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ガバナンス 2002年6月より転載

     
 
チャレンジドが「福祉」を変える!
 
 
 
 
第7回 ダイナー・コーエンさんとの出会い
 
     


 99年10月、私はアメリカの「テレワーク国際会議」に出席しました。その会議に「チ ャレンジドのテレワーク」というセッションがあったのですが、講師を務めた方がダイナ ー・コーエンさんというペンタゴン(アメリカ国防総省)の女性幹部でした。ペンタゴン は軍事用の最先端技術を重度の障害者が働けるように使うことに熱心なのだそうです。コ ーエンさんは、そのための機関である「米国防総省コンピュータ電子調整プログラム」 (CAP)の理事長を務めているのです。

 でも、なぜペンタゴンはそんなに熱心なのか…。不思議な思いをご本人にぶつけたとこ ろ、「すべての国民が誇りを持って生きられるようにするのが国防の第一歩だからです」 ときっぱりおっしゃいました。ブッシュ大統領も、昨年6月、CAPを訪れてさまざまな活 動を見て回り、「私もこの誇り高い活動を讃えたい」と演説していることからも、その意 識の高さがわかると思います。

 アメリカには、日本のように社会保障制度が整備されているわけではありません。その 代わり、「自分には障害があるが、働きたい」と意思表明すると、そのひとが働けるよう に社会が税金を使って動き出す仕組みなんです。例えば、チャレンジドが州のリハビリ施 設で診断を受けて、「あなたはこういう道具を使えば、このような仕事ができます」とい うプログラムを書いてもらうと、NPOと連携によって仕事先を探し出すことができます。 障害者手帳をもらって年金を支給されているものの、仕事を探すのが困難な日本社会とは 根本的に違うのです。自分からチャンスをつかんでいく意欲が大切なんですね。例えてい うと、源泉徴収に慣らされた日本のサラリーマンと申告納税するアメリカ人との意識の違 いかもしれません。

 また、意欲とともに大事なことは教育訓練です。意欲を技術に変えなければ、チャレン ジドは納税者にはなれないからです。  

  アメリカの凄いところは、学ぶためのチャンスにあふれていることです。公文書も一般 書物もほとんどデジタル化して、オンライン公開されていますから、外出できなくても必 要な情報や知識をたやすく得られます。大学も一般市民に広く開かれているので、講義を 受けることは簡単です。障害のために学び、働くことを断念せざるを得ないことはないと いって過言ではありません。  

  CAPでも、10年ほど前から毎年300人くらいの全米のチャレンジドを受け入れて、自 立のために必要な教育訓練を行っています。優秀な人は、ペンタゴンや政府機関の職員と して引き抜かれて働いています。また、CAPは民間企業からの引き合いも受けて、技術者 として成長した人材斡旋のコーディネートもしているのです。

 出会いの翌年、私の招きに応じて「第6回チャレンジド・ジャパン・フォーラム」にゲス トとして来てくれたコーエンさんは、「CAPが調整を行ったチャレンジド職員の70%以上 が昇進している」と報告してくれました。法定雇用率ばかりが問題になりがちな日本と違 い、実力次第で道が開かれるアメリカ社会の懐の深さがわかると思います。ナミねぇは、 その後もコーエンさんとメールで意見交換しながらプロップの活動を進めています。


たけなか・なみ 
1948年、神戸市生まれ。娘が障害をもって生まれたことをきっかけに、以後30年にわたっておもちゃライブラリ運営、肢体不自由者の介護をはじめ、各種のボランティア活動に携わる。91年、コンピュータとインターネットを利用したチャレンジド(障害者)の自立と就労を支援するNPO「プロップ・ステーション」を立ち上げ、99年、社会福祉法人格を取得、理事長に就任。その活動には行政をはじめ経済界、研究者の間でも支援の輪が広がっている。著書に『プロップ・ステーションの挑戦−「チャレンジド」が社会を変える』(筑摩書房)。

社会福祉法人 プロップ・ステーション 
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