[up] [next] [previous] |
ガバナンス 2002年1月より転載 |
チャレンジドが「福祉」を変える!
|
||
|
||
第2回 プロップ・ステーションの誕生
|
||
「障害を背負った娘とどう生きていくか」。私は情報を求めて本や資料に片っ端からあたった揚げ句、「障害者の問題は障害のある人に聞くのが一番」と障害者団体などに飛び込んでいきました。娘を背負って、手話通訳、介護、おもちゃライブラリの運営などのボランティア活動もいろいろ始めました。すべて手探り、体当たりでした。 試行錯誤を経て、私が「プロップ・ステーション」を始めたのは、91年の5月。プロップとは、ラグビーのポジションの名称の一つで、フォワードの前列3人のうち、脇を固める2人をいうのだそうです。意味は「支える」ということ。健常者から支えられているチャレンジドたちが、いつか社会を支える側に回るようになってほしい。私たちはその乗換え駅になろう、という願いを込めてのネーミングです。 でも、さまざまな活動のなかで「自立」の意味を考えてきた私にとって、ハンディを背負っているチャレンジドが健常者たちの世界で働くためには、なんらかの武器が必要だと痛感することが多かったんですね。社会から「保護」される立場で、障害の克服に向けて「健常者に近づける」訓練に時間とエネルギーが注がれる現実。でも、自立とは他人の力を借りないことでしょうか。人間は誰でも人の力を借りています。身の回りのことに介助が必要なら、借りればいい。服を着るのにひとりでは1時間かかるのであれば、5分でできるように助けてもらえばいい。大事なことは、チャレンジドが自己実現を通して社会に貢献することだと思ったんです。 そこで、全国の重度障害者の方にアンケートを取らせていただきました。質問は「仕事があれば働きたいか」「そのとき役に立つ道具はなにか」。すると、回答の8割は「働きたい」「武器はコンピュータ」という結果でした。ただ、「勉強する場所がない」「仕事ができるレベルに達したか評価してくれる機会がない」。なにより「仕事があるのかどうか」という率直な不安もありました。 もともと、身近なチャレンジドの活動仲間にコンピュータに長けた若者がいたこともあって、「ひょっとしたら、これは武器になるかもしれへん」と思っていたんです。障害があっても、場所を選ばないコンピュータなら、技能さえあれば働ける。就労の機会をうまくコーディネートできたら彼らは自立できる! 私は、そのとき彼らの思いを社会に繋ぐための場をつくりだそうと決心したんです。 それからは、教えてくれる技術者を引っ張り込む、セミナー会場を貸してもらう、メーカーにソフトウェアを提供してもらう……。どんどん構想を具体化させていきました。新しい道具立てで新しい福祉の可能性を探る、プロップ・ステーションの原型がこうして次第に形を整えていくのです。 当時は、日本にパソコン通信が上陸して、ニフティ・サーブが営業を始めたころ。西宮市が草の根パソコン通信ネット「情報倉庫西宮」を立ち上げ、しかもその運営を市民に任せることになり、私には福祉のボード(電子掲示板)をやってくれということになりました。この活動を通じて、私はコンピュータ・ネットワークがいかに情報とコミュニケーションをバリアフリー化するかと痛感することになるのです。 たけなか・なみ 社会福祉法人 プロップ・ステーション |
|