産経新聞 1998年10月26日より転載

かがやけ関西!

あらゆる人にやさしい街を

関西だからできる斬新な実験


プロップ・ステーション・代表
竹中ナミさん

駅を“支え合う社会”の象徴に


おんなの目で大阪の街を創る会・副代表
小山琴子さん

障害を持つ人や高齢者の生活に障害となるものをなくそう、というバリアフリーの発想が、まちづくりの中で求められている。スロープ設置などハード面と同時に、意識改革も重要な課題。「かがやけ関西! 100人提言」に登場していただいた竹中ナミさんと、「提案します」でアイデアを披露してくれた小山琴子さんに、弱者にやさしい社会について話し合ってもらった。

(山田桂子)

提案します 「対談」

わが身の問題

小山
私たちは大阪市の地下鉄全駅、計111駅での、お年寄りや障害者向けの対策を調べたのですが、きっかけは高齢の会員の「地下鉄は階段がキツイ。不便でもバスを使う」という一言。バリアフリー問題が一挙にわが身のことになったんです。私たちもいずれ年を取り、障害者にもなり得るんやと。
竹中
プロップ・ステーションでは障害者をチャレンジド(挑戦すべきものを与えられた人)とよぶのですが、外出しにくい彼らがパソコンを武器に在宅で仕事ができる社会を確立しようというのが私たちの活動です。その基にあるのも、そういう社会は障害者だけでなく高齢者や子供を抱える主婦の可能性をも広げるという信念です。
小山
高齢者や障害者に優しい街や社会というのは、あらゆる人間に優しい。そんな支え合う社会の象徴として、駅を地域のコミュニケーションスペースにしたい。だれもが心地よく使え、単なる通過点でなく人同士が触れ合う場。駅を自分の財産と考え大切にする心が大前提ですけど。

官民の関係

小山
いろいろと改善を要求してはいますが、全国9都市にある地下鉄のなかで大阪は一番進んでいます。だから今後は他都市に向けて取り組みを発信したい。それに、私たちのような主婦集団を市交通局が交通モニターに採用してくれるなど、これまでは市民活動が成熟していなくて成立しなかった行政とのパートナーシップが、関西で生まれつつあると感じます。
竹中
産官が市民活動と共同作業する関係はもっと増えるはず。今は過渡期でしょうね。
小山
手ごたえはすごく感じます。ある駅でエレベーターを設置したら新たな段差に生じたのですが、そこの駅長さんは駅独自の裁量ですぐに直してくれたんです。駅長さんも役所も私たちも駅や街を快適にという目的は同じ。現状を変えたいのに制度に縛られると悩む行政担当者も多いようです。
竹中
だからこそ私たちのような市民や団体の提案が重要なんですね。私、官民協力のキーワードは「おもろい」「だれもやってへん」やと思う。私たちは、こういう問題があるけどこう解決できる。行政や企業はこういう援助ができますよと楽しい斬新(ざんしん)なイデアを発信する「実験プラント」。新しいもの好きで積極的な関西だからみんな協力的でしょ。チャレンジドの間では「新しい風は西から吹く」と言われるんですよ。

多様な関係を

竹中
小山さんたちのような活動でチャレンジドが外出しやすい環境を整えてもらえるのはとても心強いですね。というのは、パソコンがあるからかえって、彼らを内に閉じこめてしまう危険性もあるんですよ。「チャレンジドを納税者に」という私たちのスローガンも、障害があっても社会を支える人間になれる、外へ目を向けようという彼らの訴えなんです。
小山
プロップのすごいところは、障害を持つ人自身が発信していること。ボランティアの活動にはやはり限界があるんです。ある新型券売機の試用で、私たちはボタンの配置など便利だと思ったのに、日常車いすを使う人に蛍光灯の反射で文字が見えないと指摘されたんです。私たちは無意識に姿勢を変えていたのね。疑似体験の落とし穴です。生の声を聞くことの重要性を痛感しました。
竹中
そういう「障害者に直接聞く」という関係、これまでなかった。「障害者と健常者が同じように暮らす社会こそノーマルだ」とするノーマライゼーションは、多様な関係を築く課程で生まれるんだと思うんです。私の娘は、重症心身障害で介護なしでは暮らせないんですね。一方プロップには足でパソコンを使い健常者に教える人や、小学生ボランティアがいる。そういう多様な人間関係が当たり前になって初めて、私の娘のような存在も尊厳をもって受け止められる社会になるのだと思います。

情報の発信

小山
私たちの活動の1番のネックが、持っている情報を発信するすべがないということです。市交通局への提言などでフィードバックはしますが、直接高齢者などの所に届かないでしょう。なんとか生きた形で情報を提供したい。
竹中
それならやはり、コンピューター。チャレンジドに委託してホームページを作ってもらうとか、彼らを講師に講習を受け、小山さんたちご自身で作るという企画はいかがですか。チャレンジドにとっても貴重な地下鉄のバリアフリー情報を得るチャンスですから、こういう交流はやりがいがあります。
小山
自分たちが集めたデータをいかに必要として人に届けるか。情報発信も、これからの市民活動の課題ですね。プロップ・ステーションからそんなノウハウを吸収できればいいですね。
おんなの目で大阪の街を創る会
平成5年に設立。大阪市営地下鉄の駅でバリアフリー度を調査。OSAKA NPOアワード'97受賞。活動紹介ビデオ「わたしが動けば街が変わる」を作成。
プロップ・ステーション
パソコン講座を通じて障害者の就労や社会参加を目指し、平成3年設立。インターネットでも情報を発信。アドレスは「http://www.prop.or.jp」。

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