毎日新聞 2001年11月28日 より転載

【新世紀 託す思い】

「してあげる」福祉は嫌い 誰もが働き支える社会を

社会福祉法人プロップ・ステーション理事長 竹中ナミさん

障害者を納税者に

写真:竹中ナミさん

≪障害者を「チャレンジド(Challenged=挑戦する人)」と位置づけて、納税者にできる社会を目指す。プロップとは「支援」の意。92年、設立。98年に社会福祉法人。企業、自治体から業務委託された仕事を、パソコンによるネットワークサービスで在宅の障害者へ紹介する。最近では、調理師などの資格試験合格者名簿のデータベース化を受注した。利用している障害者は全国で約100人≫

◆「チャレンジド」という米語で、障害を持った人は神から挑戦すべき課題、チャンスを与えられた人たち、と考えます。課題(障害)が大きいほど、その人の可能性は大きいんです。

障害者が、収入を得て納税者になる、それが当たり前の社会だ。そういう社会の実現に向けて、障害者の在宅就労を支援するのがプロップ・ステーションです。

≪29歳になる長女の母だ。生後間もなく、重度の障害があることが分かる。父が言った。「自分がこの子を連れて死のう。でないとお前も、この子もかわいそうだ」。「障害があるってそんなに大変なの?」。独学で福祉行政、社会の仕組みを学んだ。「福祉という言葉は嫌いだ」という≫

◆日本の福祉制度は、「体が不自由だ、目が見えない、耳が聞こえない」など、その人のマイナスを数えることから始まる。気の毒な人たちだから「してあげる」。「福祉」という言葉にはそんな響きが色濃くある。

健常者と障害者を分けて考えてるのはだめ。障害者に対してバスの運賃を割り引くよりも、そんな人たちが一人でバスに乗れることができる社会、それが大事なんです。

≪「子どもが自分より一日でも早く死んでほしい」。それが重度障害児を抱える日本の母親だった。そんな母親を数多く見てきた。自身も離婚後、長女を連れてアパートを探したが、障害を理由に100件以上も断られた、という。神戸市生まれ、53歳≫

◆過去の障害者の介護は「母親を中心とした家族内で」だけしかなかった。だから限界があった。高齢社会を迎え、両親の介護が社会問題化してきた。10年後には団塊の世代が高齢世代になる。そうなってから考えても遅い。ようやくそのことに気がついたのが今の日本だ。一人一人が身近な問題として実感しなくては。そこから社会全体が変わっていくんです。

≪三重・志摩スペイン村で11月1日から3日間北川正恭・三重県知事、堂本暁子・千葉県知事、潮谷義子・熊本県知事らを迎えてフォーラムを開いた。テーマは「私が変わる。社会が変わる」。財務省・財務制度審議会専門委員≫

◆障害者、高齢者を問わず、一人でも多くの人たちが、自分の身の丈に合った働き方で社会を支えていく。そんな社会構造にする。その時初めて母親たちが、障害を持つ子どもを残して安心して死ねるんです。


ページの先頭へ戻る