和歌山新報 2001年3月29日 より転載

思った時にできる事から

和歌山新報社主催・育もう国際ボランティアの心

和歌山新報社主催のシンポジウム「育もう国際ボランティアの心」(和歌山県、和歌山市、和歌山商工会議所、和歌山経済同友会、和歌山経営者協会、和歌山県内全郵便局後援)は今月20日、和歌山市手平の和歌山ビック愛で開催した。慶應義塾大学教授で構想日本代表の加藤秀樹氏をコーディネーターにFMわいわいチーフプロデューサー日比野純一氏、プロップステーション理事長の竹中ナミ氏、熊野森林文化国際交流会事務局長の松本佳子氏をパネラーに迎え、基調講演や体験談を語った。また、ベトナムで枯葉剤の被害状況調査をしてきた慶應義塾大学の学生9人による体験発表などもあり、様々な分野から国際ボランティアのあり方を話しあった。加藤氏はこのシンポジウムを通じて「情けは人のためならずと言うが、ボランティアは結果的に自分に返ってくるものではないだろうか」などと語り、ボランティアは人の生き方の根元であるとした。4人の講師の講演内容を紹介する。

基調講演やパネルディスカッション

スタートはやむにやまれない気持ち
本質は地域に根ざした活動 慶応義塾大学教授・構想日本代表 加藤 秀樹氏


慶応義塾大学教授・構想日本代表
加藤 秀樹氏

私はボランティア活動の共通点として、ボランティアとかNPOとか、国際貢献とか、何か世の中の役にたたないといけない、こういうふうにしないといけない、とかいうことではなく、スタートは「やむにやまれぬ気持ち」ということからだと思います。

「やむにやまれぬ気持ち」があって、そこからスタートするということではないでしょうか、それが結果的に世の中の役に立つ、国際的に役に立つということに結果的につながることだと思います。

それとボランティア活動というのは、結局その地域に根差した活動だと思います。世の中一般に役に立つということは、実はないんですよ。世の中という抽象的なものがあるの
ではなく、結局、その地域で自分は“誰のために何をやるか”ということに尽きるんではないか。そこがスタートになるのです。

日本では公なことは全部、官がするものだと思ってしまっている。本当は公なことはみんなが「自らが自分たちでやっていくんだ」という意識を持たなくてはいけない。それは障害者の世話をすることかもわからないし、町をきれいにすることかもわからないし、教育かもわからない。

どうも我々は普段から要求癖のようなものが付いてしまっている気がします。「みんなちゃんとやれよ」と言うことばかりではないか。ボランティアは、それは違うんではないかということを気付かせてくれる。

まず一歩を踏み出してみよう
自分のまわりの事から FMわいわいチーフプロデューサー 日比野純一氏


FMわいわいチーフプロデューサー
日比野純一氏

阪神淡路大震災の時、神戸には約9万人の外国人が住んでいた。その中でも長田区はアジアから渡ってきた外国人の人たちが多い所。

最初は外国人や、その友達や家族の人たちが困っているんだろうなと思い、被災地にやってきて日本語の震災のニュースを、手書きで翻訳したものを配っていた。それが少しずつ進化していき、震災の年に、海賊放送を始めた。

当時は5カ国語で、言葉のできる人たちを探してきて、日本語の原稿を見ながら情報を毎日毎日伝えていたのが、今のFMわいわいの原点。

あれから6年が経ち、今は株式会社としてやっているが、どういうことをやっているかというと、基本的には地域活動。ローカルな活動です。

4人の専任の職員と、あと150人ぐらいの人たちが代わる代わる自分たちで番組をつくりながら、さまざまな人たちが自分たちの町についての情報を発信していく、ラジオ局です。

ボランティア活動は、それぞれのテーマでもいいし、地域でもいい、自分のもった何でもいい。パソコン1つあったらボランティア活動ができます。持っているだけではなく、自分から一歩進んでみるという、それが大切なことです。

シンクグローバル・アクトローカルという言葉を使っていますが、世界を思いながら、自分の地域で活動していく活動は、私の今の基本となっています。

国際ボランティア貯金寄付金の配分で
何かできることと思った時に 熊野森林文化国際交流会事務局長 松本 佳子氏


熊野森林文化国際交流会事務局長
松本 佳子氏

アジアの国ではほとんど森林再生・保全の概念や技術がありませんので、私たちはアジアの人たちに、そういうことを伝授して、森林の再生・保全に努めて行きたいということで始めました。

5年ほど前から「自分たちのネパールの国へも、ぜひ熊野の専門家を派遣して、指導してほしい」という要請がありました。

そこはいろんなNPOが見て見ぬ振りをして帰るという、とても厳しい生活環境や地形の所で、「まさかこんな村で、森づくりの指導なんてできるんやろか」と思いました。私たちは再三、ミーティングをもちまして、「でもやっぱり、こういう所だから、ほっとけないね」ということで、そこで4年前から専門家派遣の指導をしています。その派遣指導の費用は郵政省の国際ボランティア貯金からいただいています。

ボランティアは、特別なことだとは思いません。ボランティアは「自分に何ができるのか」「何かできることはないかな」と、思った時に始まるものだと思います。

例えば私たちはネパールで協力活動をしていますが、行くたびに「今度はいつ来るの」と、村の人たちが言ってくれます。そうすれば、「あっ、次はいつにしようかな」という何か"ほっておけないな"という気持ちになります。

その気持ちが13年という年月になったんだと思っています。

自ら考え行動する大切さ
官や民という小さい区別は不要 プロップ・ステーション理事長 竹中 ナミ氏


プロップ・ステーション理事長
竹中 ナミ氏

障害を持つ方、とりわけ障害が重くて家庭で家族の介護を受ける、施設に入院している、そういうような状態の方が、パソコンを勉強して技術を研いて、しかもそれを仕事にしていく。そうするために10年程前にボランティアグループとして立ち上げたのが、このプロップ・ステーションです。

当時、「そんなもん使って、障害をもった方が、そんなことできるの」と言われていました。

しかし障害を持った方の意識の変化と、世の中全体の福祉感の変化と、IT技術のたいへんな進化、そういったいくつかの要素に背中を押してもらいました。

そして、プロップ・ステーションではたくさんの障害を持つ人が勉強して、インターネットを使って仕事をするという状況になってきました。

阪神淡路大震災の時、感じたことですが、国や市がやってくれるのを待つ受け身ではなく、自発的に自分たちで生み出すエネルギーがいかに大切なものかということを思いました。自分たち地域の人同士の助け合いの輪がなければ、いざという時に何もできないなということが身にしみました。

官や民といった小さい区別ではなく、私らは何をし、行政の人は何をし、企業の人だったら何ができるのか、自分だったらその時、何ができるのかということを、それぞれが考えるしかないと思います。

明るさに生きる勇気学ぶ
大学生が体験発表


貴重な体験を発表する学生

慶応義塾大学の学生9人は、昨年12月にベトナム中部のアルオイ村という、枯葉剤の被害が最も大きい場所に特別許可を得て訪問。ダイオキシンが多く残っている所で、目も見えない、歯もない、花も奇形な子どもがたくさんいた現状の実態を目のあたりにしてきた。

 学生らは「ベトナム人の明るい笑顔が忘れられない。枯葉剤の被害は宿命だが、彼らはもう乗り越えている生きる力を見てきた。私たち日本人はいつも生活しているけれども、ベトナム人は日本人より遙かに心の受容力が大きい」と発表した。

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