ユニバーサルデザイン


矢田 ユニバーサルデザインの先にはユニバーサル社会があります。そういう意味では、ユニバーサルデザインという言葉自体が、すでに古いのかも知れません。一般的にユニバーサルデザインという言葉には、高齢者や障害者が暮らしやすい環境というイメージがあるようです。しかしアメリカの発想はもう一歩先を進んでいます。障害者が仕事を持ち、自立できる社会を目指しているのです。これを目指していかなければ、本当の意味でのバリアフリーは達成できないのだと思います。

竹中 バリアフリーは障壁を取り除くことですが、ユニバーサルデザインとは、その後の社会の構造改革を指しています。それぞれの人が、それぞれの力を発揮できる社会をつくることです。みんなで力を出し合って、支え合う社会をつくることなのです。

田中 そもそもユニバーサルデザインという発想は、アメリカで提案されたものなのですよ。その後、まちづくり、ものづくりの場で議論されている発想です。ユニバーサルデザインの発想は、障害者だけの問題を扱っているわけではありません。すべての人が恩恵を受ける仕組みをつくっていくことにあります。そういう意味では、神戸市のこれまでの取り組みと同じです。なにもこれから特別新しいことをやろうと言うわけではないのです。ユニバーサルデザインという言葉を使うことによって、気を引き締め直す意味が持てればいいのだと思います。最近のまちづくりはただ参加するだけでは物足りないものになってきています。まちづくりのプロセスそのものが大切なものなのです。みんなで考え、その結果にはみんなに責任がかかってくる、立体的な参加です。これは日本型のユニバーサルデザインだと思うのです。将来はこの形が当然になってほしいですね。

矢田 時代が変わる毎にいろいろな言葉が出てきますよね。一時期、ノーマライゼーションという言葉がありましたが、要はユニバーサルデザインと同じことだったのです。心の問題を扱うという意味では、人間として生きていく考え方の提案だと言えます。

竹中 ユニバーサルデザインにしても、ノーマライゼーションにしても、日本には少なかった発想ですよね。こういう考え方が広まってきたというのは、国民の自治意識が変化してきたのだと思うのです。参加を越えた参画の時代に入ってきたのです。障害者をプラスの面から見る考え方が、日本にはほとんど見られませんでしたが、この発想を推し進めたのが、チャレンジドという言葉だと思います。

田中 神戸には文化的なバリアがないのですよ。逆に京都には、外からなかなか入りづらい土地ですよね。神戸には住みやすさに加えて、外部のものを受け入れる気質が昔からあります。そういう意味ではユニバーサルな風土であると言えます。

森崎 比叡山には月が似合うし、六甲山には太陽が似合いますよね。神戸にはオープンマインドなイメージなのですよ。長田では「長田型ユニバーサルデザイン」を推進しています。特に震災以降は、オープンにならざるを得なかったということもあります。商店街の方々と集まって話すようになって数年ですが、皆さんまちづくりについて熱心に話し合っています。震災を機に、火災によって溶けあった合金のように結果が強くなったように思います。この熱い働きそのものが楽しかったから、いまもずっと関わりつづけているのだと思います。ある人は「商売はボロボロだけど、ここ4〜5年、これまでいちばん楽しい」と言っています。状況をプラスに持っていく気風が、長田にも神戸にもあるのです。アメリカでも行われていることですが、神戸型の発想として、世界に向けて発信できるはずです。ユニバーサルデザインという言葉の説明として、私は「みんなが幸せになることで、自分も幸せになること」だと言っています。

 

森崎清登氏 、竹中ナミ氏、 田中直人氏の写真
左から森崎清登氏 、竹中ナミ氏、 田中直人氏

 

自分たちでやる
まちづくりの発想


矢田 「自分たちがやらなければ!」という、震災時の危機感がありましたよね。長田の場合、被害が大きかった分、その危機感もさらに大きかったのだと思います。地域の市民と企業が一緒になって、まちづくりを推し進めていますよね。

田中 ユニバーサルデザインはいま、全国で盛り上がっています。なかでも地域に思い入れを持った人々が根づいているまちは、一歩抜き出ている感があります。特に長田は特異な方だと思いますよ。できれば神戸全体が長田のようになってほしいとさえ思っています。神戸は震災から立ち直るだけではなく、誇りを持ってまちづくりをしていかなければなりません。その気風が、長田から神戸全体へと広がってほしいですね。

森崎 長田でまちづくりがはじまり、他の地域でもいろいろな取り組みが出てきました。きっかけさえあれば、みんな同じような動きができるのです。パターンがあるわけではありません。地域ごとの強味を活かしてほしいですね。

田中 そうですね、基準をつくるのではなく、地域の個性を活かすことをまず考えてほしい。以前、神戸は坂のまちだからバリアフリーは無理だという意見がありました。しかしバリアフリーにとってはマイナスである坂を、個性として考えることが必要なのです。すべての人に対してウェルカムである「観光バリアフリー」という発想もあります。いろいろなものを含めてユニバーサルデザインなのです。

森崎 知恵や知識を融合していければ、個人プラス個人のレベルでも面白いものがつくれます。みんながそうなれば、神戸にも面白い発想が生まれるはずです。ちょっと溶けあうだけで、面白いものがつくれるのです。まずは気楽に、意見を交換していけばいいのですよ。

竹中 チャレンジドの個性を、プロとの連携によって高め、商品化する「チャレンジド・クリエイティブ・プロジェクト」が生まれたのも神戸ならではだと思います。マイナスこそプラスの種なのです。困ったときこそステップアップのチャンスです。震災は神戸のバネであり、パワーアップのチャンスにしていかなければなりません。破壊のあとには創造があるということは、震災を経験した私たちは、堂々と言えることなのですから。

矢田 皆さんの話を聞いていると、「自分たちがやらなければ!」という共通の思いを感じます。

 

復興10年目に神戸のユニバーサルデザインを
世界に向けて発信

座談会風景の写真
森崎 ユニバーサルデザインは、長田でも21世紀を通してつかえる言葉だと思います。ユニバーサルデザインには人類の夢が含まれていますから。

田中 プロジェクトには夢があり、まちにはロマンが必要です。このふたつを結びつけるのがユニバーサルデザインです。絶えず変化する基準は駄目ですから。生活レベルでは目先に目が行きがちですが、もっと長い目で見ていくことが大切だと思うのです。神戸は、まずは空港をつくるなら、50年、100年後を見据えていかなければなりません。そして多くの市民の意見を反映する形で「神戸空港は世界一の、市民のための空港だ」と言われることを目標にしていきたいですね。

竹中 神戸がユニバーサル社会のモデルになれば、神戸から全国に動きが広がって行くはずです。そのためにもまずは、神戸空港を世界一ユニバーサルな空港したいですね。それには、神戸のみなさんが、どれだけ自分たちの空港だと思えるかにかかっているのです。

矢田 震災から10年目にあたるさ来年2005年には、「ユニバーサルデザインのまち神戸」を全世界に向けてアピールしていきたいですね。個人の立場を地域、社会に置き換えて考えることが大切です。そのためのきっかけはいろいろとありますが、神戸のきっかけは震災でした。神戸にはすでに共同精神の礎ができているのです。「みんなで面白いことをやろう!」。これこそがユニバーサルデザインなのです。