NEW MEDIA 2000年9月号 (2000年8月1日発売)より転載

【The Challenged とメディアサポート】(34)

第6回チャレンジド・ジャパン・フォーラム
2000日米会議「Let's be proud!」開催へ

8月30、31日の両日、京王プラザホテル(東京)において開催される第6回「チャレンジド・ジャパン・フォーラム(CJF)」。チャレンジドが自立できる社会システムの創出をテーマにしたこの会議は、竹中ナミ女史(ナミねえ)を中心に、彼女のキャラクターと情熱に引き寄せられた賛同者により運営されている。今回は「Let's be proud!」を開催テーマに、米国防総省、スタンフォード大学関係者らを交え、よりワールドワイドな視点から議論が活発に行われるであろう。

(構成:中和正彦=ジャーナリスト)

ケネディの言葉に託された自立の意味

「国家があなた方に対して何をできるかではなく、あなた方が国家に対して何をできるかが問われている」

ジョン・F・ケネディの有名な演説の一筋である。今回の「チャレンジド・ジャパン・フォーラム(CJF)2000日米会議」開催にいたる経緯は、遠くさかのぼれば1990年、まだ一人のボランティアに過ぎなかった竹中ナミさん(現・社会福祉法人プロップステーション理事長)がこの一筋と出会ったことから始まったと言えるかも知れない。

1970年代、重度心身障害の娘を持った竹中さんは、障害者支援の足を踏み入れてみて、すぐに気づいた。自分の娘のように本当に何もできない人は障害を持つ人々の中でも少数派で、多くの人が持てる潜在能力を発揮できない境遇に甘んじている――。

やがて、彼らの自立を支援する活動を続けるなかで、アメリカで生まれた「クオリティー・オブ・ライフ」(QOL=生活の質)を重んじる考え方に出会い、一つの自立観にたどり着いた。自立とは介助なしで生活できるようになることではなく、介助も含めて何事も自分の意志と責任で選択して自分の人生を切り開いていけるようになること――。

国民すべてのプライドが問われる

だが、他人が働いたお金で好きな生き方を選ぶことを自立とは言わない。自身は健常者である竹中さんは、働きたくても働く機会のない障害者がより手厚い保護を求めることを心情的に理解しつつも、それを支援する運動に危うさを感じた。手厚い保護を権利のように主張することは、障害者を真の自立からも一般社会の常識からも遠ざけてしまう――。

そして、「障害があっても働く意欲と能力を持っている人はどんどん障害者の枠から飛び出して、本当に保護が必要な人を支える側に回って欲しい」という思いを募らせ、就労支援活動の立ち上げを模索しはじめた。

そんな竹中さんの心を射抜いたのが、冒頭のケネディの言葉だった。竹中さんの問題意識からすれば、それは端的な話、「国が障害者のために何をできるかではなく、障害者が国のために何をできるかが問われている」ということであり、障害者にも社会の構成員としてのプライドを問う強烈なメッセージだった。もちろん、障害者にそれを問うには、その前に、障害者が健常者と同等に社会参加できる環境が整っているかどうかが問われる。この国は本当に豊かな国と言えるのかどうか、先進国・経済大国を自負する国民すべてのプライドが問われるとも言える。

日本の先を行くアメリカの現実を参考に

1990年、ケネディの言葉に触発され、「障害者が誇りを持って生きられる社会は、すべての人が誇りを持って生きうる社会」という展望を持った竹中さんは、一気にプロップの設立(1991年)へと向かっていた。その過程で行った全国の障害者へのアンケートの結果から、就労支援の手段をコンピュータに定めた。そして、やがて「挑戦すべき課題を与えられた者」という意味を持つ「チャレンジド」という米語と出会い、「チャレンジドを納税者にできる日本」という目標を大々的に掲げることになる。

当時バブル経済に酔いしれ、「もはやアメリカに学ぶことはない」などと豪語した人々は、その後“第二の敗戦”を味わい、“失われた10年”を過ごすことになった。一方、早くから「コンピュータが障害者の社会参加の武器になる」と着目していた人々は、現実が予想をはるかに超える疾風怒濤の10年を過ごすことになった。大阪の一ボランティア団体から各界第一線の人々が注目する存在になったプロップは、その一つの象徴だ。

CJFでアメリカのIT活用事情を紹介

国レベルで見ると、1990年は通産省が「情報処理機器アクセシビリティ指針」(メーカーに障害者・高齢者にも使いやすい製品のあり方を示すガイドライン)を定めた年である。しかし、これはアメリカで86年に制定されたリハビリテーション法508条と、同条項を実施するために作られた指針を参考にして作られたものだ。しかも、アメリカでは、政府やその補助金を受けている団体に、障害者にも使える電子機器を調達するよう義務づけたのに対して、日本の指針はその後改定されたものの、強制力はない。

日本でやっと電子機器の指針ができた90年、アメリカでは雇用、通信、交通など、あらゆる面でのバリアの撤廃を義務づけた「障害を持つアメリカ人法」(ADA)が成立している。最近の話では、政府の利用するインターネット環境を始めとしたIT(情報技術)を障害者にもアクセスできるようにする基準が今年3月に発表され、8月に法制化の見込みという。

こうした経緯を振り返ると、アメリカのITを活用した障害者の教育や就労の事情がどういう方向に向かっているかは、今後とも目を離せない。それが紹介され、議論されるのが、今回のCJFの目玉。「誇りを持つ」という人間のあり方の問題に、最先端のIT利用がどのような役割を果たすのか、日米の議論をじっくり聞きたいところだ。

特別メッセージ
全国5知事からのチャレンジド・ジャパン・フォーラム 2000日米会議期待と参加の決意

プロップの主旨に賛同した岩手、宮城、静岡、三重、高知県知事参加によるセッションが、8月31日14時よりCJF会場内で行われる。

CJF2000開催を前に、各県知事よりメッセージをいただいた。

岩手県知事 増田寛也
地域システム構築が社会全体の豊かさに

写真:岩手県増田知事

チャレンジド・ジャパン・フォーラムは、情報技術を活用したチャレンジド(障害者)の経済的・社会的自立を議論するきわめて今日的な試みであり、また、ノーマライゼーションとリハビリテーションの理念の具体化を目指す新しい実験でもあります。

私は、チャレンジドが存分に能力を発揮し、自在に生きていくことのできる地域システムを構築していくことこそが、社会全体の真の豊かさにつながるものと考えています。

本県には北海道に次ぐ広大な面積や寒冷な気候、中央との時間・距離の制約などさまざまな壁がありますが、県民の英知と新しい情報技術によってこの壁を乗り越え、国際社会へ参加し、情報を発信していくことが21世紀へ向けた岩手のチャレンジドであると考えており、この度の会議の成果に大いに期待します。

宮城県知事 浅野史郎
ITが道を開いたチャレンジドの就労

写真:宮城県浅野知事

CJFを知ってから、私の前の水平線がどんどん広がっていくのを感じています。チャレンジドとは神様から挑戦を受けている人、ITを使ってのチャレンジドの就労、そして今回は、国防とチャレンジドの就労との関係が聞けるらしい。

人間の尊厳ということを考えます。障害福祉の仕事は、決して「あわれでかわいそうな障害者に、何かいいことをしてあげること」ではないということはわかっていたつもりです。でも、どうやって障害者に尊厳を保証するのかの道筋については、無知に近い私でした。

方法はあるのです。ITが道を開きました。チャレンジドを世の中の中心に置こうという強い意志と、人と人とのつながりが道を大きく広げました。CJFの果たした役割もきわめて大きいと思います。

前回の開催地から、新しい展開を求めて、再び参加します。CJFに栄光あれ。

静岡県知事 石川嘉延
ユニバーサルデザインの考え方を県政に

写真:静岡県石川知事

コンピュータネットワークを活用して障害を持つ人の情報通信に関する技術、技能を開発し、就労の機会を拡大する活動を続けているプロップ・ステーションが、全国に向けてそのメッセージを発信するフォーラムが近づいてきましたが、今年はどのような話が交わされるのか楽しみにしているところです。

静岡県では、ユニバーサルデザインの考え方を県政のあらゆる分野に取り入れ、年齢、性別、障害の有無などを越えて、すべての人が自由に活動し、いきいきと生活できる、「快適空間しずおか」の創造を進めています。

今後、情報化がますます進展する中で、障害を持つ人にとって、コンピュータを始めとするITは社会参加や自立を図る上で非常に有効な手段になることは確実です。

本県でも昨年、「障害者マルチメディア情報センター」を開設するなど、障害を持つ人のマルチメディア活用支援を一歩ずつ進めているところであり、プロップ・ステーションの成果はこの上ない刺激になるものと期待しております。

今後のプロップ・ステーションの先進的な取り組みのより一層の拡大と、本フォーラムの成功をお祈りします。

三重県知事 北川正恭
CJFが生み出すネットワークに期待

写真:三重県北川知事

「第6回チャレンジド・ジャパン・フォーラム(CJF)2000日米会議」東京大会開催おめでとうございます。

今まさに工業社会から情報社会へと転換していく中で、CJFは、1996年からスタートし、チャレンジドの自立を支援するため、全国の産・学・官・民・チャレンジド等さまざまな人々が情報通信のインフラ整備、ITを活用した就労などについても議論する場として活用されてまいりました。年々増えつつある参加者の方々がこの場の情報等を共有し、支援し合うことにより、効果的なネットワークとして、さらに発展していくことを期待しています。

本県においても、高齢者、障害者の就業機会の拡大にもつながる「志摩サイバーベース・プロジェクト」などを進めることを通じて、チャレンジドの自立に寄与したいと考えています。

東京大会の開催にあたり、関係者のご努力に深く敬意を表するとともに、本大会の成功をお祈りします。

高知県知事 橋本大二郎
プロップ・ステーションの理念を継承した事業展開

写真:高知県橋本知事

今日の社会のキーワードであるITは、連日マスコミにも取り上げられ、この言葉を耳にしない日はありません。ITの発展が産業構造や社会のしくみに劇的な変化をもたらし、私たちの生活をも変えていきます。それは、これまでの固定観念や価値観を覆し、新たな可能性を創造します。

このことにいち早く気づき、IT社会のパイオニアとして実践してこられたのがプロップ・ステーションのチャレンジドの皆様です。このプロップ・ステーションの目指す新たな社会システムづくりの理念は、高知県の情報化プロジェクト「こうち 2001 プラン」で取り組んでおりますチャレンジドの社会参加実験「マイセルフネットワーク」事業にも継承されています。

意欲を持つチャレンジドの方々が活躍できる場の確保、例えば雇用制度の整備などを国レベルで行うことが、今後の課題です。本フォーラムが、その課題解決の第一歩となることに大いに期待しています。

ページの先頭へ戻る