情報処理 Vol.41 No.6 2000年6月通巻424号 (2000年5月15日発売)より転載

【特集 高齢者や障害者を支える情報技術】(6)

チャレンジドのテレワーク ―アメリカ視察レポート―

竹中ナミ 社会福祉法人 プロップ・ステーション

クリントン大統領の宣言と国防省

昨秋から委員を務める研究会(労働省)のメンバーとして、「チャレンジドのテレワーク」をテーマにしたアメリカ視察に行ってきましたので、そのレポートをお届けしたいと思います。

アメリカではインターネットがきわめて日常的な道具として使われており、コミュニケーションツールとしてはチャレンジドも日常的に使っているようですが、仕事(テレワーク含む)の道具としてはハイテク企業における開発系の仕事など(一般の仕事に比べて)給与額の高い職種に限られているようです。

アメリカにおける障害者の失業率は75%にも上っており、雇用の推進のため(私たちが視察に訪れる直前)9月30日に、クリントン大統領が「全国障害者雇用認知の月」という図-1のような宣言を出したところでした。

この宣言の中で「政府自らが知的障害者や重度の障害者の雇用と昇格を平等に行い、企業の先導者となければならないという大統領命令を出しました」という部分に、アメリカ政府の基本姿勢(官と民の関係)が明確に読み取れ、興味深いものがあります。

「官が自ら率先して」という具体的な例として、チャレンジドのテレワークに関する研究が一番進んでいるのは(なんと)国防省だ、ということを知り、驚きました。国防省でチャレンジドのテレワークの研究と推進を行うセクションはCAP(Computer/Electronic Accommodations Program)といい、プロジェクト・リーダはダイナー・コーエンさんという、私によく似た「元気なおばさん」でした!

CAPのパンフレットには、図-2のような内容が書かれています。この資料から読み取れるのは、国防省がチャレンジドの研究を行う一番の理由は「国民1人1人が国家を支える柱である」という感覚です。それは、国民に誇りを与えることがアメリカ国家にとって最も重要な政策である、と位置づけている、ということだと思います。

ダイナーさんの熱い語り口から私は「誇りを持って生きる国民が育てることが、国防の第一歩である」というアメリカのポリシーを強く感じました。もちろんこれは、「ベトナム戦争」というトラウマを抱えたアメリカが、大いなる反省のもとに生み出したポリシーだと思いますが、「国のために死ぬこと」を「美」として、若者を戦場に送り出した日本と対極にあるこの「国防意識」に、私は大変共感を覚えます。

プロップが主催する次回の「チャレンジド・ジャパン・フォーラム(2000年8月30日〜31日に新宿京王プラザホテルにて開催予定)」には、ぜひダイナーさんに講師として来日していただきたいと思い、現在、親密なメール交換を行っています。このメール交換の中で、ダイナーさんご自身がチャレンジド(内部障害)であることが分かり、それもまた象徴的な出来事でした。

図-1 クリントン大統領による宣言

「全国障害者雇用認知の月」 (または「全国障害者雇用意識向上の月」)

アメリカ大統領ウィリアム・クリントン

アメリカ人として、我々は家族や地域のみならず仕事によって、つまりどういう人間かというだけでなく何で生計を立てているかによって、自分たちを定義づけします。しかしながら何百万人という障害を持つ人たちは、仕事に就ける道がさまざまなバリアによって塞がれているために、この自覚を持つことができません。4.2%という近代になく低い失業 率の今、障害者の失業率は、大部分の人に働く意志があるにもかかわらずなんと75%にも達します。

現在障害者雇用の一番のバリアになっているのは、現在の法律では働くと医療保険の対象から外されてしまうという点です。そこで、私は議会に対して党派を超えた「労働奨励改革案」を通過させるようチャレンジします。この法案は仕事に就いた障害者に対しても医療保険制度を適用させ治療を受けやすくするという内容です。いかなるアメリカ国民も仕事と医療保険との板挟みになるようなことは許されず、この法案はそれを保証するものです。

「労働奨励改革案」に加え我が政府は、障害者の特別交通費やまた雇用のために余分にかかる出費削減のために、彼らに対し千ドルの税金控除を含んだ予算提案をしました。我々はそれだけにとどまらず、点字通訳、携帯電話、音声認識ソフト等、障害者の雇用を促進するテクノロジーへの投資額を2倍に増やす提案もしています。今年の6月、私は精神的障害者に対して雇用の手を広げると同時に、政府自らが知的障害者や重度の障害者の雇用と昇格を平等に行い、企業の先導者となければならないという大統領命令を出しました。

来年はADA法の10周年記念であると同時に「Individuals with Disabilities Education Act」の25周年記念でもあります。この2つの画期的法案は我が国の障害者法案の改革をもたらし、世界各国に対しての標準ともなりました。しかしながら、障害者に対する否定的な態度や典型的な破壊的思考を覆すためには、すべての社会分野の集中的な努力が必要です。障害者がいかなる社会にも参加できるようになるまでは、私たちの雇用問題が解決したとはいえません。

今年は、雇用の壁を打ち破るためにさらなる努力を行うことに加え、報道、芸能、芸術の各分野において活躍している障害者にスポットライトを当てる予定です。たとえばジャーナリストであるジョン・ホッケンベリー氏は、世界中を飛び回って素晴らしいニュースを報道するのに車椅子が何の妨げにもならないことを証明してくれています。盲目の彫刻家であるマイケル・ナランジョ氏や、耳の聞こえない画家のアレックス・ウィルハイト氏らの芸術家は、障害というものが芸術を斬新な方向に進めていく道具になり得るというこ とを私たちに知らしめてくれています。また、クラシックのトレーニングを受けた歌手ラウリー・ルービンさんは、目が見えないことがオペラのステージに立つことに何の妨げにもならないことを証明してくれています。

障害を持った人たちの大きな可能性を認識し、同時にアメリカ全国民の障害者を含めた労働社会を築く努力を奨励するために、議会は毎年10月を「全国障害者雇用認知の月」 と明示しました。

したがって、ここに、私アメリカ大統領ウィリアム・クリントンは1999年10月を「全国障害者雇用認知の月」と宣言します。私は政府官僚、教育者、労働指導者、雇用主そしてアメリカ国民が、今月ここに適したプログラムや活動を行い、ADA法案の精神を遂行す る決心を再認識するよう呼びかけます。

1999年9月30日

図-2 CAPのパンフレットより

☆バリアをなくす

今日の競争社会においては、熟練した社員は大切な財産です。国防総省では常に才能のある人材を求めています。国防総省では障害のある人でも適切な設備さえあれば国防総省チームのスタープレーヤになれることを見出しました。国防総省では、障害のある所員が遭遇するバリアをなくすために、コンピュータ/電子設備プログラム(CAP)を設立しま した。オフィスに補助設備を備えることによって、障害者の雇用を促進してきました。補助設備があれば、仕事の幅も広がり、現在の仕事もより効率的にできます。補助デバイスは所員の技術や能力を高め、仕事に対する満足感も大きくなります。CAPは国防総省の障害を持った所員、障害を持った所員を管理する立場にある人、および国防総省に関連のある人たちのために機能します。設備を提供することにより、法律99−506および100−542に基づいて国防総省の活動を手助けしています。

☆CAPは補助器具を提供します

  • 補助ハードウェア、ソフトウェア、器具
  • 適切なデバイスが選べるように努力する
  • 設備を調達するための基金

☆その他のCAPの働き

  • 手話通訳、パーソナルアシスタントなど、3日以上のトレーニングセッションに参加する障害のある所員をアシストするための経費を提供
  • 補助器具を使って仕事をするためのトレーニングを実施
  • 職場をアクセシブルな環境を変えるためのアドバイス
  • CAPのサービスや他の障害者関連事項について諸団体に教育的プレゼンを行う

☆テクノロジー

CAPでは幅広い補助デバイスを提供しています。以下のデバイスはアクセシビリティに関する最近の問題を解決するものです。

※ 聴力補助:
聴力障害者のための通信デバイス、補聴器、クローズドキャプションデコーダ、視覚手話デバイス
※ 視覚補助:
プリント拡大機、点字アウトプットシステムなど
※ 手の補助:
音声認識コンピュータ、拡大/縮小キーボード、ヘッドコントロールシステム、キーガードなど
※ 認識補助:
ハイライト、発音補助
※ コミュニケーション補助:
電子通信補助、スピーチアウトプットシステム

☆テクノロジー評価センター

CAPのテクノロジー評価センター(CAPTEC)は補助テクノロジーの評価を行うための施設です。米国国防総省の管理者および所員が、障害を持った人が働きやすい環境を作るために最適な補助器具を選べるように設立されました。CAPTECはさまざまな補助テクノロジーのワークステーションがあります。障害を持った人が、補助器具を選ぶ際に、互換性や機能に関する疑問があれば、CAPTECを訪れて補助器具に関する評価を調べることができます。また、CAPのスタッフが個人のために補助器具に関して調査することもあります。

☆CAPを通して設備を求める方法

  1. どのような機能が必要なのかニーズの査定をする。
  2. 障害者、管理者、コンピュータシステム担当者、CAP事務局と話し合い可能なオプ ションを調査。
  3. 環境に最も適するオプションを選択する。
  4. CAPにリクエストフォームを送る。

テクノロジーは日々進歩するため、新しい製品が次々と登場します。CAPはアクセス可能な環境を築くためにあなたとともに働きます。適切な設備さえあれば、障害者は何でも可能になります。

チャレンジドが勉強する学校は?

ところで、今回の視察で一番強く感じたことは、「教育の重要性」ということです。

現在、日本の法律は、チャレンジドに対し「養護学校教育の義務化」を課していますが、この法によって、チャレンジドと一般の児童は共に学ぶ機会をきわめて持ちにくくなっています。高等教育を受けることのできるチャレンジドも、(これだけ教育が普及した日本なのに)まだまだ少ないのが現状です。

「点字受験ができない」「(字が書けないけれど)パソコン受験は認めない」「身辺のサポートが必要な人は、設備や人的対応がないのでお断り」etc・・・

お互いが「出会うチャンス」「知り合うチャンス」「切磋琢磨するチャンス」がないまま大人になり、そこで急に「障害者雇用を推進しよう」といっても、それはなかなか難しいものです。人が「大人になる」というのは、卒業だけでなく「ソーシャルスキルを身に付ける」ということだと思いますが、隔離された教育、保護された教育ではソーシャルスキルは身に付きません。就労に必要なことは(障害者のあるなし、技術のあるなし以前の問題として)まず<社会性>です。

アメリカではADA施行後、どんな障害があっても幼い頃から地域の学校で学べるようになり、また多くの大学が「市民カレッジ」というような形で地域住民を聴講生として受け入れています。「市民カレッジ」はインターネット上でも盛んに開講されており、「誰でもが、どんな学問(技術)でも、意欲さえあれば学ぶことができる」という状況です。こうした「教育の機会均等」を、日本でもぜひ実現したい!と、強く思いました。

「学びたい」という気持ち、「働きたい」という気持ちは、どちらも「自己実現」「自己表現」を求める人間の根元的な感情だと私は思います。

日本では、いったん社会に出た後に事故や病気で障害を持った場合にも「医療的リハビリ」はあっても、学業や仕事に復帰できるスキルを磨くチャンスがほとんどありません。

アメリカは(大統領の宣言から分かるように)日本に比べチャレンジドに対する社会保障は充実していないけれど、教育を受けるチャンスを広く提供している点は大いに学ばねば、と思いました。

教育といえば、国防省のCAPでは、毎年300人の障害を持つ大学生をインターンとして受け入れ、成績の良い学生は国防省に就職するチャンスを得ることができる、というプログラムを10年前から始めており、この学生たちのリストは企業にもシェアされているので、企業も彼らにアタックをかけられるシステムになっている、とのこと。「産と官の連携で障害者雇用を推進する」というのは、こういうことをいうのね、と思いました。

チャレンジドのテレワーク

企業視察としては、シアトルのマイクロソフト本社を訪問しました。テレワークは、こうしたハイテク企業では日常業務の中で当たり前のように行われており、社内外の連絡はもとより、自宅と会社のコンピュータで情報を共有し、家でも会社でも同じ仕事ができるというのは「ごく当たり前」のことのようでした。

マイクロソフトで出会った「ピーター・ウォンさん」は、(私が日本マイクロソフトに紹介し、雇用された)細田和也くんをもう一段とグレードアップしたような全盲の青年で、いかにして自分が学び、技術を磨き、現在の立場に至ったか、ということを明快かつ率直に話してくれました。

彼との面談のセットに尽力してくれたのは、日本マイクロソフト調布センターでアクセシビリティ部門を担当している金子雅彦さんですが「近々、僕はピーターのセクションに異動し、彼のもとで開発に取り組むんです」ということでした。

私たちは、ピーターに会うまで彼が視覚障害者だということを知らず、近々、金子さんの上司になるという彼が白杖をつきながら現れたときは、ちょっと驚きました。しかも彼は白杖の使い方がぎこちなく、後で聞いたところでは「最近まで少し見えていたんだけれど、障害が進行し今はほとんど全盲の状態なので、近いうちに杖を使った歩行訓練を受ける予定」とのことでした。「でも職場の同僚たちが(サポートについて学ぶため)訓練を受けよう、と言ってくれてるんです」とにっこり。

アメリカの企業は、いわゆる「実力主義」が非常に鮮明で、チャレンジド・ワーカーだといって「特別待遇」を受けることはない、という厳しさに溢れてはいるものの、やはり人を支えるのは人なんだな、という思いを強くしました。就職に際しては、チャレンジド自身も、障害を持たない人と同じように、小中高、そして大学教育を受け、自分を企業に売り込む、という感覚を身に付けています。

ピーターも(中国から)18歳でアメリカに渡ってきて大学で社会学を学んだ後、香港でマーケティングリサーチの仕事に就いたけれど、バーサ・ブライルという視覚障害者用のPCが開発されたので、これを使ってケンブリッジに入学し、マスターをとったのだそうです。「入試のとき、テスト問題はFDでくれたよ」のことでした。

1991〜92年にかけて、ハイテク企業のほとんどの仕事がWindowsで行われるようになったことは、見えない彼にとって「大変なバッド・ニュース」でしたが、彼は「PCを辞めるか」「どこかに飛び込んで、問題解決の道を探すか」の2つの選択のうち後者を選び、マイクロソフト社の入社試験を受けた、とのこと。マイクロソフト社では「12時間にも及ぶ面接で、徹底的に自分のスキルを試された」そうです。

ピーターのオフィスの壁には「いつでも、どこでも、誰にでも使えるものを」というビル・ゲイツの言葉が張られており、「僕がマイクロソフトを選んだのは、そのビジョンです」ときっぱりと語るピーターの表情は、間違いなく「非常に優秀な企業戦士」のものでした。

アメリカ企業のこの厳しさを日本の風土にすぐそのまま置き換えることは難しいと思うけれど、基礎年金制度のある日本で「教育を受ける機会均等の保証」と、「仕事のスキルを身に付ける機関の充実」を図れば、現在の10倍(あるいは100倍?)以上のチャレンジドが就労可能(つまりは経済社会を支える戦力)になるだろう、という思いを強く持ちました。

NGOとNPOの協力体制

アメリカでは、チャレンジドが就労スキルを身に付けようとする場合、まず州のリハビリ局で「診察」を受け「どんな仕事」を「何時間くらい」できる人が、というざっくりした「診断」を受けます。

この診断を受けるためには、「働きたい」という意思表明が必要です。「働きたくない」という就労促進のための公費を使わない、というきわめて率直な理論がそこにはあります。

その後、リハビリ局と連携するNPOがコンピュータを使うために必要なサポート装置などの「フィッティング指導」を行います。企業の「チャレンジド研究機関」としての機能を果たすNPOもあります。そうしたNPOは、(プロップのように)「働きたい当事者のニーズ」から生まれた自立支援組織です。

NPOは、チャレンジドのニーズを公共機関よりよく知っており、なおかつ運営経費が公営にするより少なくて済み、NPOであることで公共機関との良き緊張関係が持てる、といった理由からこのような役割分担になっている、と感じました。

障害者雇用大統領委員会でも、「アメリカにおいては、NPO/NGOの力は非常に強力で、NPO/NGOとの連携なしには、こういった施策の推進はできない」と聞きました。

NPOの運営は(特にチャレンジド関係機関は)どこも資金集めなどが大変なようですが、責任感の強さには驚かされました。と同時に、どのNPOでも「ガバンメントより軽費」でこうした施策を担うことが誇らしく語ってくれたことが印象的でした。日本のNPOは、まだまだ「成熟」していない、ということも改めて痛感させられました。

プロップステーションの役割

最後に、日本よりテレワークの進んだアメリカですが、重度のチャレンジドがテレワークすることを専門に支援するインターミディアリー機能を持ったNPOはまだ存在しておらず、プロップの活動事例は(世界的にも)希少な実験プラントだということが分かりました。

しかし75%の失業率と、(日本と同じ)高齢化という現実を前に、アメリカでも「重度のチャレンジドがテレワークすることを支援するインターミディアリー」が必要とされる時期が来ていることを、CAPや大統領委員会の人たち、あるいはテレワークを推進するNPOの人たちの口振りから感じました。

プロップの活動事例が多くの国の参考事例となるよう、運営者として頑張りたい、と思った視察の旅でした。

(平成12年3月31日受付)

「プロップステーション」について

1枚の似顔絵が私のホームページに貼ってある。吉田幾俊さんという方が画いてくれた私の似顔絵である。吉田さんはCG画家を目指す大阪の運動障害者である。彼はCGの勉強をプロップステーションの「コンピュータ・グラフィックセミナー」で学び、現在はそこで障害者にパソコン学習の指導もしている。その彼がプロップのある行事後の2次会の席で描いてくれたのである(私はひょんな縁でプロップの後援会の顧問になっている。といっても、名簿に名前が出ているだけで、何もしていないのだが)。

プロップは、コンピュータとインターネットを活かしてチャレンジド(障害者)の自立と就労を支援する大阪のNPOである。代表(厚生大臣認可の社会福祉法人になったので正式には理事長というらしい)は竹中ナミさん、通称「ナミねえ」、重度心身障害のお嬢さんを持つ、笑顔の素晴らしい行動力豊かな、豪快な「おかあちゃん」である。

その彼女は次のようなことを考え、それを実行に移したのである。超高齢化といわれる時代を迎え、高度なケアを必要とする人たちの人口比が高まる中、働く意欲を持つ人がチャレンジドであれ、女性であれ、高齢者であれ、就労のチャンスを得、納税という形や社会参加という形を支える側に回れることのできるシステムが、これからの日本には必要ではないか。そのための手段として、コンピュータとインターネットを活用できるのではないか。障害者にコンピュータを普及させる運動ではない、仕事を通して対等なパートナーになるための手段になるのではないかと。

この考えに賛同したいくつかのパソコンメーカが器材や場所を提供し、鈴木重昭さんなどは職を辞して参加され、多くの方がボランティアとしてパソコンの指導に当たっている。 またエネルギー関係の企業やシンクタンクなども強力にバックアップしている。

ここの指導はきわめて厳しいようだ。就労する以上、約束した仕事は約束通り果たさねば通用しない。障害者だからといって甘えてはならない。ということで、宿題などは期限を守らなければ退学、といわれるほどである。

最近では、ここで学んだ障害者の何人かは「バーチャル工房」を結成、その成果で具体的に仕事を得られるようになってきたとのこと、イラストなどを受注作成している。また、プロップの機関紙「Flanker」なども、CGを使ったすばらしいものが、インターネットを利用しての障害者の編集グループで作成、配布されている。

またインターネットを通し全国を対象に上級の通信教育(在宅スキルアップセミナー)も1996年ごろから始まっている。ここではデータベース作成技術や翻訳などを対象にしている。このコースの修了生の中からの何人かは後輩の質問に答えるボランティアとしてさらに参加し、活動の輪を広げている。このコースの修了者も在宅での就職や仕事の受託の実績が進んでいる。

このようにプロップで学んだ障害者はすでに300名を超えているとか、現在は、大阪の他に神戸でも活動の拠点が広がっている。(活動の詳細はhttp://www.prop.or.jp、また設立からの経緯は、竹中ナミ「プロップ・ステーションの挑戦」筑摩書房)。

このような活動が全国的に広がると素晴らしいと思う。私の勤め先の大学のある千葉県でも、障害者のためのパソコン教室が欲しいとの要望がよく寄せられる。しかし、現実にはなかなか離陸ができない。通信会社やコンピュータメーカは教室や器材は提供していた だけるというのだが、運営スタッフや指導員の確保が難しい。学生は1〜2年で卒業していく。ボランティアで継続的に運営するためには、お互いにバックアップできる程度の人数が不可欠である。片手間というような半端な取り組みではなかなかできない大仕事では ある。

(市川 熹)

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