NEW MEDIA 2001年10月号 (2001年9月1日発売) より転載

【The Challenged とメディアサポート】(47)

CJFに官民連携で動き始めた三重県

チャレンジドが就労できる新しい社会システムづくりを議論する
「チャレンジド・ジャパン・フォーラム」(CJF)が、今年は三重県で開催される。
開催テーマは、開催地の志摩スペイン村にちなんでスペイン語で
「 i Se cambia la sosiedad !」(私が変わる! 社会が変わる!)。
CJFの特徴は産・官・学・民(NPOなど)の連携だが、
北川正恭知事のリーダーシップで開催が決まった今回は、とりわけ県とNPOの連携が強い。
準備を進めるそれぞれの責任者に、連携のあり方や開催への思いを語り合っていただいた。

座談会参加者


「障害者もここまでできる」ということを多くの方に知ってもらいたいと話す谷井亨:CJFみえ会議実行委員長


「世の中、失われた10年と言いますが、私たち障害者のIT就労にとっては、充実の10年です」と竹中ナミ:プロップ・ステーション理事長


「生活者の視点」から施策づくりを進める佐々木史郎:三重県生活部長


「心のバリアを取り払う意味でも多くの方に参加していただきたい」と大森昌明:三重県生活部室長


実行委員会事務局を担当する村井千晶:三重県生活部


「ITが果たす役割を三重でぜひ実感を」と安田 正:三重県生活部


「福祉部門だけでなく、職業能力開発などの部門にも来てもらえる三重県にしたい」と、臼井雅紀:三重県生活部

1990年代は充実の10年だった!

参加いただいたのは、CJFの生みの親である社会福祉法人プロップ・ステーション理事長の竹中ナミさん、三重県生活部長・佐々木史郎さんを代表とする県側スタッフ5名、そして今回の三重会議の実行委員長を務める障害当事者の谷井亨さん。

ちなみに、谷井さんは高校3年生の時のバイク事故で頚椎を損傷して首から下の自由を失いながら、パソコンによって就労を果たした人だ。プロップ・ステーションの活動に刺激を受け、県の支援を受けて、1999年4月には障害者就労支援組織「ペプコム」を設立。昨年8月には、実際にIT関連の業務を行う(株)インテグラルを設立している。

――

まず谷井さん。非常に重い障害を負ったわけですが、それでも働こうと思ったのは、どういう気持ちからでしたか。

谷井

退院して自宅に戻って、今後どう生活して行ったらいいのかと考えたとき、「やはり経済的に自立しなければ、自分の思うようには生活できない」と思って、それで意欲が出てきました。

いまぼくは、自分の生活を3つの柱で考えています。一つは、介助などの面で毎日の生活をどう維持していくかということ。もう一つは、経済的な自立。三つ目は、いかに情報を得て社会に出るかということ。この3つが揃うことによって本当に自立できると思うので、それを確かにしていく方向で動いて行きたいです。

――

竹中さん、谷井さんの動きを見て来られて、どんな感想をお持ちですか。

竹中

私がプロップを始めた頃は、「介護が必要な障害者は他人から何かしてもらうことでしか生きて行けない」というのが、本人を含めた社会の常識でした。ところが、その後、谷井君のような介護の必要なチャレンジド自身が「自分たちも働きたい。働いて、社会を支える市民あるいは国民として誇りを持って生きて行きたい」と思うようになった。そして、自ら立ち上がるようになった。

さらに、自分が稼げるようになるだけでなく、後に続く人に思いを伝え、技術を教え、育てながら自分も育って行こうとする人も出て来た。そこがすごいと思います。

プロップ設立が1991年。谷井君のペプコム設立が99年。その8年ぐらいの間に、まさに谷井君のような人が、たくさん生まれて来た。意識が変わると同時に、ITが彼らを後押しする道具になったからです。そういう意味で、世間一般は90年代を”失われた10年”と言いますけど、私たちにとっては非常に充実した10年でした。今度のCJFは、そのことの大きな発表の場になると思います。

行政意識改革のトップランナー

――

三重県では、北川知事になって、「行政の意識も変えて行こう」という動きが進んでいますね。

佐々木

「官が民に何をしてあげるかという従来型の発想ではダメだ。県民が何を望んでいるか。そこから発想しろ」というのが、知事の考え方です。それで、県の総合計画を立てる時、縦割りで振り分けるのではない、県として総合的に取り組む8本の課題を立てました。その第一番目の課題が、バリアフリー社会づくりです。意識のバリア、物理的なバリア、制度のバリア、これらを全部取っ払おうということです。

「発想は生活者から」ということで、「では障害者は何を望んでいるのか」というと、「社会に参加したい」というニーズがかなりある。だとしたら「面倒みてあげますから、家にいていいですよ」ではなく、「能力を発揮できるようサポートしますよ」という施策でなければいけない。で、バリアフリー。

そんな発想の転換を迫られている時に、竹中さんの話を聞いて、「これはまさに三重県のバリアフリー社会づくりにぴったりだ」と思いました。

――

谷井さん、竹中さん。県の職員の方々とおつきあいしていて、どう感じていますか。

谷井

以前はどちらかというと、「障害者はこれができないから、こうしよう」という発想の施策が目立ちましたが、それが「障害者はこれができるから、こうしよう」というふうに変わって来たように感じています。それが三重県のいいところかなと思います。

竹中

私はいろいろな自治体の方とおつきあいがありますけど、三重県の方はものすごく努力されていると思います。「ここから学ぼう」といった姿勢がビンビン感じられます。その結果はきっと全国の自治体に広がっていくと思いますよ。

プロップは新しい社会システムづくりの一つの実験プラントなんですけど、そういう意味では谷井くんは一人の実験的なリーダーです。そして三重県は自治体における実験のトップランナーだと思います。いま国全体で「かわらなあかん」という意識が出て来ているけれども、どう変わらなければいけないのか見えていない人が多い。私たち3者は、悩みながら「こう変えよう、ああ変えよう」とやっていくしかない。それが実験プラントの使命だと思います。

佐々木

行政が何かをするときは「実験」というわけにはいかないんですけど、「とにかくやるんだ」という姿勢は大事です。失敗したら隠すのではなく、「失敗でした」と認めてすぐに直せばいい。いまの三重県では、それができます。

竹中

実はそれが実験なんです。それができる自治体は、ほとんどないわけですから。

行政とNPOの連携は情報から

――

「縦割り発想ではダメだ」というお話がありましたが、チャレンジドの世界も一般的には障害別、つまり縦割りです。プロップ・ステーションやペプコムは、そういう縦割りをスッとなくした組織ですね。

谷井

ペプコムには、視覚障害、肢体不自由、精神障害と、いろいろな障害を持った人が集まっています。でも、一般にはそういう横のつながりが全然無いんです。ペプコムを中心にそういう人との出会いが生まれて、雰囲気が変わって来ています。

障害の違いによっても考え方が違うんだなということに気づいて、助け合えるところも見えて来ました。それを上手く使えば、社会の中でのあり方も全然違ってくるのではないかと思います。

佐々木

いま私たちは、先ほど申し上げた発想の転換で、「どうやったら生活者のニーズを把握できるか」と考えるようになっていますが、本当のニーズをつかむのは難しいんです。そんな中、谷井さんたちは障害者の方々の横のつながりを持っていて、そのニーズを把握できる状態になっている。私たちとしては、そこに行っていろいろ話を聞けばニーズをつかみやすいわけで、施策を組む上でとてもありがたい。

竹中

それは、気づいている、いないに関わらず、まさに「NPOとの連携」のことをおっしゃっています。自治体の職員の方々が「ここのNPOと組んだら、こういう情報が入るな」といった感覚で動くことが、実はこれからの行政の大きなテーマである「NPOとの連携」につながるんですが、それが自然に進んでいる感じがしますね。

これは大きな変化です。何しろ、いわゆる”お上”の方から出向いて行って話を聞くなんてことは、これまでほとんどなかったわけですから。

三重から日本が変わる!

――

県のスタッフの方々に、一言ずついまの思いをうかがいましょう。

村井千秋(生活部職業能力開発担当)

CJFの担当になって、毎日のようにプロップのホームページをのぞいて新しい話に触れて、他の障害者関連の情報もたくさん見て、すごく視野が広がりました。だから、他の行政の人たちも、CJFに参加すればきっと視野が広がると思うので、たくさん参加して欲しいですね。

臼井雅紀(同)

障害をお持ちの方が、福祉の部門ではなく、私ども職業能力開発などの部門にどんどんお越しになるような、そういう三重県になったらいいと思います。

安田 正(生活部労働行政担当)

立場が違う人とも、お互いにどんどん情報を発信していくことで分かり合える。その一番の手段がITだということが、谷井さんを見てよくわかりました。そのあたりを、全国の人にわかってもらいたいですね。

大森昌明(生活部職業能力開発担当)

ITを活用した障害者の就労ということだけでなく、心のバリアを取り払う意味でも、多くの人に参加して欲しいと思います。

――

最後に谷井さん、竹中さん、CJF三重大会へのメッセージを。

谷井

このCJFを通じて、「障害者もこういうふうに取り組めば、ここまでできる」ということを多くの人に知ってもらえたら、世の中かなり変わってくると思うので、ぜひ多くの皆さん、ご参加ください。

竹中

「三重から日本が変わる」、そして、まさに「セ・カンビア・ラ・ソシエダ_」やね(笑)

CJF 第7回チャレンジド・ジャパン・フォーラム2001国際会議 in みえ
  • 開催テーマ Se cambia la sociedad ! (私が変わる 社会が変わる!)
  • 開催日時 2001年11月1日(木)〜3日(土)
  • 会場 三重県伊勢志摩スペイン村

第7回大会では、欧米のチャレンジド政策から学ぶだけでなく、アジアのチャレンジドとの連携も視野に入れ、その実践報告と議論を行う。

恒例の「知事セッション・コーナー」では、増田寛也・岩手県知事、橋本大二郎・高知県知事、太田房江・大阪府知事、潮谷義子・熊本県知事、堂本暁子・千葉県知事を迎え、北川正恭・三重県知事のコーディネートで、ITを活用した自治体改革についての決意を語り合ってもらう。

「ITトップ企業におけるチャレンジドの就労実例」としてフューチャーシステムコンサルティング(株)が社内の取り組みをチームで発表。産官学が具体的な提案を持ち寄ってのセッションなども。

また、内閣府障害者施策推進本部参与で俳人の花田春兆さん、竹中ナミさん、CGアーティストの吉田幾さんが「チャレンジドの決意」をテーマに鼎談。

なお、開催実施の要綱は、本誌次号(11月号)で詳報予定。現在、開催支援の協賛企業を募集中。

  • 主催 第7回CJF実行委員会、(社福)プロップ・ステーション
  • お問い合わせ先 三重県CJF実行委員会・事務局 TEL 059-224-2463
第6回CJF日米会議のゲスト、米国防総省CAP(電子調整プログラム)をブッシュ大統領が訪問

昨年のCJFでゲストに迎えたCAP理事長のダイナー・コーエン女史から、プロップステーションに次のようなメールが届いた。


講演するブッシュ大統領とダイナーさん(右端)

去る6月19日に私のCAPセンターにブッシュ大統領がお見えになりました。

とても名誉なことです。大統領は障害福祉プログラムのキックオフとして私のセンターを選ばれたのです。

大統領は私のオフィスのスタッフから説明を聞いて、補完機器の使用を実際に試されました。その後、私は大統領と国防長官をペンタゴンオーディトリアムへご案内しました。

大統領は当日招待された約400人のゲストに公演をされました。

その後、いかがですか。いつもみなさんのことを気にかけています。

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