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SOHOコンピューティング 2002年7月号より転載

     
  プロップ・ステーション便り ナミねえの道  

  「Let'sユニバーサル・シティKOBEフォーラム2002」レポート  
  第3回 ── 行政とNPOが対等共催 人にやさしい街を模索
 
     

掲載ページの見出し

プロップ・ステーション
プロップ・ステーションは、1998年に社会福祉法人として認可され、コンピュータと情報 通信を活用してチャレンジド(障害者)の自立と社会参画、特に就労の促進と雇用の創出 を目標に活動している。

ホームページ
http://www.prop.or.jp/

竹中ナミ氏
社会福祉法人プロップ・ステーション理事長。重症心身障害児の長女を授かったことから 独学で障害児医療・福祉・教育を学ぶ。1991年、プロップ・ステーションを設立した。現 在は各行政機関の委員などを歴任する傍ら、各地で講演を行うなどチャレンジドの社会参 加と自立を支援する活動を展開している。


すべての人に開かれたユニバーサルデザイン

 去る5月12日、神戸ファッションマート9Fイオホール(神戸市東灘区)で「Let'sユニバーサル・シティKOBEフォーラム2002」が開催された。
 チャレンジド(障害者)や高齢者をはじめ、ITを活用してすべての人が住みやすいユ バーサルな街づくりを目指そうと、プロップ・ステーションの理事長・竹中ナミさん(ナミねぇ)をコーディネーターに各方面の専門家による白熱したパネルディスカッションが展開された。パネリストはフューチャーシステムコンサルティングの金丸恭文社長、野田聖子衆議院議員、矢田立郎神戸市長らで、600名収容の会場はほぼ満席。3時間という長丁場にも席を立つ人もなく、参加者の関心の高さをうかがわせた。
 「ユニバーサル」とは、バリアフリーが障害のある人が社会生活をしていく上で障害(バリア)を取り除くという意味に対して、能力や障害の有無、レベルにかかわらず最初から特殊な設計なしですべての人々に広く開かれているという意味で、ユニバーサルデザインとはそうした考えのもと環境や建物、製品のデザインをすることだ。1990年代に入って米国で提唱され、今では日本型のユニバーサルデザインが各方面で模索されている。


2006年兵庫国体でチャレンジドが業務参画

ナミねぇ――先日のフォーラムは大変意味がありました。神戸は昔からモダンで異国情緒たっぷりのお洒落な街やったんです。でも阪神淡路大震災の少し前から元気がなくなって、震災後も全国の行く先々で震災の街神戸のイメージだけで見られて、神戸っ子の私は忸怩(じくじ)たる思いでした。そこでチャレンジドや高齢者らが活動しやすい、時代のセンスを取り入れた街づくりを提案したいと思って矢田市長とお会いしたんですね。何はともあれ私のビジョンをぶつけたところ、従来の救済型ではなく人の力を引き出すユニバーサルな街づくりという点で共感し合いました。
 神戸市が本気に取り組んでいただいているなと感じるのは、今年の4月にユニバーサルデザイン推進係や建築ユニバーサルデザイン係を新設し機構改革を実施されたことです。また、自治体が行うIT講習は初歩的なものが通常ですが、チャレンジド向けのプロのコースのIT講習を神戸市がプロップとともに企画し、この夏には実施される予定になっています。今回のフォーラムとしても自治体とNPOが対等共催したのは極めて珍しいケース。
 当面の目標として、昨年の宮城国体でプロップがデジタル広報のシステム開発と編集を担当したのですが、2006年開催の兵庫国体でチャレンジドによる業務のサポートを目指しています。そういう意味でも、神戸市のために一肌脱ごうと決意してくれた各界の識者の方々とともに、新しい街を目指して決意表明ができたことがすごく嬉しい。客席と舞台が一体になって神戸を愛する気持ちがひしひしと伝わってきました。今こそ時代の風が吹いているなと感じていますし、このフォーラムの成功をきっかけとしてさらに志を強くすることができました。


ITによる可能性の開花
フォーラムのパネリストのみなさん。左から東京大学大学院情報学環教授・須藤修氏、フューチャーシステムコンサルティング株式会社代表取締役社長・金丸恭文氏、摂南大学工学部建築学科教授・田中直人氏、厚生労働省東京労働局長・坂本由紀子氏、衆議院議員・野田聖子氏、参議院議員・浜四津敏子氏、ナミねぇ、神戸市長・矢田立郎氏、神戸市助役・梶本日出夫氏。

 パネリスト自らが手を挙げる活発な意見が相次いだフォーラムだったが、企業を代表して参加したフューチャーの金丸氏は、「昨年、ナミねぇの紹介で入社してもらった池内さん(本稿6月号で紹介)は、研究開発の第一線のプロジェクトに参加してもらっています。ワープロがなければ彼女の履歴書は読めなかったと思いますが、PCを使うことで技術レベルも健常者と何一つ変わりません」とITによるチャレンジドの可能性をあらためて強調した。
 また、秘書として2人のチャレンジドを採用した野田議員は「一人は私にPCを教えてくれた仲間で、在宅で後援会の名簿を管理してもらっています。もう一人は筋ジストロフィー症で指しか動かせないのですが、米国カリフォルニア大学バークレー校で福祉を勉強したプロフェッショナルです。メールを通じて政策の助言をもらっていますが、まさにITは弱き者を強くする道具だと思います」と欠かせない2人の存在を披露した。
 最後に矢田市長が市民の目線に立った行政の推進とIT化推進のための地域IX*の必要性を述べ、閉幕した。


ナミねぇ――たとえ現在は健常者であっても、すべての人が“障害を持つこと”に無関係ではいられません。ケアが必要なときには適切なケアを、働く意欲のあるときには就労のチャンスが得られる柔軟な社会システムが求められています。先日のフォーラムがきっかけとなり産官学の違う分野でお互いに知恵を持ち寄ることで、小さな輪がどんどん広がればいいなと思います。今回のフォーラムを単にイベントとして終わらせることなく、ユニバーサル・シティ神戸が実現するのを最後まで見届けたい気持ちです。


Column

プロップ・ステーションが開催するコンピュータ・セミナー

フォーラムの前日の11日に行われたセミナーの様子。当日は矢田市長(上の写真・左)が訪問中で、セミナーの様子を見守った。

 社会福祉法人プロップ・ステーションのセミナーは、チャレンジドや高齢者、一般を対象とした入門コースから、中級・上級向けのグラフィック・セミナーまで幅広い。中でもプロを目指すチャレンジドにとって、実践に即したセミナーの内容はじつに厳しいものだ。ソフトウェアの使い方は家で事前に学習し、セミナーでは与えられた課題(注文)を受けて時間内でオンラインを制作するなど即座に結果を出さなければならない。もちろん障害の種類やその程度に関係なく、同一線上で仕事が評価されるわけだ。プロップのセミナーを通じて、実社会での心構えや仕事の管理能力を身に付けたITのプロフェッショナルたちが巣立っている。なお、このセミナーでは「通って学ぶコンピュータ・セミナー」と「在宅でのプロップ在宅スキルアップ・セミナー」の2種類が用意されている。

※ 地域IX
IXとはInternet exchangeのこと。地域IXは地域内の通信をやり取りすると同時にイン
ターネットへの接続も提供するものだ。


構成/木戸隆文 撮影/有本真紀


[チャレンジド] 神から挑戦する使命を与えられた人を示し、近年「ハンディキャップ」に代わる新たな言葉として米国で使われるようになった。


●月刊サイビズ ソーホー・コンピューティングの公式サイト http://www.soho-web.jp/
●出版社 株式会社サイビズ