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NEW MEDIA 2002年11月号より転載

     
  The Challenged とメディアサポート59  
  「第8回チャレンジド・ジャパン・フォーラム 2002 in いわて」報告  
 
チャレンジドの手で
イーハトーブを!
 
     

集合写真「第8回チャレンジド・ジャパン・フォーラム(CJF)2002 in いわて」が8月27〜28日、岩手県盛岡市内で開催された。
「イーハトーブ by チャレンジド」というキャッチフレーズは、ITという自立のための道具を手に入れた今こそ、チャレンジド(障害を持つ人)自らが宮沢賢治の理想郷建設の主体になろう、という意気込みを示したもの。「自立」を一つの大きなキーワードとして、さまざまな議論が展開された。

 

(報告:中和正彦=ジャーナリスト、
写真:村川 勉)

 


チャレンジドも自治体も自立が大事

清原慶子・東京工科大学教授(CJF副座長)
「チャレンジドを納税者に」という目標を「基本的人権」の視点から力強く語った清原慶子・東京工科大学教授(CJF副座長)

 「家族と暮らしたい。仕事をしたい。豊かになりたい。そんな当たり前の願いを持てないとしたら、それは個人の問題ではなく、社会の問題です。イーハトーブ実現のために、私たちチャレンジドも問題に立ち向かっていかなければなりません。なぜなら、それは私たちのイーハトーブだからです」
 実行委員長の村田知己さんは、そう力強く開会の挨拶をした。
 村田さんは骨の難病のため、中学時代までの多くの時間を病院で過ごした。今も歩行に杖が欠かせない。しかし、苦労して盛岡市役所へ就職。90年には「盛岡・マニラ育英会」を設立し、市民の国際交流を育ててきた。自立し、イーハトーブ建設を目指す岩手チャレンジドのモデル的な存在の一人だ。
 続いて挨拶に立った増田寛也岩手県知事は、「いま自治体にも自立が求められている。住民に最も近い市町村の自立が特に大事」と語り、産・官・学・NPO・障害の当事者らと地域の自立について語り合えるCJFの意義を強調した。


人が誇りを持てるとき

成毛真氏の司会で進められたセッション
成毛真氏の司会で進められたセッションでは、「多様性」に対応する教育や技術が語られた

 基調講演は、CJFの副座長で東京工科大学メディア学部長の清原慶子教授の「ITを活用した、誇りある生活」。その要旨をまとめると――。
 《憲法には「基本的人権の保障」が謳われ、教育を受ける権利、勤労の権利と義務、納税の義務といった権利・義務が記されている。それらの権利・義務をまっとうできなければ、基本的人権が保障されているとは言えず、実際問題として、私たちはこの社会で誇りを持って生きていくことが困難になる。
 チャレンジドが働くには、障害ゆえに支援を必要とする部分もある。しかし、チャレンジドが働く機会を得て、正当な収入を得て、本人が誇りを持てるだけでなく、それを支援した人も誇りを持てる。そして、共に生きる者としての誇りを持ち合える。
 ITはその相互を支援する力を持っている。その力を生かす地域づくりの知恵が、いま求められている》
 その後のプログラムでは、チャレンジドも参加できるIT時代の学び方、働き方、暮らし方について、各界の第一人者が持論や最新の情報を提供して語り合った。
 1日目は、前マイクロソフト社長の成毛真さんが司会のセッションに、阿多親市(マイクロソフト代表取締役)、金子郁容(慶應幼稚舎長)、中野秀男(大阪市立大学教授)、手嶋雅夫(ティーアンドティー代表取締役)、安延申(スタンフォード日本センター研究部門所長)、西嶋美那子(日本経団連障害者雇用アドバイザー)の各氏が登場。

金丸恭文氏の司会で進められたセッション
金丸恭文氏の司会で進められたセッションでは、「エデュケート」(教育する)の語源に「引き出す」という意味があることまでさかのぼって、日本の教育のあり方が語られた

 2日目は、6月に東証一部上場を果たしたフューチャーシステムコンサルティング社長の金丸恭文さんが司会のセッションに、須藤修(東大教授)、岸本周平(財務省課長)、池田茂(情報通信ネットワーク産業協会専務理事)、西野弘(スエーデン王国サムハル社会福祉事業団日本代表)の各氏が登場した。
 このそうそうたる顔ぶれは、チャレンジド就労支援に新たな誇りを感じて個人の資格で参加している。その輪には、自治体の首長も加わっている。前回に引き続き、プログラムの最後に飾ったのは、改革派の知事たちによるセッションだった。

 

盛岡市民福祉バンクの牧野立雄氏
村田知己氏
地元のNPO・盛岡市民福祉バンクの牧野立雄氏は、宮沢賢治の「雨ニモマケズ」の理念を熱く語った 村田知己氏は、このCJFをイーハトーブ建設に向けた自らの取り組みのスタートにしたいと、力強く語った

改革派知事たちの挑戦

 今回参加したのは、ホスト役の増田知事と、浅野史郎宮城県知事、北川正恭三重県知事、太田房江大阪府知事、木村良樹和歌山県知事の5人。
 初参加の木村知事は、国の補助金を取り合うような福祉の世界のあり方に疑問を抱いていたが、CJFでチャレンジドがチャレンジするのを後押しする行政のあり方に触れて「目から鱗が落ちた」という。そして、「今までの制度にとらわれず、中山間地域の活性化なども考え合わせた県独自の事業を考えていきたい」
 中小企業の多い大都市の太田知事は、チャレンジドが教えるIT講習会や、チャレンジド自らが企業を回って仕事の掘り起こしを行うなどの施策を紹介。「目に見える形で示して、理解を広めたい」
 昨年CJFを開催した北川知事は、すでにチャレンジド就労支援組織を立ち上げたことを紹介。「今度は、この就労支援事業で自立を目指すチャレンジャーに優先的に仕事を発注する予算をつけました。ご注目いただきたい」
 CJFを自県に誘致した最初の知事で、障害者問題の専門家である浅野知事は、最後にこう訴えた。
 「障害を持つ子どもと他の子どもと分けて養護学校に入れることが本当に必要なのか。2005年の介護保険の見直しで障害者を対象にするかどうかという問題をどう考えていくのか。この2点は、CJFの目指す理想にも影響する大きな課題なので、ぜひ皆さんも考えてほしい」。

増田寛也知事
浅野史郎知事
北川正恭知事
太田房江知事
 
木村良樹知事
知事セッションには、すでにCJFを開催した増田・岩手県(今回)、浅野・宮城県(第5回)、北川・三重県(第7回)の各知事に加えて、新たに太田・大阪府、木村・和歌山県の各知事が参加。ユーモアを交えながら、「地方からの改革」をアピールした。
(写真左から)増田寛也知事、浅野史郎知事、北川正恭知事、太田房江知事、木村良樹知事

チャレンジドたちの発言

プロップ・ステーション・竹中ナミ理事長
CJFの顔=プロップ・ステーション・竹中ナミ理事長の“ナミねぇ節”は今回も健在。「この活動の趣旨に賛同する人が、それぞれ自分たちの地域で自分たちに合ったやり方で、一歩を踏み出してほしい」と持論を展開した。

 しかし、四百数十名にも上った来場者を引きつけたのは、知事らのそうそうたる顔ぶれだけではない。CJFの創始者である社会福祉法人プロップステーションの竹中ナミ理事長は、今回も出ずっぱりでメッセージを発信していたが、彼女だけでもない。やはり、チャレンジドあってのCJF。聴衆がその理想に真に説得力を感じるのは、地元岩手で活躍するチャレンジドたちの発言を聴いたときだろう。
 もりおか障害者自立支援プラザの大信田康統所長は、チャレンジドがチャレンジドの相談を受ける有効性を語り、「相談で圧倒的に多いのは就職。行政には仕事を出してほしい」と訴えた。
 友人と2人で始めたパソコンショップを、法人にコンピュータシステムを販売する企業までに育てた八角明伸さんは、チャレンジドの就労を促進しない障害年金の問題を鋭く指摘。翌日、霞が関からの唯一の出席者ということでその問題を問われた岸本さん(財務省)から、改善の必要性を認める発言を引き出した。
 知的障害者授産施設ブナの木園でITを教える高橋俊肥考さんは、一般にまだ根強い「知的障害者にパソコンは無理」という認識を変えたくて、CJFに参加したという。「今後のチャレンジドは、少ない仕事を奪い合うのではなく、新しい仕事を開拓していくことが大事」と訴えた。3人はいずれも幼いときからの車いす利用者だ。
 この他、前出・実行委員長の村田さんが「あなたから始まるバリアフリー」という講演を行った。
 自分はこのフォーラムをイーハトーブ建設のスタートにするが、できないことに興味はない。人と同じことに興味はない。すべては一人から始まる。社会があなたの望むようになるかどうかは、あなた次第である――。そんな、自立した個人の奮起を促すメッセージに、会場の聴衆は最大級の拍手を送った。

高橋俊肥考氏
八角明伸氏
大信田康統氏
岩手のチャレンジドの多様な活躍ぶりを示した高橋俊肥考、八角明伸、大信田康統の各氏(写真左より)

イーハトーブのイメージ

中高生の清々しい姿
四百数十名で集まった会場
チャレンジド多数を含む四百数十名で集まった会場では、ボランティアを買って出た中高生の清々しい姿も目を引いた

 会場には中高生の姿も見られた。パネラーの話を熱心に聴くだけでなく、案内係などのボランティアもしていた清々しい姿が、従来のCJFにない雰囲気を醸し出していた。彼ら彼女らの多くは、村田さんの講演を聴いて感動し、慕って交流を続けてきた生徒たちだという。
 車いすの企業経営者・八角さんは岩手県の魅力を問われて、こうPRした。
 「岩手は福祉にしろ経済にしろ、全国からみれば進んでいるとは言えないわけですけど、その分、これから発展の速度が味わえます……」
 会場は、まるで不意に小石を投じられた水面のように、クスッという一笑いから大きな笑いの輪が広がった。
 村田さんの言葉にも八角さんの言葉にも、昨年岩手県がPRして話題になった「がんばらない宣言」に通じるものが感じられる。同宣言は、人間性をすり減らす経済史上・組織史上のガンバリズムとの決別宣言であり、個々人が自分らしく生きようとする努力を否定するものではない。むしろ、そういう努力ができる真の心のゆとりを肯定するものだ。
 そんなところから、目指す「イーハトーブ by チャレンジド」のイメージが伝わってくるフォーラムだった。

 


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