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神戸新聞 2002年11月28日より転載

  チャレンジド
中途失聴の私からの手紙 4
 
     
 
勇気 間違いを認め 自らも変わる
 
     
 
 
 
小椋知子
 


パソコンを操作中の細田和也さん。「今後も、使いやすい製品の開発に努力し続けます」と話す=東京都新宿区のマイクロソフト・新宿オフィス

 「ウィンドウズの登場で、私たち視覚障害者は困っている」。全盲の細田和也さん(28)=東京都在住=はメールでこう告げた。受け取ったナミねえ(竹中ナミ・社会福祉法人プロップ・ステーション理事長)は驚いた。「チャレンジドにとって武器になるはずの技術で、不便になるやなんて…」

 1995年冬、マイクロソフトがウィンドウズ95を発売。これまで操作が難しかったパソコンが、マウスで画面をクリックするだけで簡単に使えるようになり、急速に普及していった。だが多くの人に「便利」と受けとめられた機能が、視覚障害者を悩ませていた。

 全盲の人は、文章や画面情報を音声化するソフトを使い「耳で聞いて」操作する。ところがウィンドウズ95日本語版は、アイコンなど「目で見て分かる」、つまり「見ないと分からない」情報が多い上、これまでのパソコンでは使うことができた音声化ソフトもうまく動かなかった。

 「仕事でパソコンが使えなくなる」と不安を訴える人や「マイクロソフトなんてつぶれてしまえ」と怒り出す人もいた。

 英語版ウィンドウズで音声化ができた。米国では「障害者がパソコンを使うのは当然」と考えられており、その視点で最初からプログラムを開発していたからだ。だが日本側のスタッフは全盲の人がパソコンを使うことに気づいていなかった。細田さんはあきらめなかった。「使う人に直接聞く姿勢に欠けている。日本語版をどうしても視覚障害者に使えるようにしたい」

 マイクロソフトは「プロップ」の支援企業。数ヵ月後、細田さんとナミねえは同社の社員総会に招かれた。実際にパソコンを使って英語版との違いを示し、淡々と問題点を指摘した細田さんの話が終わると、ショックを受けた社員たちから深いため息が漏れた。

 この出来事をきっかけに、同社はユーザーの意見に耳を傾ける大切さに気づいたという。実際、ウィンドウズは改良を加えられ、視覚障害者からも「対応が変わった」との声が寄せられている。現在、細田さんは同社の社員として、だれにでも使いやすい製品の開発に努力している。

 間違いを指摘されることはつらい。間違いを率直に認め自ら変わろうとするには勇気もいる。だが知らないことに気づいた時、それは成長へのチャンスに変わる。私も、変わろうと努力し続ける社会の一員でありたい。

(フリーライター)


おぐら・ともこ

 1965年北九州市生まれ。31才のとき突然聴力を失い中途失聴に。障害者問題を中心に執筆活動中で、取材は手話やパソコン要約筆記という通訳を介して行う。


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