月刊CYBiZ SOHOコンピューティング 1999年11月号(1999年10月13日発売) より転載

【会社にいたらできなかった SOHO新"仕事人"大集合!!】
(身体の障害を乗り越え SOHOだから私はできた!)

寝たきり宣告をはねつけ、ゼロから始めて"大黒柱"に

どんなことをしても妻を養う! サーバー環境を自分で構築できるまで、まだまだスキルUPするぞ

プログラミング、セミナー講師ほか

94年3月にSOHOスタート
[大阪府堺市]

山崎博史さん 35歳

SOHOまでの道のり
電気工事・建設関係勤務 -> SOHO

プログラミングの仕事には、比較的高価な専門書も次々必要。「1人でやっていくには本が頼り。けっこうたまってしまうんで、だいぶ捨てました」

「僕は酒もタバコもやる不良(笑)」。毎晩、にぎやかな食卓で焼酎お湯割りを2杯ほどたしなむ。それ以上は妻の景子さん(中央)に禁止されている(らしい)。電話を取り次いだり、車を運転したりする景子さんは仕事の面でも欠かせないパートナー。2人は山崎さんのご両親と同居中だが、公共料金も生活費も別会計。「家賃だけ負けてもうてます(笑)」

一時の絶望から立ち直ったのは妻とパソコンに出会ったおかげ


プロップのセミナーではボランティアで補助講師を。理事長・竹中さん(後ろ)は、「山ちゃんはスケベーなことも言うけど(笑)。人間として色気を失わないできた強さは立派やと思います。美談にするつもりはないけど、彼は人の10倍20倍も努力してチャンスをつかんだ。多くの人に勇気を与える存在やと思います。重度のチャレンジドが彼のように働くのが当たり前の時代が、すぐそこまで来ていると信じています」。

19歳で交通事故にあい、頸椎損傷によって第一種一級という重度の障害者になった山崎博史さん。現在はプログラマーやパソコンセミナーの講師として活躍している。

中学卒業後は暴走族のリーダー。全力でつっぱった少年は大人になるのも早く、17歳で"族"をやめ、電気工事・建築関係の会社に勤める。しかし、2年後、運転中に信号無視の車を避けて信号機に衝突して、「一生寝たきり」の宣言を受けた。自殺を考えた一瞬もあったという。

そんな山崎さんの転機は25歳のとき。妻となる景子さんとの出会いだった。「同じ中学で同学年。お互いに顔だけは知っていた程度」だったが、再会した2人は結婚を考える仲に。最初は妻の実家に反対されたが、山崎さんが仕事をするという条件でOKが出る。28歳のときだった。

ちょうどその頃、ラジオで社会福祉法人プロップ・ステーション(略称プロップ)が行う、障害者自立のためのパソコンセミナーの案内を聞き、山崎さんはすぐに電話を。出会った当時をプロップ理事長の竹中ナミさんはこう振り返る。
「山ちゃんは、何をしてでもお金を稼いで家庭を持ちたいという強い意思を持っていました。おそらく、彼にはパソコンの仕事以外に、希望をかなえる道はなかった。彼の偉かったところはその現実を受け入れ、ゼロからパソコンに食いついていったことです」

セミナー1週目はキーボードの配列につまずいたが、2週目には完璧。3週目には、50万円のパソコン一式を購入した。仕事に使えるスキルを必ず身につける覚悟だった。そして、半年の初級セミナーを終え、プログラムを学ぶ上級セミナーへ。
「内容の濃い実践的な授業でした。作業内容を説明するプレゼンの仕方まで練習するんです」

宿題を忘れると授業が中止されるほど、期限や約束を守るなど、社会人としての基本姿勢も厳しく叩きこまれたという。

受講し始めて1年半後に修了。その後手がけた貿易会社の在庫管理システムで、初めてプログラマーとしての収入、20万円を得た。「これでやっていけるな」と寿司の出前を取って家族で祝ったそうだ。

体験をもとにセミナーを工夫。当面の目標は収入の波の安定化


大胆で思い切りのよい一方で、几帳面な山崎さんは、机の上をきちんと片づけないと気がすまないそうだ。午前中、山崎さんが横になっている間に、景子さんが部屋をすみずみまで掃除する。


プキーボードは小指の第一関節で打ち、マウスを使ないので、代わりにこのトラックボールを利用している。

プロップはパソコンと通信環境を活用して、「チャレンジド(challenged: 障害を持つ人を表す新しい米語から)」の自立と社会参画。就労の促進を目的に活躍している団体。山崎さんも、プロップがコーディネートするプロジェクトに次々と関わっている。とはいえ、SOHOを始めて5年の中で1年近くは仕事がなく、貯金で食いつないだこともある。
「入ったお金を、一度に全部返済に当てたりしないで、将来を考えながら、生活資金の計画を立てるようになりました」

最近は、高齢者やリハビリ中の障害者にも使いやすい「人にやさしいパソコンを提供するプロジェクト」に参加。データ作成、サーバー管理、電話サポート、ユーザー向けのセミナーなどを引き受けている。週に1度は、大阪府羽曳野市主催の障害者・高齢者向けのWindowsセミナーの講師も務め、「お年寄りなどはパソコンを持っていない人がほとんど。毎週、最初から全部おさらいにならないように、何を教えるか絞り込むのに気を配っています」と、ゼロから学んだ自身の体験が講師の仕事に生かされている。
「曲がりなりにも経済的自立を果たし、夫婦の生活を支えられるようになったのは大きな自信です」

まだ収入の波が大きいので、当面の目標は安定した収入を得ること。
「そのためには、当たり前のことですが、受けた仕事をまず完璧にこなすこと。仕事相手との連携も大切ですね」

今後の仕事の課題は、「ちょっとしたプログラムもサーバー環境で使うことが前提になってきていますから、環境を自分で構築できるくらいにならないと仕事を取れない。まだまだ勉強ばっかりです」。

気負うことなく、スキルと実績を積み上げていく毎日だ。

「いざ!」に備えて、先輩のコツをいただき!! SOHOだから、この仕事ができた!

ベッドで皮膚を休めながら、仕事の段取りも

打ち合わせやセミナーで外出もするが、「ふだんは家で仕事をしているので、自己管理が大変」と山崎さん。「まず実績ありき」のSOHOの身ゆえ、ついつい根をつめてしまうことが多いが、車椅子にすわったままでは皮膚によくない。だから、基本的に午前中と夕食後は同じ部屋のベッドで体を横にし、常に椅子に接する皮膚を休めるのが日課だ。
「でも締め切り前などは、床ずれを悪くしても、すわってやらな、しゃあないんです」

しかし、自宅で可能なSOHOだからこそ、1日7〜10時間ほどになる仕事量もこなせる。
「忙しいときは、横になっている時間にも、本を読んだり、仕事の段取りを考えている」ので、パソコンの前に座ったとたん、トップスピードでキーボードをたたき始めるのも珍しいことではない。SOHOならではの働き方かもしれない。

証言 この人に頼んでよかった!

後輩育成にも力を入れてくれて、山ちゃん、頼りにしてまっせ!!

プロップ・ステーション常務理事 鈴木重昭さん  知り合って6年ほど。最初はやんちゃな印象でしたが、ずいぶん丸くなったんと違いますか。眉を剃ってる昔の写真を見せてもらって、最初はどうなることかと(笑)。  今は非常に的確に仕事をこなし、クライアントから高い評価をもらっています。几帳面で安定感を相手に与えるのが彼のいいところ。後輩の育成にもボランティアで力を入れてくれて、頼りにしています。プログラマーとしてもっと上を目指し、がんばってほしいですね。

社会福祉法人 プロップ・ステーション

URL:http://www.prop.or.jp/

チャレンジド(障害を持つ人)の技術習得セミナーを開催し、在宅の仕事をコーディネート。のべ300人以上が受講し、約40人が何らかの仕事を獲得した。チャレンジドに対する誤解や不安を払拭し、クライアントと対等で適正なビジネス関係を構築する役割を目指している。「チャレンジドを納税者、社会を支える一員となる明日を」という理事長・竹中ナミさんは、「仕事をしたい人に仕事が行きわたるようにしていくことが、常に課題です。でもプロップは職安じゃない。1人1人がフリーランスとして仕事獲得に努め、プロップに対して自分をアピールすることが前提だと思います」。働くチャレンジドを輩出した実践をもとに、98年9月に社会福祉法人に。

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