NEW MEDIA 1998年12月号 (1998年11月1日発売)より転載

【パネルディスカッション】

「マルチメディアで奏でる地方新時代」

パネリスト

  • 橋本大二郎 /高知県知事
  • 北川 正恭 /三重県知事
  • 増田 寛也 /岩手県知事
  • 残間里江子/(株)情報・空間デザイン代表取締役
  • 天野 昭 /月刊「ニューメディア」編集長(司会) 

県内サテライト会場出演

  • 木藤吉徳一郎 /山形村バッタリー村村長
  • 實吉 義正 /気仙沼地区広域交流会議会長
  • 村上 徳也 /水沢市民憲章推進協議会事務局長

海外サテライト会場出演

  • ピーター・ヴェッツラー
    ドイツラインラントプファルツ州立ルードヴィックスハーフェン経済大学
    東アジアセンター日本学科科長

このパネルディスカッションは、サミット会場と4ヵ所のサテライト会場を結んでおこなわれた。県内サテライト会場は水沢会場、陸前高田会場、それに大野村会場。海外はドイツのラインラントプファルツ州立ルードヴィックスハーフェン経済大学東アジアセンター会場。サミットの内容は、NTTマルチメディアカーから衛星を介してインターネットへ配信された。当初は岩手県車載地球局「銀河号」から衛星を使ってサミットの内容を全国の自治体、CATV局に配信する予定であったが、サミット前日の地震災害に対応するために「銀河号」は急遽、防災用途にまわされたために、自治体衛星放送、CATV放送は中止された。

天野
今日は地域情報化サミットにふさわしい3県知事に来て頂いています。まず、それぞれの県がどのような情報化をやっているのか、各知事から紹介していただきましょう。
増田

岩手県では、情報の理想郷「イーハトーブ・情報の森構想」を作りました。そこには「21世紀の岩手はどうなるの」という問いかけに、県民一人ひとりが夢を抱いて、それに向かって挑戦し達成出来る、自由で可能性に溢れた社会、そういう事が理念として謳われています。 具体的には、2000年までに何をする、2005年までに何をするかという短期・中期的な目標を立てて取り組みを進めることとしています。まず目標の一として、「生きがいを感じ、安心して暮らせる地域づくり」。代表例として川井村の「ゆいとりネット」という保険、医療ネットワークがあります。この村には寝たきりのお年寄りが、ざっと150名います。ここは典型的な過疎地域ですから、お医者さん1人、50人のヘルパーで医療サービスを提供し、なおかつその合間をぬって、パソコンを活用して、寝たきりのお年寄り150人の面倒を見るという事を行っています。

次は産業面。「いわてマルチメディアセンター」を盛岡駅脇のマリオス(ビル)に開設しました。ここに、自由にマルチメディアソフトの開発などを行う開放型のクリエイティブ環境を整備しています。
目標の三は、エコロジーの関係、環境の問題です。国連大学、NTT、岩手県が本県をフィールドとして、ネットワークを組んで、NTTが開発した最先端の水、大気、土壌などのセンサリング技術を応用したセンサーを県内に張り巡らすとともに、県内の約90の小・中学校の子供さんたちにも参加してもらってネットワークを作って行こうという計画があります。

目標の四は、「未来を開き、グローバルに活動する人材の育成」という事で、明日のシンポジウムにも参加して頂きます岩手県立大学の西沢先生や北川知事さんの三重県と共同して、情報環境の整備、これは放射状のネットワークをループ化して新たなネットワーク化を進めることとしています。

「情報生活維新」に取り組む

天野
次に橋本知事の方から高知県の状況についてレポートして頂きたいと思います。
橋本

高知は、東京や大阪という大きなマーケットから遠い。また県内に過疎地域が点在しているという距離のハンディキャップを数多く抱えた県ですから、距離の壁をなくしてしまう情報化に取り組まない手はないと思いました。

もう一つ、高知県も高知市に人口の40パーセントが一極集中していて、日本全国の国土構造と極めて似通っている。また、高齢化という点でも全国の平均を10年から15年先取りしている。そんな意味で、全国のモデル的な、縮図的な意味合いをもった県であります。 ですから、こうした県で、この情報化技術を使って何か新しい試みができたら、それは全国に通用するモデルになるのではないかと思いで、この情報化に取り組んでおります。「情報生活維新」という名前をつけているのですが、この名前をつけた所以もそういうところにあります。ただ、高知は非常に財政的にも厳しく民間の需要も弱いですから、そこで昨年度から2001年までの5年間の計画を立てて、その間に県もこれだけ投資をするので、民間の方も参加をして下さいという10のプロジェクトを作りました。NTTさんに幹線のネットワークを引いてもらいました。いま、土佐山田という大学のある町から、四万十川の下流の中村市まで、50メガの幹線のネットワークを敷いています。両端に高速の交換器ATMがありますが、これは県で整備をして、そこから支線をひいた11のアクセスポイントが今年の秋に完成します。具体的には保険、医療、福祉のネットワーク化ということが狙いです。

次に、教育ですが、これからは開かれたネットワーク型の情報化教育が大変必要になってくると思っています。もう一つは、地域開発。四万十川流域、この地域は高知市周辺から行きますと車で3、4時間かかる。つまり今全国でも最寄りの空港から、更に言えば、東京から最も遠い地域ということになります。それだけ距離のハンディキャップを抱えているわけですが、距離のハンディキャップを無くしてしまうのが情報化です。そういう不便な場所だからこそ自然が多く残されたという点もあります。そこで、多く残された自然を求めて来る人達が情報化の仕事が出来るような場所をつくろうというのが、このマルチメディア道場という発想で、メリヤス工場の跡地を使って、いろいろな施設整備をしています。

「デジタルコミュニティーズ構想」

北川

我が県が目指す「デジタルコミュニティーズ構想」について少しご説明します。

デジタルコミュニティーズ構想ですが、情報通信ネットワークを活用して21世紀の新しい自治体像を、複数の自治体が共同で作りあげていこうという構想で、単に地域の情報化をどのように行っていくかの問題提起ではなく、マルチメディアや情報通信を手段として地方の時代を切り開いていくための構想です。生活者を基点とした自治、自治体内の横断的プロジェクト、複数自治体の共同プロジェクトということで取り組んでいきたいと思っています。

次に、生活者を基点として、先ず行政情報のデジタル化によってインターネット等のマルチメディアを活用した行政の情報公開を進めることにより、市民と行政が情報を共有化して、パートナーシップの関係を実現する。インターネットに代表されるマルチメディアの発達によって、特にインターネットを利用することで、行政が自ら従来よりも簡単に多くの情報を公開することができます。

次に、複数自治体との共同プロジェクトですが、共通の課題、問題を抱えている複数の自治体が連携して共同のプロジェクトを推進することによって、単独実施による施策のリスクの回避や、効率を高め、施策の費用対効率を改善する。マルチメディアの活用によって、複数自治体の連携による共同プロジェクトの事業化が可能となります。

そこで、このデジタルコミュニティーズの事業のプランは、中国の経済特区に匹敵するような、デジタル特区をやってみたいと考えています。また、他の自治体とも連携をしながらやっていきたい。海外との自治体との交流ということで、ノースカロライナとのバーチャルユニバーシティ・プロジェクトとか、ティーンエージウォーカーズ・プロジェクト(Teenage Walkers Project)などもやらせて頂いて、本当の意味の分権社会、公開型の自治体を作っていこうという計画です。

日本を変える3人の知事

残間

日本の閉塞した状況を打ち破るには、様々な所で有利と不利が反転しなければ駄目だと思います。だから、マルチメディアを使うことで不利だったものをむしろ有利にチェンジする、プラスに転じる。

お三方の知事は個性的で、パワーそのものだと思います。3人の知事さんは、きっと日本を変える基軸になる3人なのではないかと、いつも思っています。

それぞれの県のマルチメディアに関する施策を拝見していても、医療とか教育とか福祉とか、非常に身近な所で応用されている。個人をどうやってこのマルチメディアを使って豊かにするかというのが、最終的な着地点だろうと思います。そういう意味ではお三方共、大変身近な施策をマルチメディアで展開しようとしており、期待が持てるなと思っています。

天野
三重県の北川知事の方からマルチメディアと産業について、簡単にコメントして頂けませんか。
北川
三重県は日本一大きな伊勢湾をもっているわけですが、昔は港がある所とか、川がある所、道路がある所、飛行場がある所が発達したわけですが、これからは、これに代わる情報スーパーハイウェイというマルチメディアがツールになって発達していくと思うのです。そこで、人づくり、地域づくりをマルチメディア、情報によってつくり直す手段とか、手法を的確に一番早く確立できた所が、一番産業も興りやすいと思っております。それを具体的に、私共は「三重産業振興ビジョン」にまとめて三重県にあった施策をやっていきたいと考えてます。
天野
増田知事、橋本知事も産業とマルチメディアということで、一言コメントをお願いします。
増田
岩手では、産業面で言えば、物づくりです。いわゆる物づくりの重要性についてもう一度考えてみたいと思います。その際、産業廃棄物をどう処理していくか。この問題について、岩手県ではきちっと対応して企業誘致を進めます。もう一つは、新産業の育成の部分です。今の会場地、小岩井のすぐ近くに盛岡西リサーチパークがついこの間出来上がりました。リサーチパークに必須なのは、マルチメディアのインフラ基盤。情報通信の基盤整備をしっかりやって、そこに良質の企業を誘致していきたいと思っています。
橋本
僕は別の視点から――。情報化というのは時間と距離の壁もなくしますが、産業、生活の壁も無くしてしまうのではないか。つまり、家で色々仕事が出来る。家にいて雇用の場が創造出来るというのが、情報化の大きなメリットだと思います。よくテレワーク、Small Office Home Office(SOHO)といわれいますが、こういうものを県でも今後具体化をしていきたい。子育て中のお母さんが家で資格を生かせる、パソコンの能力が生かせる、そんなシステムを作ることも、新しい産業というか、雇用の場の創出になるのではないかと思っています。

医療と福祉とマルチメディア

天野
大きなテーマとして、医療や福祉があると思います。岩手県は県土が広いために、多くの県立病院があります。増田知事にコメントをお願いします。
増田
全国的に見ると国公私立の医学部は、定員をこれからはぐっと抑制する。もうお医者さんは日本全国で充分に足りている、余っているということです。しかし、岩手県の状況は、盛岡とか内陸部の大きな都市は別ですが、沿岸部や山間部ではお医者さんをどう確保していくか大変苦労しています。首長さん方の仕事のかなり部分がそれに費やされています。岩手には県立病院がなんと28病院もある。それを大容量の光ケーブルで結べば、単なるX線の静止画の画像だけではなくて、動画が送れる。容量が大きければ、中央の病院が高精密画像で、地域の病院の実際の手術をサポートするとか、遠隔医療が可能となり、地方でのお医者さん不足の解消に役立つだろうと思います。
天野
橋本知事、北川知事、医療と福祉の関係で、コメントがあればどうぞ。
橋本
福祉の分野で、これから必要なるのはボランティアの手助けだと思います。今はボランティアの人もどこに自分を求めている人がいるのか、また、そのボランティアの手助けを求める人もどこに頼めばいいのか分からない。ネットワークにのったバーチャル・ボランティアセンターのようなものが、出来ていけば、例えば来週の水曜日、日中4時間か5時間家を空けなければいけないので手伝いをして欲しいということをパソコンの中に打ち込めば、ボランティアが見つかるというシステムが作れると思います。そういうことを是非やっていきたいと思っています。
北川
三重県も紀伊半島、これも日本一大きな半島で、和歌山県、奈良県、三重県、三つの県で構成しています。これは最も不便な所なのですけれど、3県力を合わせて遠隔医療を一緒にやろうということで、遠距離をマルチメディアを使い、3県が県境を越えて取り組んでいけばいいだろうと、具体的な作業が今始まっております。過疎の地域課題は、このネットワークによって解決出来るということを努力してやっていこうと考えております。

環境教育に積極的に取り組む

天野
教育とマルチメディアという点で橋本知事の方からご発言願います。
橋本
先程県内の教育機関を全部ネットワークで結ぶという話をしましたが、11月1日、ネットデーという日を設けて、高知工科大の学生が中心になって、小学校のインターネット接続の工事を皆ボランティアでやってもらおうと考えています。本県は53の市町村の内、35の市町村が過疎市町村ですので、それだけ子供の数も少ない。そういう子供達がネットワークで新しい授業が出来ないかと考えています。 もう一つ、これからは文字の読み書きではなくて、インターネットが活用できるか、コンピュータのリテラシィが分かるかということが、新しい識字率になってくるのではないか。そんな意味でコンピュータを使える子供を育てていきたいと思いますし、そのために県立高校の入試にもそんな科目が入れられるといいのでないかと思っております。
天野
それでは、「環境と生活とマルチメディア」ということで、増田知事、ご発言願います。
増田
結局、最後はやはり一人ひとりの人間が、自分のものとして考えることに尽きる。結局それは子供の時からの環境問題に対する意識の啓発といったところから掘り起こしていく必要があります。岩手県には優れた自然があると私共は理解していますが、岩手県のこうした環境という身体が、土壌、水質、大気等が健康体なのか、病気に罹り始めているのか、あるいは重病になっているのか、手術をしなければいけないのか、あるいはもう手遅れなのか、常に小学生のときからそういったことに触れさせることが必要です。ですから、今度県内の小中高等学校90校をネットワークで結んで、NTTの協力を頂き、センサリングの技術を使って、そうした情報を全部提供するという試みを行います。将来的には各家庭でも24時間、365日データを得られるようにします。「今これが危ない」と分かりやすく、見せることのできるネットワークをこのマルチメディアを利用して作っていきたいと思っています。
天野
三重県では四日市の公害などを克服し、それがノウハウになっていると思います。北川知事、環境と生活、マルチメディアという関係でご発言願えますか。
北川
先ず地方から国の施策を変えたというのは、ある意味で水俣であり四日市の産業公害を克服したことでした。国が遅れていたのを県が告発し、様々な対策をとり、官民協力したのは、NPOの始まりだと思いますが、そういったことで情報発信をし続けることによって、国の環境政策が変わってきたという実績があります。産業を移転することなく、25年かかりましたが、産業公害を克服した時には、公害というマイナーな言葉が環境という言葉になり、あるいはアメニティというようなメジャーな言葉に変わってきているという実体験がありますから、やはり情報を公開しながらリアルタイムに、本当にNPOの皆さんにもどんどんお見せしながら、行政をやっていくスタイルをとっていかないと、行政の信頼感は益々落ちていくだろうと思います。私が今一番心配しているのは、環境、あるいは産業廃棄物行政で、いたるところで告訴されたり、裁判ざたになっていることが、一番行政の信頼感を無くしておりますから、これを抜本的に変えることが出来たら、行政に再び信頼感が戻ってきます。

海外との交流を積極的に推進

天野
それでは県内のサテライト会場からのご発言をお願いしましょう。久慈・大野地区の情報センターにおられる木藤吉徳一郎(山形村バッタリー村村長)さん、どうぞ。
木藤吉
久慈広域地区は海があり、山があり、里があり、大変自然が豊富な地区です。それで、それらをよりよい発展を図るためにも、このマルチメディアを有効に活用するということは、大変意義があると思っております。
天野
實吉義正(気仙沼地区広域交流会会長)さん、どうぞ。
實吉
本来人間はアナログ的な部分で構成されています。機械を使うのはあくまでも我々人間です。機械とアナログ的な人間という部分との接点を見失わないで使っていける方法が、これから大事なのではないかという気がしました。
天野
水沢の村上徳也(水沢市民憲章推進協議会事務局長)さんです。
村上
水沢市のホームページが開設されます。それから、水沢市には今14ヵ国の約200名の外国の皆さんがおいでになっておりまして、大変活発に地域交流、国際交流が進んでおります。今日もこの会場にはアメリカからお客さんが来ています。 天野 それではドイツとつながっているようですので、ドイツからもご発言願います。 ピーター・ヴェッツラー (流暢な日本語で)ラインラントプファルツ州はドイツの南の地方で、ベルリンから560キロ、パリから580キロ、ヨーロッパの中心であるといえます。岩手県とラインラントプファルツ州との関係は、もう5年間続いています。二つの地域は似ています。ドイツの学生が盛岡市とか、その回りの人達によくされており、大変幸せです。今までも学生交流がありましたけれど、これからもビジネスマンの交流が出来ましたら、非常にお役にたつのではないかと思います。
天野
ありがとうございました。それでは、サミット会場に戻りましょう。

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