読売新聞 1999年5月14日 より転載

【視 点 ・直 言】

コンピューターシンポで "チャレンジド"の挑戦

〜全国に先駆け、パソコン講習会を開講〜

コンピューターネットワークを使って障害者の在宅雇用を図るシンポジウムが先日、神戸で開かれた。 「仕事を持ち、様々な社会活動に参画したい」と願う障害者。その実現の可能性を、コンピューターの進化が劇的に拡大しつつある現状に驚かされた。

社会福祉法人「プロップ・ステーション」(竹中ナミ代表)が開催したシンポ「GATSNNN(ガツン)!'99 夢はもう現実だ!」には、2日間で延べ約700人が参加。

同ステーションでは「チャレンジドを納税者にできる社会に」を合言葉に、1992年の設立以来、障害者などを対象にしたコンピューターセミナーを開催。延べ250人が受講し、約40人が企業のシステム開発やデザインなどの仕事に就いた。 (チャレンジド)とは障害者を意味する米語で、「ハンデを負った人」でなく「挑戦すべきものを与えられた人」という思いを込めた言葉だ。 シンポでは、脳性マヒや脊椎損傷などで体が不自由なメンバー6人のコンピューターグラフィックス作品が披露された。やわらかな色彩で描かれたメルヘン画あり、ざん新なコラージュ風の作品あり。

「真っすぐな線を引くことすら難しかった私が今、自分の中の小宇宙を思い通り描いている。半年前には考えられなかったことが現実に起きている」と、メンバーの1人は、表現できる喜びをかみしめるように語った。

絵画やデザインといった用途別のイラスト用ソフトを使えば、パソコン画面上の点と点をクリックするだけで直線や曲線が簡単に引けるし、絵の具や筆を使わなくても色を塗れる。メール交換によって、自宅のベッドの上で仕事の依頼を受けたり、リポートを提出したりすることも可能だ。

パネリストの専門家は「身体的ハンデによるパソコン操作上の悩みは、4、5年内にほぼ解決する」と断言する。趣旨に賛同して手弁当で参加した行政担当者らも「障害者などを対象に、パソコン研修や在宅就労のあっせんを行うキーステーションを設置する」(大阪府羽曳野市)など支援策を発表し、いずれも「働く意欲も能力もある人々を応援するのは当然」と話す。

竹中代表は「これは障害者にコンピューターを普及させる運動じゃない。障害という理由だけで、保護される側に閉じ込められていた人が、社会を支える側に回って誇りを持てるようになるための手段が、とりあえずコンピューターだった」と強調した。

最後に、チャレンジドの中村弘子さん(32)の言葉を紹介したい。「私たちに仕事を下さる方は、最初は社会貢献の気持ちからかもしれません。でも仕事を通じ、対等なパートナーと考えて下さる方が1人でも増えることを願っています。私たちは多くのことをあきらめてきましたが、納税者になることはまだあきらめていません」

(西田 朋子)

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