公明新聞 2001年3月7日より転載

ヤングホームページ ユニバーサルな社会めざして

すべての人が誇りを持って生きられる
IT社会を語る

三重県久居市における座談会から

坂口カ/厚生労働相
日本社会の構造問い直す「プロップ」の活動
北川正恭/三重県知事
誰もが参画できる成熟した社会づくりを
竹中ナミ/プロップ・ステーション理事長
ITを使ってチャレンジドの可能性を開く
成毛真/マイクロソフト取締役特別顧問
高齢社会への投資は企業の利益に合致


「すべての人が誇りを持って生きられるIT社会を語る」をテーマに開かれた座談会(2月17日)

さる2月17日、三重県久居市内で「すべての人が誇りを持って生きられるIT社会を語る」をテーマにした座談会が開催された。これは、IT(情報技術)の活用で障害を持つ人や高齢者の就労を支援する社会福祉法人「プロップ・ステーション」が毎年開催している「チャレンジド・ジャパン・フォーラム」(CJF)のプレイベントとして企画されたもの。パネリストとして出席した坂口力厚生労働相、北川正恭三重県知事、竹中ナミ・プロップ・ステーション理事長、成毛眞マイクロソフト(株)取締役特別顧問が活発に意見交換した。ここではその要旨を紹介する。

竹中さん

「チャレンジド」という言葉は、「障害者」に代わる言葉として米国で生まれました。神から挑戦すべき使命やチャンスを与えられた人々という意味です。今までの日本の福祉は“この人はこれができない。だからこれをしてあげよう”というものでした。そうではなく、一人ひとりの中に眠っているものを引き出そうというのが、「チャレンジド」という言葉に込められた意義だと思います。

坂口氏

竹中さんが障害を持つ人を「チャレンジド」と呼び、「すべての人を納税者に」と就労支援活動を展開されていることは、障害を持つ人たちに大きな希望を与えています。また、日本社会の根底を揺り動かす大きな運動の始まりであると感じています。

北川氏

20世紀は、いわば“健常者がたくさんお金をもうける”という時代でしたが、成熟した社会では、だれもが自尊心を持って、社会参画できるようにしていくことが行政の重要な仕事です。

成毛氏

もし障害を持っている人や高齢者がコンピューターを使えないとすると、マイクロソフトのような会社は、高齢化に伴い製品が売れなくなります。

マイクロソフトには全盲の社員がいますが、彼は、全盲もしくは弱視の人向けのコンピューターの研究開発に取り組んでいます。これは企業のもともとの利益に合致するものであり、長期的投資を行う必要があります。

北川氏

三重県には日本一の高速大容量の海底ケーブルが6本陸揚げされます。これを何とか生かしたいということで、CATV(ケーブルテレビ)を利用して各家庭まで画像や音声を届けるネットワークの構築を目指しています。CATVのカバー率は2002年度中には、ほぼ100%になると思います。そして、ITと障害を持つ人を結びつけ、「チャレンジドが在宅でも仕事ができます」ということを、11月に三重県内で開かれるCJFでお見せしたい。

成毛氏

大いに期待できる話です。チャレンジドがコンピューターを使って仕事ができるようになりますが、実際に雇用があるのかという問題があります。職業紹介の在り方も変わってくるでしょうか。

坂口氏

変わっていきます。最近、職業安定所に来ない人が増えてきた。なぜかというと、インターネットで求人情報を見て、直接その会社に問い合わせる人が増えているからです。こうした変化に、行政は早く追いつき対応していかないといけません。

成毛氏

今までNPO(非営利組織)と企業は対立するという概念がありましたが、最近はなくなってきました。

坂口氏

今まで役所の仕事だと思われていた分野が、ITの進化などによって、民間でもやっていただけるようになってきました。民間にお願いした方が、いいサービスができる場合もあります。「公」がやっていた仕事を民間にやってもらうことで、新しい雇用が増えていくという方向にも時代は動いています。

成毛氏

医療はITでどう変わるのでしょうか。

坂口氏

例えば、離島のようなところでも、レントゲン写首を送り、遠隔地にいる専門家の診断を受けられるようになります。また、病院で受けた診察データをカードに入れ、それを別の病院で見せるというようなこともできるでしょう。

そして一番大きいのはゲノムです。遺伝子の研究がITの解析力によって大きく進みます。今まで5〜10年もかかっていた研究が、数カ月でできるようになります。「あなたの高血圧は、この遺伝子によるものです」というように、その人に合った治療ができるようになります。生まれた人の半分は少なくとも85歳まで生きられ、そして、85歳以上の85%は寝たきりではなく、自立できるという時代がそこまで来ています。

成毛氏

そうなると、生産するもの、売れるものが変わってきますね。投資先も変わります。

坂口氏

そういう意味では、経済効果は大変大きい。医療費にお金がかかるのも事実ですが、それ以上に、生み出される産業の活力は大変なものです。高齢社会への投資が大きな経済効果、雇用を生み出していくことは間違いありません。高齢社会は明るい社会になると思います。

成毛氏

今秋のCJFへ向けて一言お願いします。

坂口氏

チャレンジドだけの話ではなくて、日本の構造全体を変えていく大変大きな課題を提示されています。そのことを明確に発信される場となることを期待しています。

竹中さん

重度のチャレンジドが家族や社会のサポート(支援)を受けながらでも働ける社会システムは、女性や高齢者、介護する側の人など、いろいろな人が働ける仕組みにつながっていくと思います。

また、私たちが人間として生まれて、介護や保護が100%必要だからといって切り捨ててしまうのか、それとも、人間として誇りある存在として、健康に生存させてあげられる国なのか、それにITをどう使っていくのか──という分水嶺(れい)の時代だと思います。

北川氏

成毛さんは、かつて私にこう言った。「健常者は障害を持つ人から与えられることの方が多い。戦後は豊かになることが目的で、“あの人はいくらもうけたのか”という価値観で世の中が動いてきた。その結果、今の子どもたちの荒廃や学級崩壊が起こってきたのかもしれない。そういうことを教えられている」と。

昨年のCJFのスローガンは「誇りを持とう」でした。「皆が誇りを持って社会参画できる21世紀を三重の地から」と思
っています。

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