ASAhIパソコン 1998年11月15日号 (1998年10月29日発売)より転載

【ハンディキャップ】

障害者雇用率90%の大企業とは!?

中和 正彦

8月8日〜9日、神戸で「チャレンジド・ジャパン・フォーラム(CJF)国際会議」が開催された。

CJFは「チャレンジド(障害者)がコンピュータ&ネットワークを用いて社会参加する新しい社会システム作り」をテーマとする。2年前、チャレンジドの就労を支援するNPO「プロップ・ステーション」と、その活動に共鳴した官僚、企業人、学者、障害者などの有志が核になって発足した。その後、彼らの活動が刺激の一つになって、各地に障害者の就労を支援する活動や、それに呼応した行政や企業の動きが生まれている。

4回目の今回のイベントは、その「新しい社会システム作り」の機運をさらに盛り上げるべく開催され、海外の事例が紹介された。中でも来場者の注目を集めたのは、社長自らが来日して語ったスウェーデンの企業、サムハルの事例だった。

サムハルは従業員数3万2000人を擁する国営の企業グループで、従業員数では国内7位の大企業。ボルボ、エリクソン、IBMなどの世界的企業と取引関係を持っていて、それらからさまざまな業務を請け負い、さらに家具などのオリジナル製品の製造やレストラン経営などのサービス業にも進出。障害者の適性に合わせた業務を手広く行っている。

注目すべきは、同社が障害者の就労の受け皿として設立された国策企業で、全従業員の90%が何らかの障害を持つ(アルコール中毒者なども含む)こと。さらに、障害に応じて仕事ができる環境を整えることで企業としての生産性が低くなる分は、国が補助金を出して補っていることだ。それによって、生活に必要な最低賃金を保障するとともに、全従業員がパソコンを使って生産性の向上を図れるようにするなどの環境整備をしている。

イェルハルド・ラーション社長は、サムハルが福祉施設ではなく営利企業の道を選択した理由を、次のように語った。

「障害者の自尊心の問題として、保護ではなく賃金を得ること、納税して社会を支える側に回ることが重要なのです」

では、このような特異な企業を、市場や社会はどう受け入れているのか。

「産業界には、サムハルが市場価格で取引する企業であることを示すことによって受け入れられました。また、技能を身につけた障害者を一般企業に受け入れてもらい、『障害者が積極的に働くことはいいことだ』という理解を広めたことで受け入れられました。納税者には、サムハルに一定の補助金を出す方が、障害者に就労の機会を与えずに、国が全面的に保護するよりも、安くつくことによって受け入れられました」

サムハルのやり方がそのまま日本で可能かどうかはわからない。しかし、就労意欲はあるのに、一般の雇用の枠組みからはじかれてしまう障害者が非常に多いのは、日本も同じ。この事例は、その受け皿となる仕組みを作りうることを強く示唆している。

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