NEW MEDIA 2001年11月号 (2001年10月1日発売) より転載

【The Challenged とメディアサポート】(48)

CJFに官民連携で動き始めた三重県(続)

チャレンジドが就労できる新しい社会システムづくりを議論する「チャレンジド・ジャパン・フォーラム」(CJF)。
11月1日〜3日に三重県の志摩スペイン村で開催される第7回では、とりわけNPOと県の連携が強い。
先月号ではCJFへの思いをNPOと県の担当者による座談会でお伝えしたが、今回はそれぞれの取り組みと連携を取材した。

(報告:中和正彦=ジャーナリスト)

CJFみえ実行委員長「何もできない」からの軌跡


経営者としての谷井さんは「単に障害者がやっている会社というだけではダメ。こういう仕事はウチに任せてよと言える特徴を作っていかなければ」

「このCJFを通じて、『障害者もこういうふうに取り組めば、ここまでできる』ということを多くの人に知ってもらえたら、世の中かなり変わってくると思うので、ぜひ多くの皆さん、ご参加ください」

「第7回CJF2001国際会議inみえ」について、そうPRした実行委員長の谷井亨さんは、まさに開催テーマの「私が変わる!社会が変わる!」を体現する人だ。

谷井さんは1984年、高校3年生の時のバイク事故で頸椎を損傷して首から下の自由を失った。「もう自分は何もできない」と絶望のドン底に突き落とされた。

そんな谷井さんが、いまではチャレンジド就労支援の非営利組織「ペプコム」と、技術を身に付けたチャレンジドらでIT関連ビジネスを行う「(株)インテグラル」を設立して、それぞれの代表と社長を務めている。

谷井さんに前向きの生き方を開いたのは、テクノロジーとの出会いだった。最初は電動車いす。事故後初めて、自分の自由に動く手段を得た。「こんなふうに、機械を使えば自分にもまだ何かできることがあるかも知れない」と、できないことにばかり向いていた目が、できることに向いた。当初は人と関わる気になれなかった気持ちも、これを契機に変わり、励ましの手紙をくれた人たちとコミュニケーションを取りたくなった。その手段として出会ったのがパソコンだった。

身体的・地理的ハンディをITで乗り越えて起業

1985年当時パソコンは、まだ高価で特殊な機器だったので周りに教えてくれる人はいなかったし、障害者向けの操作環境などまるで整っていなかった。難解なマニュアルと格闘し、口にくわえた棒1本で操作できないところは改造してもらい、手紙やゲームから始めてプログラミングへと進んで行った。

そして、「仕事を得て自立したい」という強い決意を持つようになった谷井さんは、退院後、本格的にプログラマーを志し1991年に第二種情報処理技術者試験の資格を取得。在宅のプログラマーとして仕事を受けるようになった。当時はまだ珍しい存在だったため、注目を集めて人との出会いが増え、まとまった仕事を受けたときには、健常者8名に割り振ってこなすまでになった。

谷井さんが住むのは、久居市という人口4万人ほどの小さな都市で、しかも駅から遠く離れた田園地帯。外出には父親運転のワゴン車が欠かせない。仕事には身体的にも地理的にもハンディの大きい谷井さんに、それを乗り越えさせたのはITだった。

在宅プログラマーとして活躍し始めた谷井さんをさらに飛躍させたのが、県とCJFとの出会いだった。1998年、県が設けた障害者在宅勤務支援検討委員会の委員に選ばれ、その席でCJFのことを聞いて参加。CJFを主宰する社会福祉法人プロップステーション理事長・竹中ナミさんら、障害者のIT就労問題の先駆者たちと多数出会った。

「自分が目指した方向は間違っていなかった」と自信を持った谷井さんは、1999年、チャレンジドが仕事に結びつくITを学ぶ場として「ペプコム」を立ち上げた。県やプロップの竹中さんらもこれを支援した。そして昨年8月には、ペプコムでスキルを身に付けたチャレンジドが働く場として「インテグラル」を設立。これには、CJFで出会った成毛真・インスパイア社長(前マイクロソフト社長)がアドバイスと投資を行った。

ペプコムでは、チャレンジドが学ぶほか、学んだチャレンジドが健常者に教えるという動きも出てきている。また、インテグラルは現在、正社員2名と契約スタッフ十数名(健常者を含む)。国の施策によって各自治体で行われているIT講習会や県のホームページの仕事を受注している。

気づかないことに気づく力としてロールモデルとして


IT講習会の準備に追われる福田さんと古市香織さん。古市さんは「教える仕事を続けて行けたらいい」と語る

前出・竹中さん&プロップに影響を受けて活動し、今回のCJFにも関わっている三重県人を、もう一人紹介しよう。デジタル市民社会協働センター・e-mie(いいみえ)というNPOの代表・福田久稔さんだ。

谷井さんは障害当事者で、「自分は何もできない」と絶望状態から自らの残された可能性に目を向け、就労や起業にまでいたった。それに対して、福田さんは、最初は「チャレンジドに就労は無理だろう」と見ていたが、やがてその可能性に気づいて支援へ協働へとのめり込んで行った健常者だ。

福田さんは、もともとは郵政省の役人だった。1994年、『一太郎』のジャストシステムがインターネット事業を始める際に、同社に転身。しかし、それと前後して出会った竹中さんの「働く意欲も能力もあるチャレンジドが、支えられる側から支える側に回れる社会に」という考え方に大きな感銘を受け、1997年に郷里の四日市に帰ってNPO活動に身を投じた。

しかし、その当時の問題意識は、ITを使ったチャレンジドの"社会参加"。「就労は無理だろうけど、社会に出て来てもらおう。何かボランティア活動をするという形で社会を支える側に回れたらいいのでは」という考えだったという。

それが、アスクスネットワークというNPOで実際に取り組んでみて変わった。

福田さんに誘われて集まったITを学ぶチャレンジド・グループは、毎年秋にスペイン村で行われるバリアフリーイベント「ふれあいフエスタ」を勝手に応援するホームページを作成した。すると、それが「公式ホームページより充実している」と評され、翌年以降、仕事として舞い込むようになった。

また昨年、インターンとして迎えた養護学校の女子生徒をこのホームページづくりに参加させると、彼女は母校の障害を持つ仲間たちにスペイン村への注文を聞いて回り、「暑いときにひと休みできるような木陰が少ない」という声が多いことを発見。スペイン村の木陰の所在を地図に示したページを作成して、同市の職員から「われわれにはできない発想だ」と感心された。

ITを使ったチャレンジドの"就労"に確信を持った福田さんは、今年1月に県下のNPOの緩やかな連合体として発足された「いいみえ」に、アスクスネットワーク(四日市市を中心に活動)のチャレンジド部隊を移して、全県レベルの活動に拡大した。そして、企業などに営業に行った際、こう売り込んでいるという。

「私たちの視点ではわからないことを、彼ら彼女らは知っています。ですから、こういうホームページなどは、チャレンジドにやらせてみた方がいいんじゃないですか」

「いいみえ」のチャレンジドも、「ペプコム」の場合と同様、スキルを身に付けた者の中には、チャレンジドに健常者にと教える側に回る人もいる。

「この古市(車いすの専従スタッフ・写真参照)は、前回、尾鷲市の施設まで教えに行きました。私もついては行きましたが、彼女に任せました。習う側のチャレンジドにとって、チャレンジド講師は『頑張れば、あの人のようになれるんだ』という見本を示せる人ですからね」

「CJFみえ」で明らかになる三重県の先進的支援策の全貌


志摩サイバーベース・プロジェクト推進グループの岡本悟さん(三重県地域振興部情報政策課)は、「今回の取り組みで、障害者のITを使った就労についての行政内部の意識も高めたい」

ITによるチャレンジド就労の支援に取り組むNPO活動は、いま各地で盛んになりつつある。しかし、支援して実際の企業就職や仕事の受注に結びつけられるかどうかというと、この不況下、非常に環境は厳しい。そこで行政の役割も大きく問われてくるのだが、いま三重県は、NPOや企業と連携しながら非常に野心的な計画を進めている。

「志摩サイバーベース・プロジェクト」という情報化による地域活性化施策の中に位置づけられた「ITを活用した障害者の自立支援策」(以下、支援策)だ。

同プロジェクトは、海底を通って海外へ直につながる光ケーブルが志摩地域に陸揚げされるのを契機に、県内に高速・大容量で安価な通信ネットワークを整備し、IT企業の誘致から県民生活の情報化まで、ITで世界と競争できる地域づくりをしようというもの。

ITは、機器に身体的な不自由に応じた支援機能を付加することができ、ネットワークで距離や移動のハンディも解消する。このプロジェクトで在宅勤務やSOHOが普及促進されると、チャレンジドの就労の可能性は飛躍的に高まることになる。

が、その可能性を実現するには、それ相応の体制づくりや環境づくりを必要とする。三重県が7月に発表した支援策には、次のような策が盛り込まれている。

(1)企業、NPO、行政、そして障害当事者や家族、養護学校や障害者関連団体の仲立ちをする支援組織の設立。(2)チャレンジドへのIT教育・職場訓練の場としてのサテライトオフィスの設置。(3)官公需を優先発注する制度の確立。

支援組織については、いま参加者を公募して設立準備会が設立されていて、CJF開催までに正式な支援組織が設立されるという。チャレンジドIT就労に関わる有力NPOである前出・谷井さんらの「ペプコム」、福田さんらの「いいみえ」は、当然ここに参加。NPO部門の中心的存在だ。

サテライトオフィスについては、7月末に四日市に第1号がオープンし、運営の委託を受けた「いいみえ」が各種の支援を計画している。官公需優先発注制度についても、支援組織の発足までには固める予定という。

この全国的にもまだ例を見ない先進的な支援策の全貌が、CJFで明らかになる。

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