月刊世相 2001年3月号(2001年2月28日発行) より転載

【CLOSE UP ひと】(hotline:02)

関西弁で社会に突っ込む「障害者も誇りある納税者だ!!」

日本の社会は、障害を持つ人を特別視することが多かった。しかし、障害を持つ人は「ツール」を使いこなしさえすれば多くことができる可能性を秘めた「チャレンジド」だ。「チャレンジド」と企業との架け橋を目指し、前向きな関西弁で明るく話す竹中ナミ氏からは、重度の障害を持つ長女を独力で育てた苦労は微塵も感じられない。


竹中ナミ Takenaka Nami
1948年神戸市生まれ。91年コンピュータを活用したチャレンジド(障害者)支援NPO、プロップ・ステーションを設立。98年社会福祉法人格を取得し、理事長に就任。プロップ・ステーションについての詳細はwww.prop.or.jp(電話078―845―2263)まで。

竹村

いままでの日本人の障害者に対する考え方というのは、「気の毒な人だから福祉で何とか助けてあげよう」というものがほとんどだったように思います。

しかし、竹中さんの考え方は違っています。この人は、障害者も一定の条件を満たして、働けるような場所を与えられたなら働くことができ、税金だって払えるはずだといいます。

考えてみると、これだけIT革命とかIT社会といわれている時代です。パソコンなど、IT関連の道具を上手く使えば、在宅で仕事をすることも可能なんです。

竹中さんは、障害者が仕事を持ち一般の人と同じように税金も納めることができるということ、つまり自立できるということをモットーにしているというのです。

これは素晴らしいことだと思います。日本人の間でもこういう考え方をする人が増えてくれたら、と以前から思っていました。

日本では、何らかの理由で、生活に困っている人たちを助けようという声は多くあります。

それは当然、必要不可欠なことなのです。

しかし、あまり援助ばかりしていると、「日本人」が元来持つ「気概」のようなものをなくしかねないような気がします。たとえば税金でいうと、いまは働く人の形態が多様化しているため、税金を納めていない人も多いと聞きます。

先進国の中でこんな国は世界中にはほとんどありませんよ。

税金を納めるという義務を果たしたうえで、国家のいろいろな助けを受けるというのならわかります。

だから、僕は竹中さんの考え方には共感しているんです。なにしろこの人はとてもエネルギッシュな人だから、一度会ったら忘れられませんね(笑)。

この前初めて会ったときも1人で喋っていたから、今日も1人で喋るんだろうと思います(笑)。

竹中
(笑)。よろしくお願いします。
竹村
あなたのお嬢さんが重症心身障害児で、お嬢さんを療育するかたわら障害児医療・福祉・教育について独学されたということですね。
竹中
そうです。長女は重症心身で、知能も身体にも重度の障害があります。いま、ちょうど28歳になります。
竹村
どんなきっかけでこの活動を始めたのですか。

試行錯誤の子育てを経て


キーボードを使わずに音声で入力できるパソコン(PANA)

竹中

一番の理由は、やはり自分の娘が障害をもって生まれたということです。

長女が生まれたときに育児関係の本を読み漁りましたが、どんな育児書にも「あなたの子供が重度の障害を持っていたら」なんてことは1行も記載されていません。

ですから、自分がこの子をどう育てていくのかと考え、1人で情報を集めたものでした。

1人で集めた情報を取捨選択し、それをコーディネートして自分の行動に移す、という形でやってきました。

あの頃の苦労を考えると、このIT時代のメリットは計り知れません。

いまや居ながらにして、いろいろな情報を自発的に集めることが可能になった。

その情報を機軸に、自分がよりよく行動していけるということは別に珍しくもなくなりました。

コンピュータのネットワークに対する期待は大きく、「このすごい道具を使わない手はないぞ」と思っています。

竹村

ITはあまり外に出る機会の少ない人たちにも、非常に役に立つ道具になっているのです。

このIT文化が発達したおかげで、結婚のため仕事を辞めた女性も在宅で仕事ができるようになったのです。

このシステムはSOHOという名前で呼ばれています。

SOHOの名前は世間に浸透し出しましたが、障害者の人もITの助けを借りればいろいろできるという話はあまり聞いたことがありませんでしたね。

この竹中さんを僕に紹介してくれたのは、財界の一番の理論家である、ウシオ電機会長の牛尾治朗さんです。そして最近通信数社が合併したKDDIの新しい会長にも就任した人です。

彼とは古い知り合いだけど、その彼が竹中さんに会ってほしいというのです。

パソコンというツールを得て

竹村

だから、どんな人なのかと思ったけれども、やっぱりえらい元気な人だった。

ところで、あなたが立ち上げた、プロップ・ステーションの成り立ちを教えてください。

竹中

1991年の5月に草の根の活動のように始めて、それからずっとボランティアグループとして活動してきました。

98年の9月に、初めてコンピュータ・ネットワークを活用した第2種の社会福祉法人として、厚生大臣認可をいただきました。

いまスタッフにもその重度のチャレンジド(challenged:障害を持つ人たち)がいますが、やはりコンピュータ・ネットワークを活用するという形で活動しています。

また、別の方ですが、重度のチャレンジドで、お布団から起きるところから家族のサポートがいる、自分でお尻を拭くことができないというように、生活全般に家族の介護が必要な人がいます。

そんな状態でも、その人がコンピュータの技術を身につけると、介護を受けながらでもプロになることができるし、きちんとした仕事をすることもできるのです。

ただ、それを勉強する場があまりにも不足しています。

また、そういうチャレンジドが、そんなに素晴らしい技術を持ち、仕事ができるということをまだまだ企業は知らないのが現状です。

だから、積極的に仕事を出そうとか、採用しようとかそういう気持ちにはなっていないんですね。

そしていまちょうど、その分岐点みたいなところなんですね。この日本の「IT革命」がどちらの方向に向くのか。そこが難しいところだと思います。

つまり、IT、道具だけが勝手に進んでいき営利目的にだけ向かっていくのか、それともすべての人間が、非常に誇りを持って生きていける方向に向かっていくのかということです。「営利」ももちろん必要なことなんですけど、ITを国がすべての人間のために国家戦力として行けるのかという分水嶺にきていると思います。

ですからこの分水嶺のときこそ、私たちのプロップ・ステーションを1つの実験プラントとして社会の皆さんに見ていただきたいのです。

政治家、行政の役人、企業の幹部などさまざまな立場の方の、あるいは障害を持っている方自身も活用していただきたいなあと考えています。

竹村

今の彼女の話の中で、チャレンジドという言葉がたくさん使われました。

これは「チャレンジされる人たち」という意味です。神様が、人間に障害という形で挑戦しているということなんですよ。

心強い著名人応援団

竹村

障害を持つ人々は神様に挑戦されているんですよ。

だから、彼らは、自分たちは体に障害があるけれど、普通の人に負けずに何でもこなすことができるというがんばりを表す意味で、「チャレンジド」という名前を使っているんだそうですよ。そこがまたユニークですね。

ところで、社会福祉法人の認可を受けてまだ2年か3年ですが、協賛している人のリストを見せてもらったら著名な方々が名を連ねていますね。

竹中

はい。産・官・学、幅広い分野の著名な方々が真剣に支援してくださっています。

ITを活用した新しい政策を打ち出していこう、新しい国を地方分権のなかで作っていこうと考えている知事の方々も協力してくださっています。

三重県の北川正恭知事、宮城県の浅野史郎知事、高知県の橋本大二郎知事です。

それからIT関係ではマイクロソフトの阿多親市社長、前社長で特別顧問の成毛真取締役、それからフューチャーシステムコンサルティングというITコンサルタントの金子恭文社長や、マクロメディア株式会社の手嶋雅夫社長といった方々が協力してくれています。

そして財界のリーダーである牛尾治朗さん。それからジャーナリストの方も、櫻井よしこさんとか、筑紫哲也さんにも応援団に入っていただいています。

私たちの活動歴は10年に満たないのですが、その間チャレンジドが通う勉強会を開いたり、また完全にオンラインでベッドの上から学べるようなセミナーを開いたりしてきました。

そしていま、全国各地でそういった介護を受けながらプロとして仕事を持つ人たちが生まれつつあります。

竹村

そういう活動を世間の人たちに知ってもらうためにマスコミで紹介するのはいいことです。

僕がさまざまな媒体を通して紹介したら、同じような状況の子供を持っている親たちが、ああこんな会があるのかとプロップ・ステーションのことを知る。それでさらに活動が大きく広がって、チャレンジドの人たちが、挑戦に応じる機会が増えてくるのではないでしょうか。

あなたは、そういった人たちのために奔走しているんだけど大変な活動だと思います。まあでも、あなたはエネルギーの塊みたいな顔しているわな(笑)。

竹中

関西人ですから。明るく、面白くというノリでやりましょうということです(笑)。

竹村

そうや、こういう、重大なテーマだからこそ、深刻な顔よりも明るいほうがええ。

相互に支えあうシステムを


障害の有無にかかわらず、すべての人が自分らしく生きていける社会であってほしいものだ

竹中

はい。結局、一緒にやろうという気がしないような活動は長続きしません。

プロップを支援することで自分も逆に元気になれるっていっていただけるような活動にしていきたいなと思っています。

一応誤解のないように申し上げたいのは、ただチャレンジドが働いて税金を納める、それだけのことではないのです。一番大事なのはやっぱり人間の誇りを持つということだと思うんです。

それから、やはりすべての人が働けるわけではない。これは実体験から思うのですが、私の娘は重症心身で、実際のところ私のことをどこまで「母親」と認識しているかどうか分からない状況です。

私の死後に彼女が生活していくには、おそらく100%、社会の保護を受けなければならないでしょう。

これから高齢化社会を迎えるにあたって、そういう人が増えるのは確実だし、少子化で子供が減ると、バランスからいって支える人間より支えられる側の人間が多くなるわけですよね。

そのときを迎え、需要と供給がかみ合わない仕組みのままだとします。そんななかで、もし自分が支えてもらう立場、私の娘のようになったら、果たして誰がお尻を拭いたり、ここのベッドに寝なさいっていってくれるのでしょうか。

誰も自分を支えてくれない時代が来るだろうなっていう、自分自身の危機感がすごくあるんですよ。

だから、彼らチャレンジドが支えられるだけでなくって、支える側に回る場面も増やしていかなくてはなりません。

かつてのように、青年、壮年層が過労死するほど働いて経済を支える時代はもう終わったのです。個人個人が、おのおのの身の丈に合った働き方をし、支え合っていけるような、そういう形がこれからの日本には求められているのではないでしょうか。

これはあくまでも私の体験に基づく考えに過ぎません。

ただ少なくともプロップを、そういう意味での実験プラントとしていきたいのです。そのなかで、いまお話ししたようなことを具体的に提示してみたいなあと思います。

いまはITブームの後押しや、多くの方の応援が追い風になっていると思います。

竹村

竹中さん自身もチャレンジしているわけですね。

ところで、いまは法律が障害を持つ人の雇用を促進していますね。これは非常にいいことだと思うんだけれども、企業側としては「法律で決められているから」という意識が根強いようですね。

そういう体裁上ではなく、やはりそれぞれにあった仕事がきちんとできるということを認めて、それを1つの個性として受け入れる企業があればいいのです。

ITという武器があれば仕事ができるということをね、企業の人も理解してもらわんと困るわな。

竹中

そうですね。ただそれが、はっきりと世の中の主流になるまではきちっとしたコーディネーションの期間が必ず必要だと思っています。

たとえば外出困難で介護を受けている人が営業に行くのは大変なことです。だから、私たちのようなNPOが中心になり、企業とチャレンジドをきちっと公平に結び付けるパイプの役割をしなければならないんです。

そして最終的にはそれが行政のシステムに組み込まれ、形になるまでにしたいのです。

だから企業のニーズも、チャレンジドのニーズも分かる、そういう立場の私たちがいて初めて両方のパイプになれるのかな。

竹村

そのプランを実現するために厚生省の役人たちと接触する機会が多いと思いますが、本当に心から、チャレンジドに社会的な場を与えたいと思っている役人もいるんですか。

竹中

すごく増えてきました。官僚バッシングも多い昨今ですがその反面、本当に自分は国のために、国民のために仕事がしたいと思って公務員になったという人も確実に存在します。

私はやはりいろんな分野の人、とくにそういう政策に落とし込む役人の方が私たちの活動を認知してくれるということはとても大事だと思うんです。

私たちは現場で尽力していますが、それをいろんな形で社会に定着、反映させていく働きをしてくださる方が必要だと思っています。

竹村

マスコミも、役人のスキャンダルを取り上げるばかりではなく、福祉の現場で働いている人の意見を汲み上げる役人の活躍こそ取り上げるべきですよ。

期待される制度改革

竹中

そうですね。労働省が積極的に支援してくれています。従来、重度のチャレンジドは、厚生省の管轄のなかで、何かを与えてもらう立場でした。

しかし、ITを活用することで労働力として認知されたのです。そこで労働省が大きく動き始め、制度が整おうとし出した所なのです。省庁再編で厚生労働省となった今後に期待をしています。

ITは1つの省庁に集約できないジャンルなので、「通信」ということで郵政省が、パソコンという「道具」と考えると通産省が、あるいは「税金の問題」として捉えると大蔵省が……とさまざまな省庁にまたがっています。

いろんなところに隠れプロップじゃないですが(笑)、プロップ応援団が広がりつつあります。

また私自身、多くの省庁の委員をさせていただき、直接意見を伝えることもしています。

それがすぐなんらかの制度になったり、具体的な仕事に繋がるというわけではないのですが、いろんなところで、奮闘してくださる人々がいて、次世代にはこういう人たちが新しい行政の仕組みも作っていくんだろうな、と期待しています。

竹村

こういう活動をメディアを通じて伝えるのが僕のような立場の人間の仕事だと思っています。

ところで、チャレンジドの人たちが実際にコンピュータを習得して、何か変化がありましたか。

竹中

実は私は、もう10年近くこの活動をしていて未だに左右の指一本でパソコン打っているんです(笑)。全然上達しない。

それで何とか仕事はこなしていますが、そのシステムとか詳しい内容については、情けないことによく理解できていません。

そんな私を、チャレンジドの人たちは半年、1年と勉強されたら追い越していくんですよ。

私は見えて聞こえて喋れて、毛の生えた心臓も持っています(笑)。

私のように持ちすぎる人より、不可能なことがたくさんある人ほど、逆にこの道具、パソコンは自分の五感の延長線、あるいは脳みその一部っていう感じで使いこなしていくんです。

この道具を自分は使って、なんとか自分を表現していくんだ仕事するんだっていう、エネルさが半端じゃないです。

竹村

なるほどなあ。

竹中

彼らの姿を日々見ていて、こんな真剣な人たちが働く場がない世の中や、きちっと仕事することができない「福祉」という存在自体が、「それはおかしいぞ」と毎日のように思いますね。

不可能を可能にするパワー

竹中

いままでの彼らは、挑戦する機会を奪われていただけなんです。

チャンスを奪うというやり方が、残念ながら今までの日本の福祉にあった。

もちろん日本の福祉のやり方が全部間違っていたわけではないんです。ただいままでは、能力を活かす道具すらなかったのです。

それがIT時代の到来によって、その人の得意な音楽系であれ書くことであれ、それからプログラミング、グラフィックなど、もともと持っていた能力をパソコンという道具を介してどんどん電子化して世界に発表できるようになったんです。

道具さえあれば、そういう意味では逆に彼らが一番、チャンスに近いところにいるかも知れません。

それをチャレンジド自身には伝えていきたいと思っています。

竹村

ええ話や。それとやはり多くの人に活動を知ってもらうことからですね。

竹中

そうですね。私がいくら声が大きくっても、ワーッと叫んだだけではたかが知れています。

竹村先生のような方に宣伝していただいたり、よく知られている媒体でお話させていただいたくことで私たちの活動にもより広がりが出てくるように思います。

竹村

そういった宣伝活動の他にこれから具体的にしようとしていることはあるの?

竹中

そうですね、「オンラインの職安」というとなにかお役所的ですが、チャレンジドとオンラインの仕事とを繋ぐ、きちんとしたNPOでありたいと考えています。

そして企業側にとっても、チャレンジドに仕事してもらうことが営利になると思っていただけるような活動をしていきたいです。

チャレンジドはきちんと稼いで、納税し、誇らしい国民でいられるというシステムを構築したいですね。

私の娘のように、100%保護がないと生きていけない子供たちも、自然淘汰されてしまうんではなくて、自分がとことん可能なところまで何らかの形で社会に対しコミットをして、不可能な部分は社会に守ってくれるという制度のある日本であってほしいと思います。

そして、そうなれるように模索し続けるプロップでありたいと思います。

竹村

実はいままでも再三、そういう話はマスコミで取り上げられていた。しかし、我々が「障害のある人は助けがないと何もできない」と思い込みすぎていたんですね。

そうではなくて、ITという道具や、本来の力を発揮できる場所に恵まれていなかっただけなんです。

IT、ITと世間では騒いでいるけれど、何のこっちゃ思っている人もいるでしょう。

しかし、チャレンジドの皆さんには、こんなに有益なものになっているんですね。

我が国にとっても大きな助けになるし、チャレンジドの皆さんもそれで自分も役に立っているというプライドを持つことができる。

これは素晴らしいことですよ。

竹中

特に関西の活動ですので、まだまだ全国的に、知名度は低いと思いますがぜひご支援をよろしくお願いします。

竹村

こういう活動がもっと市民権を得るといいですね。

今日は精力的に活躍する竹中さんがゲストでした。どうもありがとうございました。

●文化放送系 『世相ホットライン』より
ネット局:文化放送、札幌テレビ放送、東北放送、北日本放送、東海ラジオ、大阪放送、中国放送、西日本放送、九州朝日放送
放送日時:毎週日曜日 午前7:00〜10:00間での30分間

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