職リハネットワーク No.43(1999年1月号) (1999年1月発行) より転載

【巻頭言】

チャレンジドや高齢者が元気と誇りを持って働ける国に

社会福祉法人プロップ・ステーション 理事長  竹中 ナミ

誇り持ちパソコン仕事

プロップ・ステーション(略称プロップ)は、コンピュータと情報通信を活用してチャレンジドの自立と社会参画、特に就労の促進を目的に活動しています。「チャレンジド」というのは最近の米語で、障害をマイナスとのみとらえるのでなく、障害をもつゆえに体験するさまざまな事象を自分自身のため、あるいは社会のため、ポジティブに生かしていこう、という思いを込めた呼称です。

私は、自分が重症心身障害をもつ娘を授かったことをきっかけに、この25年間多くのチャレンジドに出会い、ともに活動してきましたが、娘が障害をもっていなければ私がこうした活動を始めることはなかったやろうなと思うと、娘も私も「チャレンジド」といえると思います。 プロップでは、全国各地の在宅チャレンジドがコンピュータを活用し「仕事人」を目指して勉強し、実力を身につけ、まだまだ少ない量ではあるものの在宅ワークに励んでいます。プロップの役割は、技術習得のセミナーを開催することと並行して、企業や行政から彼らの仕事を受注し、在宅でそれが行えるようコーディネイトする重要な部分を担っています。重度のチャレンジドが「何ができる人か」「どれくらいできる人か」を知らない企業が不安感を持たずに発注するためには、きちんとしたコーディネイト機関が介在し、その不安を取り除くことが必要です。また、「チャレンジドゆえに安く使われる」ということのない、価格の打ち合わせなども重要な役割です。

したがって、プロップでは、専従スタッフ以外にさまざまな仕事のプロフェッショナルたちがボランティアとして参画し、チャレンジドの実力アップを支援し、また適切な評価をくださっています。たいへんありがたいことだと思っています。

プロップのスローガンは「チャレンジドを納税者にできる日本」という「刺激的」なものですが、私は「日本という国は、いま、チャレンジドや高齢者の力を必要としている」という私なりの現実認識のもとに、あえて、こういう「誤解を受けやすい」スローガンを掲げました。高齢化した社会というのは、フルタイムで働ける人や残業もいとわない、という人が少なくなる社会です。そうした社会にあってなお、福祉的財源(人とお金)を維持していける国であるためには、「一人でも多くの人が"自分の身の丈に合った"働き方で支える」という構造に日本の国が変化しないともちません。

人間は誰でも弱い部分、苦手な部分を持っています。自分の力だけでは無理なところは素直に他人の助けを受け、自分が人より優れた部分は手を差し伸べる、という当たり前の人間関係から、チャレンジドや高齢者を省いてはあかんのちゃうか、と私は思います。「障害者や高齢者は弱い人たち」ではなく、「すべての人は弱いところと強いところを持っていて、一人ひとりその分量が違うので、サポートの必要量も違うんや」と私は思っています。

最近評判の「老人力」という言葉は、まさに同じ方向性を目指したものと感じられ、「そうや、そうや!」と心の中で拍手を送っている私です。

「働く」あるいは「働くことで誰かの役に立ちたい」という気持ちは、人間ならではの素晴らしい感覚です。日本が、チャレンジドや高齢者が元気と誇りを持って働ける社会になってほしい、と同時に、私の娘のような「働くというかたちで社会貢献できない人間」も、尊厳を持って存在できる国であってほしい!

そういう国にするために、自分もプロップの活動を通じて役立ちたい、と切に思う毎日です。

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