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NEW MEDIA 2003年7月号より転載

     
 
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千葉からユニバーサルの風を!
 
     

8月に開催される「第9回 チャレンジド・ジャパン・フォーラム(CJF)2003 国際会議 in ちば」のプレ大会が、去る5月6日に千葉市で開催された。
「千葉主権」と唱えて地方から変革を目指す堂本暁子知事と、「チャレンジドを納税者にできる日本」のキャッチフレーズを掲げて各地でCJFを展開してきた竹中ナミ・社会福祉法人プロップステーション理事長の対談が行われた。
障害者雇用の実績が47都道府県中44位という千葉県が、いま大きく変わろうとしている。
(構成・写真:中和正彦=ジャーナリスト)


堂本暁子さんの写真

堂本暁子

千葉県知事

VS

竹中ナミ

社会福祉法人
プロップステーション理事長

竹中ナミさんの写真

チャレンジド&ユニバーサル そのコンセプトを学べ

竹中 CJFは、チャレンジドが活躍できる社会のあり方として、「バリアフリー」や「ノーマライゼーション」からもう一歩進んだ「ユニバーサル」な社会を目指しています。すべての人がそれぞれの持てる力を発揮できて、その力でお互いを支え合っていく社会です。

 これは、「ユニバーサルデザイン」の概念に基づくものですが、日本ではこの言葉が建物や工業製品などの話で使われることが多いので、私たちは敢えて「ユニバーサルなまちづくり」といった言い方をさせてもらっています。

 そのCJFを、今回、「ぜひ我が県で」と招聘してくださったのが、堂本知事です。そこで、千葉県から「ユニバーサル」の風を吹かせようというテーマで、対談させていただきたいと思います。

堂本 「ユニバーサル」もそうですけど、「チャレンジド」(障害者=挑戦すべき使命や課題を与えられた人)も素晴らしい言葉です。残念なのは、どちらも英語だということ。私たちは、本当は「障害者」という言い方から脱却して、もっといい日本語を生み出さないといけない。そのコンセプトを持ったとき、世の中は変わるのだと思います。

竹中 「チャレンジド」という言葉を知ったとき、私は「言葉は本当にその国の文化や哲学なんやな」と思いました。言葉がない、あるいは言葉を変えられないのは、残念ながら、その国の文化や哲学がそこまで至っていないということです。だから、私は横文字が好きなわけではないですけど、「チャレンジド」や「ユニバーサル」という言葉を使って、その言葉を生んだ国の人々の知恵を日本に入れて、日本を変えていきたいと思っています。

 


44位はゴボウ抜きのチャンスなり!?

竹中 さて、堂本さんご自身の中では、「ユニバーサル」について、どのようにお考えですか。

堂本 私は、常々「県民一人ひとりが参加して作る千葉県政」と言っています。600万県民が、老いも若きも、女も男も、病気や障害がある人も、皆が対等な関係で参加する。それも、単に意見を言うだけでなく、この地域で自分の個性や能力を発揮できる。そういう社会環境を作ろうとしています。これは、チャレンジドも参加するユニバーサルな社会と、まったく重なるものです。

 今度のCJFでは、千葉県にとどまらず、日本を住みやすくするために、その思いを全国に発信したい。日本中から参加していただき、思いを共有して、それぞれの地域に持ち帰って、ユニバーサルな地域づくりをしていただきたい。

竹中 今日のこのプレ大会も、企業の方も、政治家の方、大学の研究者の方、行政の方、NPOの方、チャレンジド当事者の方、本当にいろいろな方々が集まっておられます(300名超)。いわば会場全体がユニバーサルです。これをステップにして、本大会も絶対に成功させたいですね。

 ところで、そういう気持ちや情熱は、最終的には政策なり制度なりに結実させる必要があります。県庁の方々とお話ししたら、「千葉県は障害者雇用では遅れているんですよ」と言っておられましたが、堂本さんが目指す「明日の千葉」の中で、何か構想はあります
か。

堂本 千葉県は障害者雇用に関して、47都道府県中44位です。これからチャレンジドの就労について全国に発信していこうというには低過ぎます。どうしても上げなければいけません。県庁ではいま、「ゴボウ抜き」が合言葉になっています。

 実は、千葉県は情報公開でもずっと下位だったんですけれど、去年23位、今年は8位まで来ています。障害者雇用も、こうしなければと思っているんです。

 ただし、これは単に雇用される人や雇用する企業が増えればいいという問題ではありません。人は、自分の能力に合った仕事ができることが、ひとつの幸せだろうと思います。その意味で、どうやって自分の能力を発見してもらうか、どういう行政的にバックアップがあればスムーズに仕事に就いてもらえるか、を考えなければなりません。県としては、今年を「障害者雇用促進元年」として、そういうことを考えながら、“ゴボウ抜き”をしていきたい。具体的には、例えば障害者就労支援センター、あるいは能力開発センターを作って、指導員を増やしていきたいと考えています。チャレンジドに職業訓練をし、仕事に就いたら、その人と職場の人々の間のコーディネートも行う指導員です。

竹中 いま44位ということは、ゴボウ抜きをするチャンスが与えられているということです。こういう考え方を、「チャレンジド」という言葉は持っているわけですね。

 


市川熹氏、秋山岩生氏、金子楓氏の写真
プレ大会では、市川熹(千葉大学大学院教授)、秋山岩生(NPOふぁっとえばー代表)、金子楓(福祉作業所ワークアイ所長)の3氏と竹中理事長によるシンポジウムも行われた。市川氏は情報機器JIS化、秋山氏(脳内出血で肢体不自由)はチャレンジド自らの仕事づくり、金子氏(中途視覚障害)は視覚障害者の就労を中心に、それぞれの取り組みを紹介した。

 


多様な働き方のできる社会千葉からうねりを!

竹中 ただ、障害者雇用には一つ大きな問題があります。日本では、障害を持つ人が働くことを支援する法律が一つしかありません。企業が一定割合の障害者を雇うように義務づける法律ですが、その雇用は、通勤してフルタイムで働いて、雇用保険や最低賃金の対象になるものです。そういう働き方を応援する法律しかないので、それ以外の働き方を望む人が、たくさん取り残されているんです。

 そこで、プロップステーションは、コンピュータのネットワークに着目して、通勤が無理な人でも自宅や施設の中で仕事ができる仕組みを作り出しました。しかし、プロップとつながる人だけが、そういう働き方ができればいいわけではありません。全国のどこでどんな障害を持って生まれようと、中途でどんな障害を持つ身になろうと、学んで仕事に就く機会を持てるようにしなければいけない。プロップの力だけでは不可能なそういう社会づくりを、いろんな方々の力を集めて推し進めるために始めたのが、CJFだったんです。

 こういう問題は、いくら国が音頭を取って何かしようとしても、実際に各地で当事者の気運が盛り上がらなければ、前には進みません。国と自治体で言えば、まず自治体が変わることが大事で、それが国を動かす力になります。ぜひ堂本さんのパワーで、千葉からうねりを起こしていただきたい。

堂本 私は一昨年、三重県のCJFで本当に驚きました。スクリーンに見事なグラフィックデザインが次々と映し出されたのですが、それを描いたのは、水を飲むにも介助が必要という重い障害を持った女の方でした。私はそれまで、そんな重い障害を持った人にそんな可能性が秘められているなんて思ってもみませんでした。しかも、彼女に「いま一番望んでいることは?」と聞いたら、「仕事が欲しい」ということでした。これも、思いがけない答えでした。気づかずに持っていた差別感に気づかされた一瞬でした。

 44位というような状態は、言い換えれば比較的白紙の状態です。これからそこに、いろいろな働き方と暮らし方があることを考えて、どういう総合政策を描くか。それが、私たちに与えられた課題だと思っています。

竹中 ありがとうございました。

 



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