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SOHOコンピューティング 2002年12月号より転載

     
  プロップ・ステーション便り ナミねえの道  

  第8回――障害者のIT自立支援が総務大臣賞受賞  
  プロップを支えてくれた人々
 
     

掲載ページの見出し

プロップ・ステーション
プロップ・ステーションは、1998年に社会福祉法人として認可され、コンピュータと情報 通信を活用してチャレンジド(障害者)の自立と社会参画、特に就労の促進と雇用の創出 を目標に活動している。

ホームページ
http://www.prop.or.jp/

竹中ナミ氏
社会福祉法人プロップ・ステーション理事長。重症心身障害児の長女を授かったことから 独学で障害児医療・福祉・教育を学ぶ。1991年、プロップ・ステーションを設立した。現 在は各行政機関の委員などを歴任する傍ら、各地で講演を行うなどチャレンジドの社会参 加と自立を支援する活動を展開している。

IT(情報通信技術)による障害者の自立、就労支援のモデルケースとして今や全国から注目されるプロップ・ステーションだが、その道のりは決して平坦ではなかった。「総務大臣賞」を受賞したナミねぇが幾度となく語った「この賞は私が受賞したのではなく、プロップで学んだチャレンジドや支援してくれた人たち全員の受賞です」という言葉が印象深い。


障害者から受講料を取る!

ナミねぇ――私がITを活用した障害者の自立、就労支援を決意したのは、ある青年実業家との出会いが大きなきっかけやったんです。彼は高校時代、ラグビーの試合中に頸椎損傷で重度四肢麻痺になりました。こういうケースは普通、親が子供を守るために閉じこもることが多いんですが、彼の親御さんは「お前は長男やから跡を継いでもらわんと困る」と。
 彼はその後大学に進学し、わずかに動く左手の指先だけでPCを学びました。プロップ創設期のメンバーでもあり、今やデータベースソフトなどITを駆使しながらマンションのオーナーや地域障害者団体の役員など幅広く活躍されています。青年実業家として働く彼を見て思ったんは、本人の意思と家族の応援、そしてPCや車椅子などの道具さえあれば障害者であれ誰もが社会へ向かうことができるんやということです。
 プロップは、1991年5月にプロップ・ステーション準備会を兵庫県内に設立し、翌年4月に大阪ボランティア協会内に事務局を移転して以来、約7年間任意団体として活動を続けました。その途中にはバブルの崩壊もあり、応援してくれた中小のソフトウェアハウスが大打撃を受けて苦しい時期もありました。でも景気が回復するまで時間がかかるやろうから、今のうちに実力をつけようと踏ん張って勉強を続けてたんですね。そのうちに“障害者が働くためのセミナー”というユニークな発想に共感してくれたアップル社からPCを寄贈していただいたり、大阪ビジネスパーク内の複数のエレクトロニクスメーカーには、セミナールームを貸していただいたりとさまざまなご支援をいただきました。
 いよいよチャレンジドの仕事を動かすために社会福祉法人化を目指したときにも申請には随分と苦労したんです。というのも、そもそも社会福祉法人には老人や障害者の施設があり、そこで福祉を施すというのが通常の概念です。でもプロップには施設もないどころか、PCネットワークで繋がった向こうに障害者がいて、しかも目指しているのは仕事であり、おまけに受講者の障害者からはお金も取る(笑)。まったく前例がなかったわけです。


お金で世の中動かない

 もう一つの大きな壁は法人設立のための資金の問題でしたが、当時、個人会員として支援してもらっていた元マイクロソフト社社長の成毛眞氏(現(株)インスパイア代表取締役社長、プロップ・ステーション理事)がビル・ゲイツ氏の協力を仰いで、マッチングギフト制度(※1)を利用して資金を提供していただくことができました。
 また、現在のプロップが入居しているオフィスビルは大手信託銀行の社長に無償で提供していただきました。その後、ビルの経営が神戸市に移管してからも「震災後、神戸で一生懸命頑張っているのはプロップさんだけや」と、神戸市から引き続き無償で貸していただいています。こうした紆余曲折がありながらも、節目節目で協力者が現れて今のプロップ・ステーションがあるんです。ですから私にとって人との出会いほど素晴らしいものはないし、お金が世の中を動かすものではないということを確信しています。

厚生大臣認可の社会福祉法人格を取得し、プロップ・ステーションが始動したのは1998年9月のことだ。社会福祉法人には第一種と第二種があるが、プロップの場合は第二種の社会福祉法人となる。第一種社会福祉事業は、強い強制と監督の必要性の高い事業で補助金が前提だが、一方の第二種社会福祉事業は補助金がなく、極めてNPO的な要素の強い福祉法人である。


各省庁も自治体も動き出す

ナミねぇ――第二種社会福祉法人としてのプロップのメリットは、チャレンジドと仕事を繋ぐときの契約が可能だということ。また、社会的信用があるということです。そして、もっとも大事なのはプロップを応援しようと寄付してくださる企業や人が税制面での優遇措置を受けられるということなんですね。
 でも今のように景気が悪い時期だと、たとえ税制面で優遇があってもなかなか寄付をしようという企業や個人はありません。ですから本当にプロップのミッションに共感する人たちだけが集まってくれて一生懸命応援してもらってるという経緯があり、本当にありがたいと思っています。
 今はまさに時代の転換期であり、志の高い方々の中に新しい日本にしたいという思いが渦巻いているという実感をひしひしと感じますね。実際に内閣府をはじめ各省庁が、チャレンジドに対する保護政策から自立支援に向けての法律を作るべく動き出しています。
 また、各都道府県の自治体も、すでにチャレンジドの就労支援に向けて支援センターなどを設置するところが続々と出てきています。現在の制度では障害者の法的雇用率を満たした企業に対して助成金・奨励金の支給や税制面での優遇があるだけで、アウトソーシング(※2)に関して法的バックアップがありません。国の制度で「企業がアウトソーシングすることでインセンティブを得られるような」仕組みを作り、自治体が中心となったコーディネイト機関が、国や企業からの仕事をチャレンジドや高齢者、いわゆる通勤困難な人たちに提供できる仕組みができれば、プロップとして一定の使命を果たしたといえるのではないでしょうか。

 

※1 マッチングギフト 社員の個人的な寄付に会社も同額を援助し、社員の善意を倍にして届けようという欧米では一般的な制度で、個人や団体が教育、医療、福祉等でこの制度を利用している。

※2 アウトソーシング 業務の外部委託や、社外資源の活用の意味。

[編集部よりお知らせ]
 最近、プロップ関連会社を名乗った在宅メーカーの募集が増えているとのことですので、ご注意ください。


Column

ナミねぇ応援団が受賞をお祝い

 

チャレンジド・ジャパン・フォーラムの写真
授賞式(上)と祝賀会の模様。写真右は、前号でご紹介した山崎安雅さん。下は衆議院議員の野田聖子さん。 チャレンジド・ジャパン・フォーラムの写真

10月1日に行われた政府の「情報化月間記念式典」において、ナミねぇが平成14年度情報化促進貢献個人の「総務大臣賞」を受賞した。受賞者のほとんどは技術系の研究者や企業人で、ボランティア団体の代表が受賞するのは極めて異例なことだ。社会福祉法人プロップ・ステーションにおいてITを利用したチャレンジドの自立や就労を支援した功績と、障害者のIT利用の視点から政府の調査研究会等の報告の取りまとめに尽力するなど情報通信バリアフリー環境実現のために貢献したことが評価されての受賞となった。また、10月17日には、東京で祝賀会が開かれ、大勢の“ナミねぇ応援団”はお祝いに駆けつけた。


構成/木戸隆文 撮影/有本真紀・大川写真事務所


[チャレンジド] 神から挑戦する使命を与えられた人を示し、近年「ハンディキャップ」に代わる新たな言葉として米国で使われるようになった。


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