1%(ワンパーセント)クラブニュース No.44 1998 December (1998年11月発行)より転載

【いま、社会の一員として】

大阪府

─ 地域社会との共生をめざす企業と市民団体 ─

企業は社会の一員として、常に社会との接点を持ち、認知されなければ円滑な事業活動はできないでしょう。「企業は常に社会の一員として存在し、社会との共生なしには存在できない」。トップインタビューでしばしば語られた言葉です。

社会との共生をめざす企業の活動は、業種や事業形態などによって多様であり、個々の企業が存立する社会にも、地域の特性があります。今回から新しく始まるシリーズでは、『いま、社会の一員として』をテーマに取りあげました。日本のさまざまな地域に焦点をあてながら、地域社会に対する企業の貢献活動、市民団体と企業の連携などを、企業と市民団体、双方への取材を通してご紹介するものです。初回は関西。その経済的中心地である大阪にスポットをあてました。訪ねた企業は大阪ガスと関西電力。市民団体は両企業が連携する「国際交流クラブ」と「プロップ・ステーション」です。「国際交流クラブ」は堺市にある留学生支援のNPO。代表の麓(ふもと) 真知子さんに大阪ガスの「いきいき市民推進室」でお目にかかりました。「プロップ・ステーション」は理事長の竹中ナミさんに、コンピュータセミナーの会場でエネルギッシュな活躍を伺いました。

大阪には、企業と市民活動を繋ぐ先駆的な活動拠点「大阪ボランティア協会」があります。ここでは関西各企業の社会貢献担当者の相互研鑚や情報交換を目的に“フィランソロピー・リンクアップ・フォーラム”も開催しています。大阪ガス、関西電力は共にフォーラム発足時からの幹事会社。両社はともに公益性の高い企業であり、その事業特性から地域社会の一員としての自覚と活動は日常業務の一環として古くから実践されています。

今回は、大阪ガス「いきいき市民推進室」の活動を松井淳太郎室長に、関西電力の社会との共生をめざす活動を「地域共生本部」の絹川正明副部長に伺いました。企業の社会貢献活動と地域社会、NPOとの連携をお伝えできれば幸いです。

地域とともに歩む企業をめざす
大阪ガス(株)「いきいき市民推進室」の活動

大阪ガスはエネルギー供給の一端を担うきわめて公益性の高い企業です。事業活動すべてが市民生活に密着し、地域社会の一員としての自覚と行動が不可欠と考えています。このため、「地域とともに歩む企業」をめざす活動を日常業務の一環として、長年にわたり実践してきました。たとえば、地域行事への参加、地域の社会的要請に応えて福祉や環境保全を支援する活動です。これらは「地域協調活動」として、1970年代から各事業所に専門の担当を設けて継続した活動を行ってきました。

やがて、“もう少し自分の時間やお金を使ったかたちでボランティア活動を行っては”という気運が起こり、1981年の国際障害者年を契機として、社員によるボランティア活動『小さな灯』運動が始まったのです。事務局は営業部門の地域サービス室に置かれ、大阪ガスグループを含めて社内にある同好会やクラブとも連携して活動を行っていました。

地域社会や社員がともに共感できる活動を

1991年、これまで本社や各事業所で継続してきた「小さな灯」のボランティア活動を核に、より広い立場から積極的に実施すべく、「いきいき市民推進室」が人事部の中に設立されました。社内の各種同好会やクラブ、ボランティアサークル、OB会との連絡や連携、調整もより効果的に行えるようになりました。「いきいき市民推進室」の役割は、社員自らが主体的に地域活動・文化活動に取り組み、地域とのふれあいを深めていくための、環境づくりを推進すること。これに関わる社員の活動を支援することです。スタッフは松井室長を含めて7名。『地域社会に貢献し、地域・社員から共感が得られる企業グループ』を目標に力強い活動を推進しています。松井室長のお話の中で特に印象深かったのは、社内外との豊かで親密なネットワークの広がりでした。今では「100を超えるNPOに加え大阪ボランティア協会などの諸団体と連携を持っている」とのこと。これら社外NPOとの連携は「いきいき市民推進室」の設立後3〜4年で大きく広がっています。同室が推進する業務には、(1)地域(貢献)活動・文化活動へ取り組むきっかけと風土づくり (2)地域(貢献)活動・文化活動の深耕・支援 (3)社員の生活設計、相談サービスを行う“いきいきライフ相談センター”の3つがあり、それぞれに多様なプログラムが実施されています。今回は紙面の制約上、同社の活動に広がりと柔軟さと力強さを与えている『社内外ネットワークの構築と深耕』と、『小さな灯』運動に焦点を絞りながらご紹介しましょう。

豊かで多様な市民団体との連携

多様なNPOと連携を持つと言っても、大阪ガスも営利企業。何でも受け入れるわけではなく、それなりの選別はむろんあります。ただ、知らないNPOなどから「一度、説明に参上したい」といった申し出があるときに、頭から「あきまへん!」と言わずに、まず先方のお話を聞く。「おカネの支援が無理でも、チラシがあれば『ゆっぽ』というボランティア情報誌で紹介して社員の支援を呼びかける。我々の部署がダメでも、この部署に行って話せばうまくいくかもしれない。そういった繋ぎをいろいろします。我々はいわばボランティアセンターやコーディネーターとしての機能もあると思う」と、松井さん。後でご紹介する堺市の「国際交流クラブ」もおずおずとした最初の電話から交流が芽生えたもの。一歩踏み出す時の企業支援がNPOを大きく育てた実例でしょう。またこんな例を伺いました。社員が関わっていたある小さな劇団(カンパニー)。公演場所に困っていたこの劇団に北支社の跡地を提供し、社員ボランティアが公演の受付や裏方を手伝いました。共に汗を流して活動を重ねる内に、劇団は次第に実力をつけて成長し、今では千人規模の観客を動員するまでに育っています。86年から大阪ガスが開催している「ともしび子ども劇場」はこの劇団による公演です。このほか、数多くのイベントや行事が多くの市民団体と社員ボランティアとの協力・連携のもとに実施されています。同室を訪れるのは市民団体ばかりではありません。行政、企業、新聞社、教育機関、PTAなど、実にさまざまな人々が相談や依頼、情報、知恵、連携を求めて訪ねています。

広がるボランティア活動『小さな灯』運動

このように、さまざまな市民団体と連携した活動を展開するには、社内の各同好会やボランティアサークルとのネットワークが欠かせません。手話・点字・手芸などのサークル、各種同好会、事業所や関連部署、OB会、グループ企業など内部との深く強い絆づくりも重要です。いきいき市民推進室では、あなた(YOU)の一歩という意味を込めて情報誌『ゆっぽ』を発行しています。配布先は関連企業やOBの一部を含めた全社員。多様なボランティア情報や地域活動を知らせ、多くの社員が地域・文化活動に参加するよう呼びかけます。古くからボランティア活動を実践している同好会では、例えば野球部が児童福祉施設で子どもたちに野球を教え、マンドリンや合唱部は各種施設を訪ねて活動する。華道部はお年寄りにフラワーアレンジメントを、手芸部は子どもたちの教育用布絵本の作成など、自発的な活動を行っています。クラブの社員が横断的に連携して企画した活動も多く、活動内容はバラエティ豊かです。これらを企業として支え、地域や時代のニーズに合った企画を立案し推進するのも同室の役割です。

活動の分野は環境、高齢者・障害者支援、国際交流・国際支援、災害救助支援など多岐にわたりますが、「我々の活動はおカネをぱっと寄付したり、花火のように大きくドンと打ち上げるのではなく、汗と知恵を出しながら、地道に継続していくこと」、そして「必ず社員ボランティアが関わるのが特徴。企業と社員の力が重なり合ってこそ大きなエネルギーが生まれます」と、説明に力がこもりました。

『小さな灯』運動は主催、協賛を含めて年間150近くの行事があり、松井さんも「土日や就業後だけでも年間70〜80の行事に参加している」とのこと。行事のなかには募金活動もあります。御堂筋で行う恒例の古書バザーや社員、市民、関連会社からにの寄贈品を売るチャリティバザー。お香典返しに代えての寄付もあります。年間の募金額は約1千万円。募金は市民団体との共催プログラムやアフリカの子ども救済など、フィランソロピー活動、ボランティア活動に活用されています。 取材を終えて御堂筋界隈の地理を伺うと、手渡されたのが「船場浪漫マップ」と「大阪フィランソロピーウォーキングマップ」。 浪花ことばや建造物の由来・歴史も入り、実に良くできています。社員ボランティアが自分たちの町をもっと知ろうと、地域の協力を得て作成したもの。印刷費だけ会社が負担しました。「いきいき市民推進室」のいきいきした活動を見る思いでした。

暖かい信頼の輪を世界中に!「国際交流クラブ」

  「国際交流クラブ」代表の麓真知子さんは大阪府立大学の近くにお住まい。日頃、留学生たちが見知らぬ日本で勉学生活に困窮している様子に心を痛めていました。まず自分で出来ることからと、一人の留学生を支援してみると、同じ状況の留学生は余りにも多く、とても一人では無理。ご近所に呼びかけ、バザーで資金集めなどをして支援の輪を広げていきました。規模が大きくなると、資金調達が間に合わず経済的に厳しくなります。「なんとか企業から協力をもらえないだろうか…」、こんな思いから企業へ協力依頼を始めたのです。電話作戦で依頼を始めたものの、最初の一言でそっけなく扱われて終わり。見ず知らずの市民団体がいきなり電話で「協力のお願い」をしても、内容まではとても聞いてもらえません。そんな中で、堺市の大阪ガスに電話を入れると本社の「いきいき市民推進室」を紹介され、早速電話。すると活動内容をきちんと聞き、「面白そうですねえ。こちらにもプランがあるので、一緒にやりませんか」。初めての電話でそう言われ、「ホント、びっくりしましたヮ」、と麓さん。数日後、本社を訪ね、留学生の窮状を訴え支援を依頼しました。寄付という形の支援は難しいが、「私どもと一緒に『知ってますか?』というシリーズ勉強会を企画し、ここで留学生が自国を紹介してはどうか。些少ながら謝礼をだします」との提案。留学生にとって、大企業の会議室で社員と膝を交え自分の国を紹介する機会は貴重な体験です。謝礼のほかに、夕食のご馳走もあり、同社の国際交流に関心のある社員たちとも親しい交流が芽生えます。日本での最も思い出深い体験になっているこのセミナーは、毎月一人ずつで25回28名の留学生が招かれ、今も継続されています。

企業との交流から学んだ、最も大きな収穫は、企業や自治体に提出する企画書、申請書、報告書、財務諸表などのフォーマットや書き方。松井室長はじめ、スタッフの丁寧なアドバイスを受けて効率的かつ効果的な書類作成を習得しました。次は留学生が習得して、瞬く間に近畿一円に伝わり、日本社会との折衝などに大いに貢献しているとのこと。大阪ガスの支援を契機に、「国際交流クラブ」の活動も大きく広がりました。会員数は現在120名ほど、留学生は家族を含めると数百名の規模です。クラブの活動は16部門に別れ全て独立採算制。各部門から20名の運営委員が集まって全体の活動方針や連絡を行います。資金集めのチャリティーバザーには大阪ガスからの支援物資が「ダンボールにつめて何箱も届き、びっくり。私どもの大きな味方です」。松井さんは、「私どもには、関連企業をはじめ各方面から役立ててほしいと、さまざまな品物が届きます。効果的に活用して志を活かすのが役目。国際交流クラブの留学生たちも我々のイベントに大勢で参加し協力してくれます。お互いに連携してプラスになれば」と、市民団体との連携の有用性を話されました。堺市の「国際交流クラブ」は近畿一円の留学生との交流を持つ市民団体として、留学生はもちろん、地域社会からも高く評価されています。草の根の市民団体が一歩踏み出すときの、柔軟な企業支援は活力ある社会づくりの一助と言えるでしょう。

地域社会との共生をめざす
関西電力(株)地域共生本部の活動

関西電力が行う社会貢献活動は地域共生本部にある地域共生グループが担当です。同本部は、「共感を重視する経営」の経営理念のもとに、企業活動のあらゆる側面でお客様や地域社会との「共生・共感」の具現化をめざし、全社的に方向づける部門として1993年に発足しました。その活動は従業員啓発、広聴活動、組織間調整、地域振興、社会貢献活動など多岐にわたっています。絹川正明地域共生本部副部長は部門発足の一年前、人事異動で本社の課長にと呼ばれ、社会貢献特命課長の任命を受けました。それがボランティアの担当課長と聞いた時に、「こんなつまらない仕事をさせて!」と思ったそうです。青森、富山、姫路と電力事業の第一線を歩いてきた絹川さんは、「ボランティアやる暇があったら仕事せぇ!」と言っていたタイプ。「当時は正直言って、ボランティアやっている人間は少し変わった人やと思ってました。一般のサラリーマンと同じ感覚だったのですね」。「まあ3年の辛抱かな」との思いに反して、今年で6年目。当初は気乗りしなかった仕事でしたが、初めて参加したボランティア活動の鮮烈な体験に、企業と異なる社会にもう一つの軸足を持つ大切さを実感しました。また、大阪ボランティア協会で開催される企業の社会貢献担当者の勉強会「リンクアップフォーラム」にも積極的に参加。会社の外で培うネットワークの重要性も認識したと言います。今では、関西電力の社会貢献といえば絹川副部長と、社内外で高い評価の活躍をされるお一人。ここでは、「企業の社会貢献とNPOの関係」について、絹川副部長のお話を中心にまとめました。

地域共生活動はフィランソロピー + 3S

関西電力では電気を使うお客様と地域社会はイコールの関係と位置づけています。発電所、変電所、配電、送電、などすべての部署は面として地域社会と密接な関係があり、地域への貢献活動は、それぞれの事業部署で日常的に実践されていました。地域を大切にするマインドは全社の各セクションにいきわたっていたと言えるでしょう。関西電力の企業風土から考えると、企業の行う「社会貢献活動」は、「地域共生」という言葉で表現する方が受け入れやすい名称でした。一般的に企業の社会貢献活動は寄付と、自主プログラム、社員のボランティア活動支援の三本柱。しかし関西電力が進めている地域共生活動は更に深い意味があると絹川さんは言います。なぜなら、地域共生活動は社会貢献活動と企業の社会的責任を一体のものとして進めるもの。「必ずしも社会に対する満足を高めるだけでなく、お客様の満足を高め、従業員が生き甲斐をもって働き、さらに社会参加していく視点、即ちSS(社会の満足)CS (お客様の満足) ES (従業員の満足) の3S(満足)を高める活動。社会貢献は本業から離れたものではなく、もっと本業と一体となってやっていくもの。新しい形の企業の社会的責任というものではないか」と絹川さん。

地域共生本部は経営の中枢に影響を与える存在

企業の中で社会貢献を担当する部署はいずれも小規模で、それだけに組織の中で浮き上っては何もできません。組織全体にどのくらいの影響力を与える存在かが重要です。社会の中で実験的、先駆的に多様な活動を行うNPOについても、担当部門だけで評価するのではなく、社内の大きな委員会などで、企業とNPOの関係性をきちっと位置づけていく。経営にどれだけコミットしていかれるかが問われます。しかし、いきなりNPOだNGOだと言っても大抵の企業では通用しません。社内で理解できるよう説明するのも担当ラインの役目。関西電力では21世紀にむけた企業のチャレンジプランを作成しています。この中で、絹川さんは「これからの日本社会の中では、NPOやNGOの存在は非常に大きなものになるはず。市民団体と企業との関係性をきっちりと位置づけていくのも地域共生本部の役割」と、現在6部門合同の委員会をつくりNPOの現状把握からパートナーシップのあり方まで、幅広く調査・研究を行っています。NPOやボランティア団体が地域社会の中で大きな存在になり、有力なステークホルダーであること、関西だけでも和歌山県に匹敵するボランティア人口があるなど、社内で理解を求めやすい説明を心がけています。

このプランは1年がかりで、全社的見地で推進するもの。社外のさまざまな組織、個人とのネットワークと共に、社内各部門に対する方向性の明示とリーダーシップなど企業人としての力量が問われます。

21世紀に誇れる高齢者福祉施設の設立

関西電力は1999年11月竣工予定で、高齢者福祉施設の建築を進めています。この施設は、特別養護老人ホーム、老人保健施設、ケアハウス、在宅介護支援センター、など高齢者福祉をすべて網羅したかたちの大がかりなもの。いわば一つの街づくりにあたります。阪神・淡路大震災で崩壊した従業員向け福利厚生施設跡地の有効活用を図るため、地域密着型企業として、社会貢献・地域共生の観点から、高齢社会に向けて老人福祉の向上に寄与しようと設立するものです。

絹川さんは県行政との窓口を引き受けるとともに、プランづくりにも積極的に関与。「このプランのコンセプトは『環境共生』『市民参加』、それからさまざまな人々をつなぐ『ヒューマンネットワーク』の三本柱です。新機軸がたくさんありますが、アイデアの多くをNPOやボランティア団体からいただきました。例えばコンピュータの活用で障害者の就労を進める「プロップ・ステーション」(活動内容は次章で紹介)からは、施設でのワープロやパソコン教室の講師に車いすのメンバーを、高齢者介護ボランティア団体からは「福祉用具リサイクル工房」の設置を、環境団体からは雨水利用や生ゴミなどの処理システムを、と言った具合。これ以外にも施設運営をバックアップするボランティア団体が新しく結成されるなど、夢は実現にむけて大きくひろがっていました。絹川さんは演芸同好会の代表で、時には落語や漫才の相方、司会もつとめます。関西では「これはおもしろい人間やなと感じると異質なもの、正反対なものも、取り込んでしまう度量と言うか、余裕がある。企業とNPOの関係にもいえると思います。関西のお笑いに通じているのかな?」。懐の深い関西文化を明快に説明していただいたインタビューでした。

チャレンジド(障害者)を納税者に!
 「プロップ・ステーション」の挑戦

プロップ・ステーションはコンピュータとインターネットを媒体として障害者の自立にむけた就労を支援するNPOです。プロップとは「支え合う」という意味。またプロップ・ステーションでは障害者を『神様から挑戦すべきことを与えられた人』と言う意味を込めて『チャレンジド』と呼んでいます。代表の竹中ナミさんは、通称ナミねぇと呼ばれるパワー溢れる女性。一人娘が重度心身障害者であったことをきっかけに、20年以上にわたって各種のボランティア活動に携わりました。そして1991年、障害を持つ人、持たない人が力を合わせて生きていける社会の創造を願って、大阪ボランティア協会内に机を一つ置かせてもらったのが組織の出発。「大阪ボランティア協会は知名度が高く、そこに机があるだけで信頼していただける。すごく大きなメリットでした」と竹中さん。立ち上げ時のアンケートに「コンピュータが武器になる」と答えたチャレンジドが多数だったことから、コンピュータとネットワークが活動の柱になりました。プロップの活動の第一はチャレンジドと高齢者を対象としたコンピュータセミナー。取材日はIBM大阪システムプラザでの「インターネットホームページの制作」。生憎の雨の中、定刻六時半には車いすの方々や高齢者で教室は満席、活気に溢れていました。講師は松下情報システムの岡善博氏、助手はチャレンジドの岡村さん。ポリオの後遺症で使えない両手の代わりに、足で器用にマウスを操作しての熱心な指導ぶり。とても印象的でした。プロップのセミナーはいつも晩です。理由は、プロのコンピュータ技術者に来ていだたくには、仕事後でないと無理だから。「ボランティアをお願いするには、相手が来やすい状況を作ることが原則。それと無償の行為には、何かそこで達成感が得られないと続かない。プロップがセミナーを始めたのはバブルあと。丁度SEの方々も会社以外に何かを求めていた時代だったのかもしれません。スキルが活かせる場があると、スゴイ人たちが集まってくださった。来やすい時間帯で、コンピュータで、“えっ!こんな人たちが出来るの!!”と思っているチャレンジドがぐんぐん伸びていく。教える意欲が湧いて先生も燃え、チャレンジドも必死でついていきました」。初期の受講生チャレンジドが今では講師を務め、企業からの仕事も請け負います。

竹中ナミさんは、「何かしたいと思うと、そういう人が必ず現れる。すごく人に恵まれている」と言います。セミナーでパソコンが必要だった時は、アップル社に関わるボランティア氏の紹介で、5台の依頼に、間違って10台の寄贈を受けました。必要なときに、企業人、自治体や官庁、大学教授など多くの支援者が現れています。マイクロソフト社の成毛真社長もプロップ応援団のお一人。同社にはチャレンジドが在宅社員として2名採用され活躍しています。関西電力の絹川副部長は、同社の記念事業のひとつとして行われた「電気と夢」のテーマ作文にコンピュータ・グラフィックで絵を描く仕事をプロップに依頼。作品は創造力溢れる見事な出来栄え。主催した関西電力もチャレンジドの参加を通じて、企業の社会的評価を高めました。今はNTTのホームページ「ハローボランティア」の中で「チャレンジドの夢」というリレーエッセイとイラストも担当して、新しい仕事に燃えています。

企業との良き関係づくりの秘訣は、「過剰な期待をしない。自分の力量の範囲でしか仕事を引き受けない。超えたらコケますから。支援してほしいとは言わず、“こんな活動をしているなら支援してみようか”と企業が思う活動をするのが先」と明快です。「恵まれた運を逃さないためには、常にアンテナを張り時代の要請を敏感にキャッチする。NPOは企画が勝負、つまらなければ自然淘汰される。世の中に選ばれるのがNPOですから」。 プロップは今年、社会福祉法人となりました。チャレンジドを納税者に!、理事長竹中ナミさんのエネルギッシュな活躍はまだまだ続きそうです。

(取材・文責 青木孝子)

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