朝日新聞 1999年7月25日 より転載

【ええ仕事できまっせ】(上)

意識改革 つなぐ社会と障害者


プロップ・ステーションが開いている障害者や高齢者向けのパソコン教室で、受講生に話しかける竹中ナミ(手前右端)。周りにはいつも笑いのうずが起きる=大阪市内で

大阪市西区の大通り沿いのビル七階。約百平方メートルの部屋にパソコン二十数台が並ぶ。今月十潔白午後六時、さまざまな障害のある人がやってきた。

事故で首の骨が折れ手足が動かない人、脳性マヒの人、心臓疾患の人……。

「在宅で仕事がしたい」

「お金をもうけたい」

自己紹介で、ある人は大きな声で、ある人は言葉に詰まりながら、パソコンにかける思いを語った。

社会福祉法人「プロップ・ステーション」 (本部・神戸市)のコンピューターセミナーの風景だ。

プロップは「支柱」や「つっかえ棒」の意味。八年前、理事長の竹中ナミ(50)が設立した。神戸と大阪市に事務所がある。障害者を対象に、コンピューターやインターネットの使い方を教え、仕事を結びつける役割もしている。

「障害者は日本で、チャンスよりも保護の必要な人と見られてきた。でも可能性を秘め、働きたい人はたくさんいる。そんな人が働ける社会でないと、超高齢化も乗り切れへん」

思いは「障害者を納税者にできる日本に」というスローガンに集約される。

パソコンソフトの最大手「マイクロソフト」(東京)社長の成毛真(43)は、同社の基本ソフト「ウィンドウズ95」の発売直前に、雑誌で竹中のことを知った。発想のおもしろさにひかれ、プロップの個人会員になった。

成毛は二年前の社員総会に、竹中の紹介で全盲の大学生、細田和也(25)を招いた。細田は「ウィンドウズ95」の日本語版の問題点を語り始めた。「英語版は音声化ソフトを用いることで、入力した単語が音声となる。日本語版はその対応がほとんどできていない」

細田は盲学校時代からのパソコンの達人だ。マイクロソフトはその後、細田を契約社員に迎え、障害者や高齢者でも使えるウィンドウズの開発を進めている。

「ハンディキャップをもっている人のカとなれば、万人の力となれる」と、米国マイクロソフト会長のビル・ゲイツも一昨年夏、プロップの会報に特別寄稿をした。

昨秋、プロップは社会福祉法人になり、約三百人の後援会も結成された。会長は慶応幼稚会長の金子郁容(50)。大学教授、経済人、中央官庁の職員らが名を連ねる。アップルコンピュータ、NTT、NEC、マクロメディアなど約四十の企業や団体もソフトやセミナー会場の提供、仕事の発注などで活動を応援する。

支援者の一人で、ある省庁の現職課長は話す。
「彼女らは時代のトップランナー。行政はまねできない。でも、行政のやれることが逆にみえてくる」

チャレンジド。米国で障害者を意味する新語だ。「神に挑戦という使命を与えられた人たち」という意味だ。竹中は自分自身を、チャレンジドと社会の「つなぎ役」と位置づける。

二十六年前の長女の誕生。それが障害者問題に深くかかわる出発点だった。

(敬称略)

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